シルク・ドゥ・ソレイユの演目「ZED」を、十月中旬に見てきました。
2008年オープンの常設劇場「シルク・ドゥ・ソレイユ シアター東京」にて公演している演目です。
作・演出はフランソワ・ジラール。ディレクター・オブ・クリエイションはリン・トランブレーです。
□シルク・ドゥ・ソレイユ シアター東京「ZED」オフィシャルホームページ
http://www.zed.co.jp/home.php□Wikipedia - シルク・ドゥ・ソレイユ
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82...
シルク・ドゥ・ソレイユは、妹がファンで、日本に来るたび行っていたのですが、私は未見でした。
せっかく関東にいることだし、常設劇場もできたので見てこようと思い、見てきました。
やばい。凄い。これは人類なら誰でも「凄い」と思う。
なぜなら、人間が共通で持っている「肉体」で、「ここまで出来るのか!」という果ての果てを見せてくれるから。
「えっ、人間って、こんな動きできたの?」という、度肝を抜かれます。凄かったです。
● ウリは「ストーリー」ではなく「生身の人間の肉体と技術」
「ZED」を見た印象は、映画というよりはミュージカルです。それも、ストーリーがほとんどないタイプのそれです。
これまで見た中で、一番近かったのは、劇団四季の「CATS」です。「CATS」は、舞台と設定があって、あとは歌と踊りです。「ZED」もこれに近く、舞台と設定があって、あとは肉体と技術がありました。
● 立体
さて、では「CATS」も含めた既存の出し物と「ZED」で、決定的に違うのは何か。
これは、「ZED」が始まって数分で分かります。「縦の動き」です。人間が、ワイヤーや紐や布などで、変幻自在に上下に縦横無尽に動きます。
舞台の天井までが、仕掛けたっぷりで、演者は「上下に動くこと前提」で、演目が組み立てられています。それも、多くの場合、自分の力で上下に動きます。機械とかではなく。
その中で、私が最も度肝を抜かれたのは、ソロ・ティシューという演技です。
何が凄いって、天井からぶら下がった布に絡まっているだけで、命綱もなしに、布に絡まって落下して布の端で止まったり、ふわふわ演技しているうちに、布の上までよじ登ったりして、まるで海を泳ぐ魚のように、空中にぶら下がった一枚の布に全てを預けて舞い続けます。
人間が、あんな風に空中で舞うことが──それも特別な装置を使わずに肉体だけで──できるなんて、想像だにしていませんでした。
舞台の進行では、たくさんのパフォーマーが出てくる場面と、ピンのパフォーマーが演じる場面があるのですが、この人の演技はピンでした。いや、ピンで十分です。目が離せないです。
これは一例ですが、ともかく、舞台進行には立体の動きがふんだんに取り入れられていました。そして、それに合わせて、天井がトランスフォームしたり、いろんなものが下りて来たりしました。
常設劇場の強みを、ここまで最大限に生かしている舞台も珍しいと思います。
ともかく、「人間である」ならば、誰もがその凄さがわかる演技が目白押しでした。
● 美術
舞台と衣装も素晴らしかったです。異形のファンタジー空間を作り出しています。
物語の設定自体が「異世界に迷い込む」という話なのですが、それを体現している美術でした。
派手で華やかで、クラシカルでメカニカルです。ルネッサンス時代とスチーム・パンクの世界が融合して、ド派手で極彩色になったような感じです。
これが、演目と相俟って、気持ちよかったです。
ただまあ、お土産ブースで同じような美術のアイテムが売っていたのですが、家に持って帰れる類のものではないなあと思いました。劇場で堪能するタイプのものです。それでよいのですが。
あと、舞台に関しては照明が難しいだろうなと思いました。
危険な演技も多いので、照明はかなり気を使うと思います。演者のミスの原因になるので。
ここらへんの話は、プログラムにはなかったので、チャンスがあったら、知りたいところです。
● 生演奏に生歌唱
始まってしばらく気付きませんでしたが、音楽は生演奏でした。歌も歌手が宙吊りとかで歌います。
プログラムを見ると、生演奏にこだわっているようです。「人間が演じる」というコンセプトのなかに、音楽も入っているようでした。
音楽もよかったです。時にスリリングに、時に美しく、舞台を盛り上げてくれました。
● 演者のレベルのばらつき
生もので、肉体を駆使した演技であるために、演者のレベルにばらつきがありました。これはまあ、演劇でも出来不出来が必ずあるようなので、そういうものだと思います。
ただ、見ていて「この人はレベルが頭抜けている」という人に関しては、出てきて演技を始めた瞬間に分かりました。
なんというか、演技が決まりすぎていて、何のブレも感じない。発しているオーラーも違います。出てきた瞬間に「格の違い」が、素人にも分かってしまう。そんな感じでした。
