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2010年04月09日 22:31:09
スクープ 悪意の不在
 映画「スクープ 悪意の不在」のDVDを、二月中旬に見ました。

 1981年の作品で、監督はシドニー・ポラック、脚本はカート・リュードック、デヴィッド・レイフィールです。

 シドニー・ポラックが監督の作品は、以下を見ています。

・「トッツィー」(1982)
・「愛と哀しみの果て」(1985)
・「ザ・ファーム/法律事務所」(1993)

 他にも彼は、製作で有名な作品をいくつも手掛けています。

 また、脚本のカート・リュードックは「愛と哀しみの果て」を、デヴィッド・レイフィールは「ザ・ファーム/法律事務所」の脚本を手掛けています。

 映画は、マスコミについて色々と考えさせられて面白かったです。



● マスコミと司法の暴力

 この映画は、司法が犯罪組織を摘発するために、マスコミに嘘の情報をリークして、そのために無関係な人が人生を壊され、自殺者が出る話です。

 司法は自分たちが目指す正義のために、「犯罪組織の血族だから」という理由で「叩けば何か情報が出るかもしれない」と主人公を容疑者にします。

 そして、主人公の社会的信用を失墜させ、会社を閉鎖に追い込みます。

 また、マスコミはその片棒を担ぎ、「真実の報道のために」と、裏取りもせずに嘘の情報を垂れ流します。

 さらに、その嘘を指摘しようとした「主人公の旧友の女性」の秘密を新聞に書き、彼女を自殺に追い込みます。

 この映画で「特に始末が悪いな」という風に描かれているのは、マスコミです。

 自分たちが報道機関とともに、暴力機関であることを理解していない様子が、よく描かれています。そして、そのことの醜悪さを、分かりやすく描いています。

 そのため、見ている時には、かなり怒りに燃えました。



● 静かなる怒りのポール・ニューマン

 この、マスコミと司法への怒りを駆り立てるのは、ポール・ニューマンの演技です。

 彼は本当に酷い状況に追い込まれても、ぎりぎりのところまで、怒りを堪えて紳士的に振る舞い続けます。

 その耐えている様子が、彼の置かれた立場の理不尽さを非常に強調しています。

 この「怒っているけど」「怒りを出さない」という描写は、けっこう大変なのではないだろうかと思いました。

 観客には「怒っている」のを分からせつつ、映画の登場人物には「怒っていない」ように見せなければならないので。



 ポール・ニューマンは、記事を書いた女性記者に接近して、いったい誰が自分を貶める情報を発信しているのかを突き止めようとします。

 そのために、女性記者と何度も接触して会話をするのですが、そのどれもが彼にとって怒りの限界を超えるギリギリで、神経がピリピリすることだというのが、各シーンから伝わってきます。

 そう感じるのは、四つの理由があると思います。

 一つは、「早く聞き出したい」ことを観客が分かっているけど、ポール・ニューマンが「わざとゆったりと演技をしている」こと。

 もう一つは、ポール・ニューマンが寡黙なこと。さらに一つは、目に怒りが宿るとともに、寂しげなこと。

 最後の一つは、女性記者と絡まないシーンで、怒りの背景となる窮地の様子が描写されていることです。



 女性記者は、主人公が社会的信用をなくして、会社が傾き、人生が終わっていく様子を知らずに、自分は正しいことをしていると思っています。

 そのことを、ポール・ニューマンは責めずに、あくまで紳士的な態度で接します。そして、悲しい目をする。その表情が、観客の心を強くえぐります。



● ちょっと分かり難いアメリカの司法システム

 映画の後半は、ポール・ニューマンが、マスコミと司法をはめていく話になります。

 そのはめ方が、日本人の私にはちょっと分かりにくかったです。たぶん映画は、痛快にカウンター・パンチを食らわせる筋運びなのだと思いますが、カウンター・パンチがどう発動されるのか、分かりにくかったです。

 これは、私がアメリカの司法システムに詳しくないためだと思います。たぶん、アメリカの観客は、ここで「おーっ」と思うのだろうなと思いました。

 選挙や裁判みたいに、勝った負けたがはっきりしている方が、分かりやすいですね。

 あまりマニアックな勝ち方は、グローバルさがないのだなと思いました。



● 女性記者

 女性記者が、かなり能天気です。たぶん、中流以上で育って、高校出て、大学出て、新聞社に入って、「私は社会的正義の仕事をしている」と思っている感じの人物です。

 この女性記者は、自分の記事で人を自殺に追い込んだあと、復讐に燃える主人公に優しくされて、付き合います。そして最後は、司法とまとめて、主人公にカウンター・パンチを食らわされます。

 いそうだよな、こういう人と思いました。

 感情の深度が浅いというか、たとえ悩むような場面に出くわしても「悩む私が好き」とか、どこかで思っていそうです。

 いろいろと、イラッとくる人でした。

 主人公も、敵の一人がこういう人だと、ちょっと可哀想だなと思いました。



● 粗筋

 以下、粗筋です(ネタバレあり。最後の方まで書いています)。

 主人公は会社経営者。彼の父は、マフィアのボスだったが、彼自身はそういった犯罪組織とは距離を置き、暮らしている。それは、彼の父の厳しい言いつけだった。

 主人公は、一度だけ警察に捕まったことがあった。それは、父の葬儀をFBIが撮影していて、それを追い払おうとして、公務執行妨害で逮捕された時だ。

 町では一つの殺人事件が起こっていた。その捜査は行き詰っており、FBIは主人公を容疑者に仕立てることに決める。彼が何か情報を持っているのではないかと期待したからだ。そして、偽の情報をマスコミにリークする。

 その情報を得た女性記者は、主人公を容疑者として新聞の記事を書く。濡れ衣を着せられた主人公は、新聞社に行くが取り合ってもらえない。

 主人公は、新聞社で最初に言葉を交わした女性記者が、記事を書いた人間だと知る。そして、彼女からその情報の入手先を聞き出そうとするが、女性記者は情報を漏らさない。

 主人公の社会的立場は、人事件の容疑者として悪くなっていく。そして、父が作った犯罪組織の抗争のとばっちりを受ける。

 そんな彼が容疑者ではないと知っている人物がいた。彼女は、主人公の旧友で、殺人事件があった日に、別の州に堕胎に行っていた。その付き添いで、主人公は同行していた。

 彼女は、そのことを伏せることを条件に、新聞記者に真相を語る。だが、女性記者はその情報を紙面に載せる。彼女はカソリック系の学校の教師で、その新聞記事を見て自殺する。

 主人公の会社は休業に追い込まれた。女性記者は主人公の会社を訪れ、女性の件を謝罪する。主人公は激怒する。女性記者は、情報源を主人公に語る。

 その後、主人公は、お詫びということで女性記者に近づく。そして、情報源の周囲にも接近して、罠を準備する。

 主人公は、旧友の仇となる「司法の黒幕」をはめるための罠を張る。そして、黒幕をはめて復讐を果たす。



● 主人公の父

 ある種の犯罪組織は、その発祥が社会的弱者の互助団体だったりします。その団体のボスが、時代の変化とともに、子供には表の道を歩んで欲しいというのは、あることだと思います。

 でも、なかなかそういった立場から脱するのは難しいと思います。
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