映画「センチメンタル・アドベンチャー」のDVDを、五月下旬に見ました。
1982年の作品で原題は「HONKYTONK MAN」。監督・主演はクリント・イーストウッド。原作・脚本はクランシー・カーライルです。
HONKYTONKの意味は、安酒場。アメリカ南部の安酒場でよく弾かれる独特なピアノの演奏スタイルだそうです。映画は、中年カントリー歌手が主人公でした。
イーストウッドには、格好いいヒーロー物と、愛すべき駄目人間物がありますが、この映画は後者でした。しみじみとした作品で楽しめました。
● 愛すべき駄目人間
この映画の主人公は、よいどれで、時間にだらしがなく、すぐに人に騙されるような人間です。彼はミュージシャンで、オーディションに出るために、甥と叔父とともに旅に出ます。
イーストウッドの映画によく見られる、「旅&擬似家族物」の作品です。
しかしまあ、この手のイーストウッドは、本当に駄目人間なのですが憎めないです。根はいい人で、不器用なだけの人間と分かるのと、「彼の容姿」があるからだと思います。
そして、最後にホロリと泣かせてくれる。
話の構造は毎回そんなに違わないのですが、それでも面白いと思ってしまいます。
● 音楽で彩られたストーリー
イーストウッドと言えば、音楽好きで知られています。この映画も、ご他聞に漏れず音楽で彩られています。何せ、主人公がシンガーですので。
映画を見ていて面白かったのは、この主人公が、音楽仲間、仕事仲間から愛されているということです。
旅に出る時、彼の姉は、同行する息子に「叔父さんの面倒を見るように」と言います。そういった心配をされるような人間ですが、仕事の面ではしっかりとしています。
そういった二面性があることが、愛されるキャラクターの所以なのかなと思いました。
以下、ネタバレありの感想です。
● 仕事について
主人公は結核に掛かっています。
旅の末、オーディションに出ますが、その途中で咳き込んでしまいます。生演奏の場で、咳き込んでしまうのは致命的です。彼は、長い旅で目指した職を得ることに失敗します。
□Wikipedia - グランド・オール・オプリ
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82... そんな彼に、レコード会社の人間が声をかけてきます。価格は二束三文ですが、レコードを録音しないかという話です。
主人公は結核が進行して死期が迫っています。そして、鬼気迫る表情で録音に臨みます。
その場所に同行した少年の甥が、レコード会社の人間に、叔父の病状が分かっているのになぜ歌わせるんだと抗議します。
その台詞に対してレコード会社の人間は、こう答えます。「人は誰でも名を上げたい。彼は最後のチャンスなんだ」と。
死期が迫っていることは誰の目にも分かる。彼に「次」がないこともよく分かる。その中で、何かを残そうとする男に、手を差し伸べる。
二束三文というのは、確かに色々と問題です。主人公はその提案を受けた時に、印税方式でないことに一瞬迷いますが、これが最後の機会なのだと悟って、話を受けます。
切ないなと思いました。そして、悲痛だなと感じました。
人間、何かを残したいという欲求は、最後の瞬間まで消えないのかもしれません。
● 粗筋
以下、粗筋です(ネタバレあり。最後まで書いています)。
主人公は中年のカントリーシンガー。彼は甥と叔父とともに旅に出る。目指すはオーディションが行われる町。
彼は詐欺に巻き込まれたり、臨まぬ少女に付きまとわれたりしながら、目的地を目指す。
彼はオーディションの舞台に立つ。しかし結核の進行した彼は途中で咳き込んでしまう。
主人公には死期が迫っていた。そんな彼に、レコーディングの話が舞い込む。彼は病気をおして録音に臨む。
主人公は死んだ。葬儀には、甥と、途中で同行することになった少女が参加する。
彼らが帰る時、車のラジオから主人公の音楽が流れる。また少女が、その身に子を宿している兆候を見せる。
● 人間の心理
誰かが不幸にして死んだ時、その人が何かを残していることを知ると、救われたような気持ちになります。
これは人間と言う動物が、生命を次世代に託す機械だからこそ起こる感情だと思います。
しかし、残したものが、生命そのものでなくても救われた気分になるのは、人間が性のみに縛られた存在ではないからだと思います。
この映画では、音楽だけでなく、生命も残したことにして、救済のダメ押しをしています。
確かにそのことで感情は強化されるのですが、子供はなくても成立しているのではないかと感想を持ちました。
ちょっと、強く押し付けすぎている感じがしましたので。