映画「パコと魔法の絵本」のDVDを、四月中旬に見ました。
2008年の作品で、監督・脚本は中島哲也、原作は後藤ひろひと。主演は役所広司とアヤカ・ウィルソンです。
ポップでキュートで、なかなか楽しめました。
● 「嫌われ松子の一生」との比較
今回、ほぼ日を置かずに、同じ監督の作品「嫌われ松子の一生」(2006)と連続して見ました。
たぶん、単体で見たら「パコと魔法の絵本」も十分によくできた作品だと思うのですが、「嫌われ松子の一生」と比較すると、どうしても下に見えてしまいます。
方向性が全く同じではないので、同列に並べて比較するのは無理なのですが、それでもいくつか目立って違う点があります。
以下、その点を並べます。
・話の深さ。
・画面の奥行き感。
・ギャグの空回り。
二番目と三番目は後述します。ここではまず、「話の深さ」について書きます。
「嫌われ松子の一生」が、濃密で非常に深いテーマの話だったのに対して、この「パコと魔法の絵本」は子供・ファミリー層向けに、割とあっさりめに作ってあり、テーマもそれほど掘り下げていません。
物語としても、粗筋を書けば一行で終わるような話です。
そこを、映像と見せ方で引っ張っていくのですが、やはり話が薄いと、どうしても物足りなさを感じてしまいます。
ターゲットが、子供・ファミリー層だからこう作ったというのは分かります。ただ、前作のファンも見に来ることを考えれば、裏でもう一本、深いテーマを仕込んでおいてもよかったのではないかと思いました。
まあ、出来はそれなりによく、楽しい映画ではあるのですが。
● 絵作り
画面は、極彩色のCGを前面に押し出した作りになっていました。通常のシーンも、ポップなアニメを髣髴とさせる、非常にカラフルな作りになっています。
これは、日本の映画では珍しく、非常に凝った絵作りだと思います。
CGの嘘臭さを前面に押し出し、それが架空の物語の演出に昇華するぐらいに煮詰めているのは、さすがです。
こういった、映像を105分見させて飽きさせない監督は、そうそういるものではないと思います。
ただ、この絵作りは、演劇的な見せ方をしている物語進行と合わせると、いささか間の持たなさを感じさせました。
この映画は、閉鎖環境で演劇的に話が進みます。
そのことを映像的に語ると、引きの絵が一切ないことを意味します。そのため、画面に奥行き感がありません。
これは、物語と視点が、一切脇に逸れる(遊びを持つ)ことがないことを意味し、集中力の切り替えをする場面が乏しく、結果的にメリハリが少ない画面作りになっていることを示しています。
そのせいで、映画を見ているあいだ、わずかな閉塞感を覚え続けました。
あと、遠景を含んだ自然物を、ある程度の間隔ごとに画面に入れないと、情報量が少なく、画面がだれて見えます。
そういった点が少し問題になっていると思いました。
● ギャグ
阿部サダヲ演じる堀米のギャグがちょっと寒かったです。
これは好みの問題かもしれませんが、演技臭くてちょっと興ざめする笑いの取り方でした。
言うならば、演技達者な人が、「ほら、こうすれば笑うでしょう」と演技している感じです。
この件に関しては、他人がどう感じていたのか、気になるところではあります。
● 俳優
主役の役所広司と、アヤカ・ウィルソンがよかったです。あと、土屋アンナが。
土屋アンナはいい役者ですね。いろんな映画で見ますが、それぞれいい味を出しています。
● 粗筋
以下、粗筋です(中盤までの大まかな流れを書いています)。
主人公は、一代で大企業を築いた立身の雄。彼は心臓の病で、療養所に入る。彼は人を信用せずに当り散らすので、その場所で嫌われていた。
療養所には、一人の少女がいた。その少女は、交通事故で両親をなくし、また自身も脳に損傷を負い、一日しか記憶が持たない身になっていた。
彼女は両親の死を覚えておらず、親にプレゼントされた絵本を、毎朝発見して、喜んで読む。
始めは嫌がらせをしていた主人公だが、翌日になれば全てを忘れる少女に張り合いをなくす。
そんなある日、少女が、主人公との前日の記憶を残している微かな兆候を見せる。主人公は、彼女の記憶に残ることを望み、彼女に絵本を読み聞かせる。
主人公は、彼女のために、自分がしてやれることはないかと考え出す。そして、療養所の皆を説得して、絵本を演劇化することを考える……。