映画「ベルリン・天使の詩」のDVDを一月下旬に見ました。
1987年の西ドイツ・フランス映画で、監督・脚本はヴィム・ヴェンダース、主演はブルーノ・ガンツです。
有名で、よく引用される映画なので、一度は見ておかないといけないと思っていたので見ました。なかなかよく出来ている映画でした。
以下、ある程度ネタバレありの感想です。
● 映像(視点)の仕掛け
この映画は、白黒映画で始まります。しかし、製作は1987年で白黒時代の作品ではありません。この「白黒」の意味は、映画の途中で明かされます。この仕掛けが、けっこうよく出来ていました。
こういった映像(視点)の仕掛けは、「ランブルフィッシュ」(1983年)を思い出します。
こういった仕掛けが成功するには、「白黒」の映像が、カラーと違う「美しさ」を持っている必要があると思います。
仕掛けのための仕掛けではなく、それ自体が価値を持ったものでないと、この手の仕掛けは効果が半減します。
その点で、この映画はきちんとよく出来ていました。白黒の映像が、独特の美しさを醸し出していましたので。
● 独白による詩 映像で奏でる詩
映画の主役は天使です。天使たちは、人間世界にたくさん紛れ込んでいますが、人間の目からは見えません。
映画の前半は、この天使たちの視点での映像と、彼らの無数の独白で進みます。この映像と独白が、なかなか気持ちよかったです。
ストーリーという面では、緩慢で希薄で、ほとんど存在しないような感じで進むのですが、白黒の映像と、天使たちの呟きを見ている間に、何となく話に引き込まれていきます。
そして、ヒロインが出てきた辺りから、徐々に(本当に少しずつ)話が進み始めます。
この“間”が持っているのは、撮影場所が何気に映像的に特徴がある場所だからなのかなと思いました。
何でもないような場所ではなく、奥行きがあったり、陰影があったり、光沢があったり、ごちゃごちゃしていたり、映像的なテクスチャの違う場面がザッピングのように出てきます。その変化が、脳を飽きさせないようにしているのだろうと思いました。
● 天使たちのハードボイルドさ
コートを着た、ごつい感じの男(天使)たちが、人気のない場所を歩く様子は、そのまま攻殻機動隊SACを髣髴とさせました。確か、攻殻機動隊SACには、この映画をモチーフにした回が、そのまんまあったはずですし。
というわけで、幻想的な中にも、ハードボイルドな雰囲気の映画になっていました。そして、そのストイックさが、恋愛面でのハードボイルドに繋がっており、上手く印象をリンクさせているなと思いました。
● 刑事コロンボ
刑事コロンボ、というか、ピーター・フォークが名脇役過ぎます。
映画には、わずかながらミステリ要素がブレンドされているのですが、その隠し味部分としてピーター・フォークが登場します。
この仕掛けがあるために、この映画は、映画の中だけの世界に閉じこもった作品ではなく、外の世界と地続きになっている作品になっていました。
かなりズルイ仕掛けですが、種明かしが出た瞬間に、「あっ」と思って、映画の地平が一気に広がるような体験ができました。
このピーター・フォークのプロフィールを見て、ちょっと驚きました。
□allcinema - ピーター・フォーク
http://www.allcinema.net/prog/show_p.php?num_p=13275・3歳の時に右目を腫瘍のために無くし義眼を入れている。
義眼には、正直驚きました。今まで、そういう風に見えたことはなかったので。
● 映画の天使たち
映画のラストには、「全てのかつての天使、特に安二郎、フランソワ、アンドレイに捧ぐ」というテロップが出ます。
刑事コロンボ役のピーター・フォークの設定と言い、映画への愛に満ちた作品だなと思いました。
● 感動的なラブ・ストーリー
映画は、霊感的なラブ・ストーリーとも言うべき作品です。愛が育まれて発展するわけではなく、霊感に導かれるようにして、恋が進んでいきます。
この話は、それこそ音楽のPVなんかで作ったら五分ぐらいで終わってしまいそうな話の密度です。
でもそれを、主人公の感情の動きをゆったりと描き、世界への広がりを徐々に見せていくことで、小さな感動を、大きな感動に引き上げることに成功しています。
映画は、構造も大切だけど、表現の積み重ねによる感情の奥行きを積み上げ行くことも大切なのだなと感じさせてくれる映画でした。
よい作品でした。これは人気があるのも頷けます。
● 粗筋
以下、粗筋です(ネタバレを最小限に抑えて、終盤近くまで書いています)。
主人公は天使。彼らは無限の時を生きている。彼らは、人間たちの目には見えないが、あらゆる場所にいて、人間たちを見つめている。
主人公は、友人の天使とともに、その仕事を続けている。ある日、彼は、サーカスの空中ブランコ乗りの女性に恋をする。そして、人間になりたいと願うようになる。彼はそのことを友人に明かすが、友人は人間になることに興味を持たない。
主人公は、ドイツに撮影に来ていた刑事コロンボ役のピーター・フォークの撮影現場に足を伸ばす。ピーター・フォークは、天使の姿を見ることはできなかったが、その存在に気付いている素振りを見せる。
ピーター・フォークは、コーヒー・スタンドで、そこにいるであろう天使に声をかける。それは、主人公を誘うような言葉だった。
主人公は天使である自分を捨て、人間になる。そして、これまで見ていたのとは違う世界を見る。彼には、全ての景色が輝いて見えた。
主人公は、ピーター・フォークに会いに行く。そこで主人公は、ピーター・フォークから、この世界の真実を聞く。
主人公は、恋焦がれる女性に会いに行く。しかし、サーカスは解散しており、そこには誰もいなかった。だが、主人公は、落胆していなかった。主人公には、見守っている天使がいた。
そして主人公と、彼が恋する女性に、小さな奇跡が訪れることになる。
● どうでもよい話
この映画のDVDですが、TSUTAYAディスカスで、かなり最初の方に注文したのですが、二年ぐらい待たされました。
注文数に対して、DVDの在庫が少なすぎ。もう少し、きちんと入荷すればよいのにと思いました。