映画「地中海殺人事件」のDVDを六月中旬に見ました。
1982年の映画で、監督はガイ・ハミルトン。原作はアガサ・クリスティで、脚本はアンソニー・シェイファーです。
実は、ポアロを初めて見ました。構造的によくまとまっており、美しい作品でした。面白かったです。
● 話の構造的な美しさ
単純明快でシステマティックで、それが有効に働いている場合、その話は構造的に美しく感じます。
この映画は、そういった構造的な美しさを備えていました。
話は、以下のように進みます。
・ポアロが舞台に行くきっかけを得る。
・ポアロが舞台に着く。
・その場にいる人がどういった人なのかを観察する。各人の関係を目撃する。
・事件が起こり、死者が出る。
・ポアロが推理を依頼される。
・一人一人にアリバイを聞いていく。各人から、アリバイを聞きながら、他の容疑者が犯人だと思う理由も聞かされる。
・全ての人に話を聞いた後、一同を集め、犯人を指摘する。また、その理由を語る。
・その推理を否定される。
・否定に対するどんでん返しが起こる。
これらが、ポアロの視点か、二人以上の登場人物がいる場合の描写として描かれていきます。
「これがトリックに使われるのだろう」と思われるギミックも、映画の序盤に、きちんと印象的に描かれます。そして、それが終盤で決め手となります。
シンプルで、機能的で、分かりやすかったです。よくできた映画だなと思いました。
● 美しい景色
映画は、アドリア海(イタリアの東の海)の孤島のホテルが舞台です。かつて城だった場所を改造したそのホテルで殺人事件が起こります。
その舞台の景色が、まさに金持ちのための小さなリゾート地という感じで美しかったです。
こういった場所で、一週間とか二週間過ごせば、リフレッシュできそうだなと思いました。
● 奔放な女性
映画の中心的な人物は、奔放な女優です。彼女は才能はありますが、周囲に恨みを買っています。ホテルにいるほとんどの関係者が、彼女のことを「殺してやりたい」と思う理由があります。
でもまあ、美しくて才能のある女性は、たとえ嫌われても価値があるよなと思いました。恨みを買っても余りある魅力があれば、世の中は渡っていけますので。
● 女性の容姿
映画のラスト付近で、ある女性が化粧を変え、服装を変えて出てきます。その印象の落差に、「うぉっ、すげえ、女は化けるな」と思いました。
最近、ネットでもよく、化粧のビフォアー・アフターが出ています。女性は化粧と服装で随分雰囲気が変わります。
メイクの仕事をする人は、そういった変化を知っていて、印象や見た目を思い通りに変えるわけです。こういった仕事って、けっこう楽しそうです。
板垣啓介の「メイキャッパー」なんかも、そういった変化を見せるものです。これも爽快感があります。
映画業界には、そういった「変身」が溢れているのだろうなと考えました。
● 粗筋
以下、粗筋です(推理が始まるまでを書いています。大きなネタバレはありません)。
主人公はポアロ。彼は高名な探偵だ。主人公は知人から、富豪が持ち込んだという偽ダイアを見せられる。そして知人から、富豪にその件を言って欲しいと告げられる。
主人公は富豪に会いに行く。そのダイアは、結婚した相手にプレゼントしたものだという。その女性は元女優で、結婚数日後に突然離婚を言い出して、ダイアを送り返してきたそうだ。富豪は、そのダイアが偽物だったと説明する。
主人公は富豪とともに、彼女が現在いる孤島のホテルへと向かうことを決める。富豪はヨットでホテルへと向かう。船が苦手なポアロは、汽車に乗って先行する。
ホテルには、元女優と、その現在の夫、彼の娘がいた。また、女優の昔の友人だったホテルの女性支配人や、女優に演劇をさせなければ破産する夫婦、彼女の自伝を出版予定だったが、急に断られたライターもいた。また、女優のセフレである色男と、その病弱な妻も宿泊していた。
客の多くと支配人は、彼女のことを「殺してやりたい」と思う理由を持っていた。そういった中で、彼女が死体として発見される。
このままでは、ホテルの名前に傷がつく。そのことを恐れた女性支配人は、主人公に犯人の逮捕を依頼する。孤島では警察や検死医が来るまでに時間がかかる。それに、田舎の警察に捜査能力はない。
主人公は、一人一人にアリバイを聞き、彼らのアリバイの中から矛盾を見つけ出し、真の犯人を推理していく。