映画「3人のゴースト」のDVDを十月中旬に見ました。
1988年の作品で、監督はリチャード・ドナー、脚本は、ミッチェル・グレイザー他。主演はビル・マーレイです。
原題は「SCROOGED」。ディケンズの、「クリスマス・キャロル」を、現代設定で作ったクリスマス映画です。
監督のリチャード・ドナーは、「リーサル・ウェポン」(1987年)シリーズの監督です。近年は「X-メン」(2000)の製作総指揮などをしていて、今も活躍しているようです。
● ビル・マーレイの嫌味
「恋はデジャ・ブ」(1993年)でもそうでしたが、ビル・マーレイは、嫌味でいけ好かない役が本当に似合います。
映画は、冒頭、このビル・マーレイ演じる主人公がいかに嫌な奴かを描きます。テレビ局の社長で、視聴率しか頭になく、ケチで周囲を蔑み、他人の気持ちなど微塵も考えない奴です。
ビル・マーレイは、そういった役が本当にはまっています。だからこそ、映画の終盤の落差に繋がるわけで、こういった役者はある意味貴重だと思いました。
● 主人公の掘り下げ
冒頭で、テンプレートのような手法で、どれだけ主人公が嫌な奴かを描いたということは、物語の力学として、その後は「実はそうではない」という部分が執拗に描かれることになります。当然、この映画もその例に漏れません。
映画は、過去と現在と未来のゴーストに主人公が出会い、自分の人生の生き方を見つめなおすというものです。
「このままでは死んでしまう」と言われた主人公は、映画の中盤、過去のゴーストとともに、自分の半生をたどることになります。
そこで、主人公が、実は孤独な少年時代を過ごし、テレビしか友人のいない状態で、長じてテレビ局に入り、人が嫌がるような仕事も厭わず地道に努力して成功した姿が描かれます。
また、心優しい彼女がいたことがあり、でも仕事を選んだことで彼女と別れた過去も明かされます。
ここで観客は、主人公が血も涙もない人間ではなく、寂しさを抱え、努力と選択をしてきた血の通った人間なのだと気付きます。
そして主人公は、心優しいかつての恋人とも再開します。彼女は、恵まれない人のために、ボランティアをしていました。主人公は、彼女の行動に共感できません。そして「他人のためではなく、自分のために生きろ」と、彼女の生き方を否定します。主人公は、かつての恋人と、よりを戻せればと考えます。
続いて主人公は現代のゴーストに出会います。そして、現代で自分が冷たくしてきた人たちの、家庭での様子や現状を知ります。
既に過去のゴーストのくだりで、主人公が血の通った人間だと知った観客は、そこでの主人公の反応に共感します。主人公が、周囲の人間たちの姿に心を動かされることに理解を示します。
そして主人公は未来のゴーストに出会います。
● 決断の理由
主人公は、未来のゴーストに出会った結果、自分が孤独な死を迎えることを知ります。そして、いかに自分の人生が空しかったのかを実感します。
しかし、主人公が自分の人生を変えようと思うのは、そのことが原因ではありません。たぶん、主人公は、自分のことを冷めた目で見ているのだと思います。しょせん、自分はそういった死を迎えるだろうと、心の片隅で思っているのだと思います。
この主人公が心を変えるのは、愛する人の変貌した姿を見てしまうからです。
彼女は、主人公に「自分のために生きろ」と言われたことで、人生を180度変え、享楽の限りを尽くした人生を歩み始めていたのです。その姿を見て、主人公は衝撃を受けます。彼女は醜悪な人間に変貌していました。
主人公は、自分が愛していた女性が、自分の生き方のせいで失われてしまったことを知るのです。
主人公は、心優しい彼女を愛していたのです。
そして主人公は、自分のためではなく、かつての恋人の心を守るために、生き方を変えるのです。自分が築き上げてきた地位を全て崩してでも、彼女を──自分が愛した彼女のような心を持った人々を──守るために、生き方を変えようと決意するのです。
この決断の理由が、自分ではなく、他人のためというのがミソだなと思いました。
以下、映画のラストについてです。
● 語りかけ
あまりネタバレどうこうという映画ではないと思いますので、ラスト・シーンについても書きます。
映画のラストは、ビル・マーレイが観客に語りかけながら、観客と一緒にクリスマスの歌を合唱するという演出になっています。
「はい、右側の人、歌って!」とか、観客に語りかけます。
さすがに、ちょっとチャレンジし過ぎだろうと思いました。
実際、映画館で歌った人が、どれぐらいいるのか気になりました。DVDでは、……まあ、歌えないなと思いました。
● 粗筋
以下、粗筋です。
主人公はテレビ局の社長。彼は傲慢で有名だった。彼はクリスマス向け特番の製作をしていた。
ある日、彼は幽霊に会う。幽霊は、これからお前のところに三人のゴーストが来る。生き方を改めなければ、お前は死ぬという。主人公は、その瞬間は打ちのめされ、かつての恋人に電話をかけ、留守番電話にメッセージを残す。
夜が明けた。主人公は気にせず、クリスマス向け特番の製作を行う。そこに、かつての恋人が現れ、自分が幽霊に出会ったことを思い出す。
主人公は過去のゴーストに出会う。そして、孤独でテレビしか友人のいなかった子供時代や、一人こつこつと仕事をし続けていた平社員時代、かつての恋人との出会いと別れを追体験する。
主人公は、恋人に出会い、よりを戻そうとするが、彼女はボランティアに没頭していて我が身を省みない生活をしていた。
次に主人公は現在のゴーストに出会う。そして、自分が冷たくした人たちの家庭や現状を覗く。
最後に主人公は未来のゴーストに出会う。そして、自分の死と、彼女の変貌を知る。かつての恋人は、主人公の言葉に従い、他人を省みない人間になっていた。
現代に戻った主人公は、全てを改めようと決意する。そして、生放送のクリスマス特番に乗り込み、自分の思いを電波に乗せて、人々に届ける。