2009年12月08日 20:09:59
映画「イングロリアス・バスターズ」を、劇場で六日前に見てきました。
2009年の映画で、監督・脚本はクエンティン・タランティーノです。
第二次世界大戦のナチス・ドイツ物のフィクション映画ですが楽しめました。
以下、ストーリーありの感想です。
● 主役はバスターズ……ではない
さて、この映画のタイトルは「イングロリアス・バスターズ」ですが、実はバスターズは主役ではありません。壮大な脇役。
たぶん、原作の「地獄のバスターズ」が下敷きになっているから、こうなっているのでしょうが、あくまでも下敷きで、本筋ではありません。たぶん、色々と弄っているうちに、脇に行ったのだろうなと思います。
でも、バスターズが切れているのは事実です。頭悪くて素晴らしい。
映画では、このバスターズの隊長役であるブラッド・ピットが、メイン・ビジュアルで売られています。これは、知名度の関係で仕方がないのだろうと思いました。でもまあ、ブラッド・ピットもよい仕事をしています。頭悪くて大活躍です。
このバスターズは、ユダヤ人で作られた、連合国のナチ狩り特殊部隊です。
こいつらが、物凄く貧弱そうに見えます。マッチ棒みたいな、ひょろひょろの体型のやつらばかりです。
このバスターズには、二人ほど肉体派の人間がいます。
一人は、元ドイツ軍兵士で、ナチの将校を十三人狩った殺人鬼。バスターズが、牢獄を襲い、スカウトしました。
もう一人は、ユダヤの熊とあだ名される、頭のネジが少しはずれた、木製バットでナチを殴りまくって殺す男です。
このユダヤの熊を、イーライ・ロスが演じていました。私が少し前に見た「ホステル」(2005年)の監督です。
マッチョで、虚ろな目で、自分が野球選手だと勘違いした台詞をぶつぶつ呟きながら、ナチの頭を叩き潰していました。
● グロ・シーン
ブラッド・ピット演じるアルド・レイン中尉は、ナチの頭の皮を剥いで集めるのが趣味です。そのため映画は、グロいシーンが連発します。部下たちが、ナイフで、頭の皮を剥ぎまくるので。
たぶん、グロ耐性がない、こういったシーンが嫌いな人は、駄目だと思います。
私が映画館に行った際、帰り掛けに前を歩いていたカップルの女の子が、男の子に物凄い文句を言っていました。泣いて責めるような口調でした。
「いや、タランティーノだし、そんなの分かっているじゃん」と思いましたが、何の予備知識もなく、映画に来て、何か美しい物を見ようと思っていた人は怒るだろうなと思いました。
● 物語の基本は復讐譚
さて、バスターズが主役ではないのならば、主役は誰なのか?
それはこの映画の基本が復讐譚なので、復讐をする人間になります。それが、ショシャナという女の子です。
両親を、ユダヤ・ハンターと呼ばれるハンス・ランダ大佐に殺されて、フランスに逃げたけど、フランスまでナチスが攻めてきて、正面衝突することになったために、復讐に燃えて策を弄します。
映画は、いくつかのチャプターに分かれるのですが、その最初のいくつかは、もろにマカロニ・ウェスタンのノリです。
なので話は単純で、両親が殺される→親の仇に再会→復讐を決意→復讐の計画を進める→復讐を実行となります。
バスターズの話は、その周囲の衛星的なシナリオになります。なので、実は本筋ではありません。でもまあ、美味しいところを持って行きます。そして、独立したシナリオではなく、きちんと絡むようになっています。
あと、第二次大戦物なのに、全くと言っていいほど、戦車とか出て来ないです。基本的に、会話劇ばっかりの映画です。兵器や爆発を期待していくと、肩透かしを食うと思います。
● ツイストしまくるシナリオ
基本が非常にシンプルなシナリオで、映画の途中で全体の構図が示されます。そしてその後は、その道をたどっていくという物語進行になります。
つまり、答えと道が先に示されて、あとはその道を、ただなぞっていくだけという映画です。
では退屈かと言うと、そうはなりません。
どんどん話がツイストします。登場人物が予想もしなかった行動を取ったり、想定していなかったトラブルが起こったり、ともかく、「その道が真っ直ぐ進むとは思えない」状況が、次から次に起こって、どうなるのか分からなくなります。
「さすがに、そこから元の道に戻るのは不可能だろう〜〜!」という感じで、ハラハラドキドキします。
この、小ネタの連続による怒涛のツイストが圧巻でした。
こういうシナリオをやらせると、タランティーノは上手いなあと思いました。楽しかったです。
● 「ビンゴ〜!」ランダ大佐最高
映画には、主要な人物が三人出てきます。
主役の「復讐する女」であるショシャナ。脇役の一番重要人物である「連合国からの刺客」であるアルド・レイン中尉。ドイツ側の「ユダヤ・ハンター」ハンス・ランダ大佐です。
このランダ大佐が最高です。
ともかく切れる。
頭がよいという「切れる」だけでなく、演技も「切れて」いますし、発想のぶっ飛び具合も「切れて」います。切れまくり。
ネタバレになるので書きませんが、映画終盤の交渉なんかは、あまりの斜め上の提案で、「すげえぜランダ!」と思いました。
そりゃあ、レイン中尉もポカンとします。
この映画の中で、最高のキャラでした。オチも素晴らしかったですし。
● フィクションならではの、「映画でナチをぶっ倒す」シナリオ
この映画の物語は、映画好きのタランティーノらしく、「映画でナチをぶっ倒す」というシナリオです。
比喩でも何でもなく、物理攻撃として「映画で倒し」ます。二重、三重の意味で。