それでは、以下、各アクトの感想を書いていこうと思います。
□ZED - アクト
http://www.zed.co.jp/about_show/acts.php
● バトン
圧倒的な安定感。格が違う感じでした。
JIN役でバトンを回していた稲垣正司さんは、出演者中で唯一の日本人で、バトントワリング競技で世界チャンピオンに輝いたトップアスリートだそうです。
格が違うなあと感じたのも当然です。1995年17歳の時、世界選手権・男子個人シニア部門で優勝、以降2005年まで前人未到の11年連続優勝。世界選手権で獲得した金メダルの合計は史上最多の23個だそうです。
□Wikipedia - 稲垣正司
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A8... そりゃあ、圧倒的な安定感だと思いました。
● バンジー
バンジー・ジャンプの「バンジー」です。
空中から飛び降りて、びよんびよんとなるアレですが、これがアートになるんだと初めて知りました。
足に長い布のヒレを着けて、空中を舞う水の妖精のような人々が、宙を優雅に舞っていました。最初にこれを見て、「立体だ!」と驚きました。
● ラッソ
投げ輪。カーボーイのぐるぐる回す奴の大きいのです。縄跳びのように利用していました。ちょっと失敗していました。
● ソロ・ティシュー
先ほども書きましたが、ただただ凄かったです。優雅な演技の裏に、物凄い筋力と体力が使われているのだと思います。これは、生で見ないと凄さが分かりません。
● ハイ・ワイヤー
いわゆる綱渡り。でも、ただの綱渡りではなく、3人出てきて、綱渡りしている人を飛び越したり、上に乗ったり、一次元の紐の上で、立体演技をします。
「そこでも立体か!」と思いました。
基本的に「危なさ」を演出する演技続出で、見ていてこれだけは「心臓に悪いから早く終わってくれ〜〜」と思いました。ここだけ、優雅さではなく怖さが演出されていましたので。
たぶん、音楽の煽りが凄かったのも原因だと思います。
● バンキン
アクロバティックな組み体操(?)。人間で塔を作ったり、そんな感じでした。
● ストラップ
吊り革につかまって、空中をビューン、ビューンと振り子のように移動しながら、地上に絡んで演技をします。
ここは、割とストーリー仕立てでした。
● ハンド・トゥ・ハンド
男と女が一人ずつ出てきて、互いに肉体を絡ませあいながら、超低速で様々なポーズを取ります。
「シグルイ」を読んだことがある人なら、1巻で出てきた「練り」(ゆっくり素振り)を思い出してもらえるとよいです。
あれを、人間の肉体を使ってやるわけです。上の人も、下の人もひどく大変です。凄まじく地味なのですが、驚異的な集中力と筋力とバランス感覚が必要なのは分かる。
最も地味でしたが、凄かったです。
● フライング・トラピス
空中ブランコでした。
● クラウン
二人のクラウンが出てきます。二人とも、ユダヤ人アーティストのようです(二人ともイスラエルの人)。
この二人が、不思議な言葉をしゃべるのですが、これは、シルク・ドゥ・ソレイユで開発したシルク・ランゲージと言うそうです。
どういうものかと言うと、国籍のない、偽物言葉です。
どうしてそういうものを作っているかというと、世界各国を回って、言語に頼らない演技をするためだそうです。
面白かったのは、プログラムに書いてあった、この言葉の作り方です。シルク・ドゥ・ソレイユには、多くの国の人が集まっています。そのメンバーで、特定の意味を持たない言葉に聞こえるように、駄目出しをしまくるそうです。
なるほど、と思いました。意味がない言語にするのに、そういった方法を採っているのは、勉強になりました。
● 主人公ZED
いちおう主人公というか進行役はいるのですが、それほど明確な役目はありませんでした。
どちらかというと、クラウン二人の方が物語の視点でしたので。
でも、クラウンでは華がないので、こういったキャラを置いておいた方が、見た目的にも、広報的にも正解だろうなと思いました。
● 「シルク・ドゥ・ソレイユ シアター東京」と「東京ディズニーリゾート」
シルク・ドゥ・ソレイユ シアター東京は、東京ディズニーリゾートの中にありました。具体的には、東京ディズニーリゾートを抜けた先です。
しかしまあ、東京ディズニーリゾートは巨大ですね。もう、東京ディズニー区でいいんじゃないかと思いました。たぶん、税収のほとんどが、ここからでしょうし。
敷地内は、巨大なショッピング・モール兼文化施設になっていました。
週末のお出かけなんかは、とりあえずここに行けば済みそうな感じです。でもまあ、生活必需品は買えませんが。
● まとめ
ともかく、肉体と技術に感服でした。
毎日見たいと思うものではないですが、思い出したらまた見たいと思わせる、圧倒的なパワーがありました。
よかったです。
他の、シルク・ドゥ・ソレイユの演目も見たいなと思いました。