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2010年03月16日 04:57:23
映画 クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲
 映画「クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲」のDVDを一月下旬に見ました。

 2001年の映画で、監督・脚本は原恵一です。

 傑作の呼び声の高い本作でしたが、確かに傑作でした。一本筋の通った、素晴らしい映画でした。



● 20世紀博の魅力

 映画は89分という短いものです。そして、初っ端からぐいぐい話を引っ張っていきます。

 冒頭数分のアクションシーンは「えっ、なんで途中から?」という疑問を投げかけてきます。そして、その直後に「実は、20世紀博のアトラクションでした」というネタをぶち込んできます。

 この20世紀博という設定が非常によくできていました。ラーメン博物館などの、ちょっとレトロなテーマパークを、ひたすら大きくしたような全国展開の施設です。

 この20世紀博の魅力で、映画のスタートダッシュを一気に決めてくれます。

 しかしまあこれって、完全に子供は置いてけぼりですよね。映画のなかの子供たちも、置いてけぼりにされていることで不満たらたらですし。

 でもこの設定が一転して、「20世紀博を利用して日本をひっくり返そうとする悪の秘密結社」に早変わりする構成は見事です。本当に、畳み掛けるようなオープニング。

 そこからは一気に、逃走→潜伏→突入→敵の秘密基地内での追跡→敵の秘密兵器への接近、と話が転がっていきます。小気味よいです。

 そして何よりも上手いなと思ったのは、この「20世紀博」という大ネタを徹底的に活用しつくしていることです。本当に、骨までしゃぶりつくしている。

 見事なフルコースという感じでした。



● 一本筋の通った脚本

 20世紀博の魅力とともに素晴らしいと思ったのは、一本筋の通った脚本です。

 過去へのノスタルジーを、「におい」というキーワードでくくり、映画に一本筋を通しています。

 ノスタルジーという抽象的なものは、伝え難いものです。特に、子供も見るような映画では、正しく伝えるのは困難です。

 抽象的なものは、受け手側の経験に左右されます。また、子供はノスタルジーを感じるような経験値を持っていません。

 そこを「におい」という具体的な現象に落とし込んでいるのが、この映画の脚本の秀逸なところです。

 さらにその具体的な現象が、映画の「絵」でも「音」でも見せられないものだというところが上手いなと思いました。

 表現しているのは、言葉とリアクションだけです。そして、「においのリアクション」は、においそのものよりも分りやすいです。

 アニメーション映画は、絵でも音でもなく、動きで表現できるものが最も適しています。そこを選んできたあたりで、アニメーション映画として非常に優れた作品だなと思いました。



● 一本筋の通った敵

 映画などの物語には、様々な悪役が出てきます。でも、その中で、一本筋の通った敵というのはなかなかいません。

 過去や思想など、全てを語る必要はありません。でも、そのキャラがなぜそういったことをしているのか、その部分がきちんと伝わり、その部分に対して、敵でありながらも共感できなければ素晴らしい悪役だとは言えません。

 この映画の敵は、そういった点で一本筋が通っています。そして、映画のラストの対決のあとの行動も「このキャラならそうするだろう」という納得のいくものになっています。

 最初は単に「ファッションデザイナーみたいな風貌の嫌な感じの奴」だと思っていましたが、映画の終盤が近づくにつれ、「なかなかやるじゃないかこいつ」と思うようになりました。

 自分の考えがあり、そのために何をしなければいけないかを考え、それを実行して、実現している。

 キャラクターの過去は語られませんが、魅力的な敵になっていると思いました。



● 親子の愛

 映画は、しんちゃんの家族の親子愛が鍵となります。

 この親子愛の表現の仕方がよくできていると思いました。そう思ったのは、二点からです。

 まずは落差です。終盤の愛情を描くために、前半は子供に対する無関心を徹底的に描きます。そのことで、後半以降の愛情が際立つようにできています。

 次はラスト近くの鉄骨渡りのシーンです。言葉とかロジックとかではなく、子供への愛をアクションで表現しています。オーバーアクションができる舞台を設定して、そこで過剰なアクションを展開することで、愛情の豊かさを伝えています。

 一つ一つが心憎いなと思いました。



● ふんだんなアクションシーン

 映画はアクションシーンがふんだんです。様々な種類の追跡撃が描かれます。この追跡撃は、クリント・イーストウッド主演・監督の「ガントレット」(1977)を彷彿とさせました。

 ガントレットと同じように、逃走と同時に敵地への乗り込みを行うあたりがそっくりだなと思いました。乗り物もバスですし。

 また、カーチェイスシーンで車が重なり合うところは「ブルースブラザース」(1980)に似ているなと思いました。

 あと終盤の塔のシーンは、宮崎駿の「カリオストロの城」(1979)の雰囲気があるなと感じました。

 ともかく、アクションがてんこ盛りという感じで楽しかったです。



● 親子で楽しめる映画

 しかしまあ、よく作っているなと思いました。

 子供は単純なクレしんの劇場アクション映画として楽しめ、大人は細かな作り込みのネタににんまりとできます。

 そして、そのどちらもが満足して映画館を出られるように、親子愛でしっかりと映画をまとめています。

 手堅く、かつレベルの高い仕事だなと思いました。



● 粗筋

 以下、粗筋です(大きなネタバレはなし。中盤ぐらいまで書いています)。

 世間では20世紀博というテーマパークがはやっていた。この場所では、20世紀のありとあらゆる楽しみが体験でき、世の大人たちのことごとくがはまっていた。その現象は日本中に広がり、20世紀博は全国各地に建設されていた。

 子供たちは、そのことを快く思っていなかった。しんちゃんたち幼稚園児も、両親だけが楽しんでいることに不満を持っていた。

 ある日、20世紀博からの大切なお知らせがテレビで流れた。そして大人たちが町から消えた。彼らは20世紀の虜になり、童心に返り、20世紀博の建物のなかに移住したのだ。

 町には子供たちだけが取り残された。そんな子供たちのいる町に、街宣車がやって来た。街宣車は子供たちに、トラックで迎えにくるから乗るようにと指示を出す。

 だが、しんちゃんたちは警戒して、トラックに乗らなかった。そんな彼らに対して、兵士として操られた親たちが子供狩りにやって来る。

 しんちゃんたちはバスを奪い、大人たちを元に戻すために、20世紀博へと乗り込んでいく。
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