主役のショシャナは、フランスに逃げ込んだあと、親類の映画館を引き継ぎ、映画館経営をやっています。だから「映画」でナチを倒そうと決意します。
この映画館周りの描写は、「ニュー・シネマ・パラダイス」(1989年)などを思い出して、「おお〜」と思いました。
そして、この「映画攻撃」には、フィクションならではの結末が用意されています。いわゆる架空戦記物です。
このくだりは、痛快娯楽作になっていて、よかったです。
● 言語ネタ
以下、本筋には関係ない、表現上の遊びとか、登場人物に関する感想などを書いていこうと思います。
まずは「言語ネタ」です。
この映画は、アメリカ映画には珍しく、いろんな国の言葉が飛び交います。まあ、ヨーロッパが舞台の戦争映画なので、本当は当たり前と言えば、当たり前なのですが。
そういった部分のメタ・ネタが、いきなり映画の冒頭シーンに入ります。
ユダヤ人をかくまっている男性の許に、ランダ大佐が来て話をします。しばらく話をしたあと、「君は英語も話せるね。私も英語を話せる。慣れない言葉ではなく、英語で話をしようではないか」と英語で話を始めます。
そして、字幕(アメリカでの字幕)がなくなります。
これには、吹きました。事前に言語のメタ・ネタがあるという話を聞いていたので、これかと思いました。
でも、これは、単なるネタではなく、ストーリー上きちんと意味を持っていたのが、上手いなと思いました。
英語で話すことで、匿われているユダヤ人に、会話の内容が分からなくなるのです。ネタのためのネタではなく、きちんと物語のギミックになっている。
こういった部分でもツイストを仕掛けてくるのは、丁寧な仕事だなと感心しました。
● 少年マンガ的回想シーン
映画には、少年マンガ的回想シーンが入ります。
あるキャラが登場した時に、短い時間で過去のエピソードを挿入して、そいつの凄さを観客に伝えて、登場を演出するという奴です。
あまり映画的な手法ではありません。少年ジャンプなどで、よく見る演出です。
バスターズの紹介で、こういった手法が利用されていました。
これは、マンガ的な演出なんだろうなと思いました。
● 女優が格好いい
映画中には、ドイツ人でありながら、連合国に協力するトップ女優が出てきます。
彼女がよかったです。
映画の主人公のショシャナは、復讐を誓っているだけで、自分の意思で人生を選んだわけではありません。復讐は、ある意味成り行きで、外的要因で進み道が刈り取られているだけですので。
対して彼女は、自分の地位や安定を危険にさらして、自分のなすべきことを自分で決断しています。そして、苦境に立っても、強い意志でその行動を完遂します。
格好いいなと思いました。
好みはあるでしょうが、私は主役のショシャナよりも、こちらの女優のブリジットの方に好感を持ちました。
● 空気を読めない男
映画には、ドイツの狙撃兵で、大量の狙撃により映画化されて、主役を自分で演じた若者が出てきます。
こいつが空気の読めない男で、主役のショシャナに延々とアタックを仕掛けます。非常にうざいです。何というか、親指の腹でギリギリと押しつぶしたくなるようなうざさです。最後は本性を出してくるし。
人間、変に祭り上げられると、こんな風になってしまうのかなと思いました。本当に、空気が読めていなかったですので。
● 粗筋
以下、粗筋です(終盤の直前まで書いています。細部は書いていないので、あまりネタバレ的な感じではないと思います。細部が大切な映画なので)。
第二次大戦下のドイツ。ユダヤ・ハンターの異名を取るランダ大佐は、ある家に行き、匿われているユダヤ人家族を探し出して殺した。その時、一人の女の子が逃げ出した。
戦争が進み、連合国は、バスターズという、ユダヤ人で構成されたナチス狩りの部隊をヨーロッパに投入した。レイン中尉率いるその部隊は、ナチスを恐怖のどん底に陥れた。
ユダヤ・ハンターの手から逃げ出した女の子は、フランスに逃げ込み、親類の映画館を継いだ。彼女はユダヤ人であることを隠していた。フランスはドイツに占領され、街にはドイツ兵が溢れていた。
ある日、彼女は一人のドイツ兵に告白される。ドイツ兵が憎い彼女は、迷惑に思いながらも、生命を守るために、強くは突っぱねることができない。そのことを、脈ありと勘違いしたドイツ兵は、猛烈なアタックをかけ始める。
ドイツ兵は狙撃兵で、大量の連合国の兵士を殺したことで、映画化され、自分でその主役を演じていた。
映画人だから、映画館のオーナーである主人公に好かれるはずだと勘違いしたドイツ兵は、その映画の総指揮であるゲッベルスに頼んで、その映画のプレミアム公開を、彼女の映画館で行うようにしてもらう。
彼女は、その話し合いの場に引きずり出される。そこに、ランダ大佐が現れた。彼は、主人公のことを覚えていなかったが、彼女は忘れていなかった。
そのプレミアム試写会には、ドイツの高官が勢ぞろいするという。主人公は、それが復讐の千載一遇のチャンスだと知る。自分の映画館にドイツの高官を閉じ込めて皆殺しにする。彼女は、そのための準備を始める。
またその頃、プレミアム試写会の情報を入手した連合国は、バスターズを使って、ドイツの高官を一網打尽にする作戦を開始させる。
そして、プレミアム上映会にヒトラーの参加も決まり、当日を迎えることになった……。
● まとめ
傑作かと問われれば、傑作ではないです。
でも、楽しめました。面白かったです。
グロい描写なども含めて、万人受けする映画ではないですが、こういった映画が好きな人は、見ると楽しいです。私は楽しめました。