歌舞伎の映像作品「坂東玉三郎舞踊集2 鷺娘」のDVDを五月下旬に見ました。
当代の五代目坂東玉三郎が演じる作品で、「鐘が岬」「稲船」「黒髪」「鷺娘」が収録されています。
本命は「鷺娘」です。ため息が出るような美しさと儚さで、素晴らしかったです。
● 鳥に仮託した儚さ
鳥というもの、特に鷺や白鳥、鶴のような鳥は、なぜ儚さを感じるのでしょうか。
空を飛ぶために細く洗練されたフォルムや、死んで後の姿が、そういった感情を呼び起こさせるのかもしれません。
また、鳥は、体の大きさの割りに、寿命が短い動物なので、その死が目に付きやすいのかもしれません。
鷺娘では、羽の姿を写し取った着物や、所作でもって、鳥の持つ儚いイメージを舞踊として具現化していました。
● 雪景色の儚さ
鷺娘の舞台は雪の降り注ぐ季節です。
雪の儚さは言うまでもありません。掌の上で淡く溶けるだけでなく、季節の移ろいとともに、姿を消していきます。
銀白色のまばゆい世界を作りながらも、視界から色彩を奪い、切なさを感じさせてくれます。
それは低温と寒風による死の象徴であり、身を震わす存在です。
その雪景色に立つ白無垢の女性の姿。
彼女の姿を見て、死を思い浮かべない人は稀だと思います。
● 死に行く鷺娘の儚さ
そういった景色の中、現れるのが「鷺娘」です。
白を基調とした墨色の情景のなかで、叶わなかった恋に思いを馳せながら死んでいく女性。
最後の死の瞬間の苦しみの姿まで含めて、非常に印象的でした。
● 粗筋
以下、粗筋です(短いので最後まで書いています)。
主人公は白無垢の若い女。彼女は望まぬ相手に嫁ぎ行く。彼女は自分の人生を降り返り、叶わなかった恋に思いを馳せる。
彼女は鷺の精であった。彼女は雪景色の中、生き絶えていく。彼女は自らの情念を示すように、激しい苦悶の姿でその生を終える。
● 参考リンク
□歌舞伎への誘い - 『鷺娘』
http://www2.ntj.jac.go.jp/unesco/kabuki/jp/5/5_04_15.html□「鷺娘」の責め
http://www5b.biglobe.ne.jp/~kabusk/sakuhin102.htm