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2010年12月20日 17:48:42
懺悔
 映画「懺悔」のDVDを九月下旬に見ました。

 1984年の旧ソ連時代のグルジア共和国の映画です。監督・脚本はテンギズ・アブラゼ。出演はアフタンディル・マハラゼ他です。

 アフタンディル・マハラゼの怪演が凄かったです。



● 恐るべき一党独裁体制

 この映画は、一党独裁体制での、独裁者の恐怖をよく表現した作品です。

 この映画での独裁者の恐ろしさは、拷問でも死刑でもなく、独裁者の温厚な微笑にあります。彼はにこやかに事務的に物事を運びます。そして、国家のため、国民のためと称して、多くの人を死に追いやります。

 全てが一つの価値感で判断され、さらにその判断が恣意的であり、そして独裁者の好悪で判断される。

 この映画の主人公は、娘時代にその恐怖に直面した人物です。彼女の母親が、その独裁者に気に入られたために、彼女の父親は徐々に死に追いやられていきます。

 残虐なシーンはなく、ある意味穏やかに進行していくのですが、そこに凄みと恐ろしさがありました。



● アフタンディル・マハラゼの怪演

 さて、この映画の一番の特徴は、独裁者である市長を演じたアフタンディル・マハラゼの怪演にあると思います。

 芸術を愛し、様々な演出で人前に登場し、さらに朗々とした美声を披露する、ちょっと小太りでお茶目な感じの市長。でも、その目は冷たく、底冷えする恐ろしさを持っている。

 この映画は、この市長が活躍し始めてから目が離せなくなります。かなり印象に残るキャラで、一度見たら忘れられない個性を持っています。

 この市長のためだけに、この映画を見ても損はないと思いました。



● 謎掛けの上手さ

 この映画は、現代の事件の裁判の陰で、過去の回想を挟むという構成をとっています。話の主眼は過去の回想の方にあり、現代の事件はその呼び水になっています。

 その現代の事件の組み立て方が、なかなかよく出来ていました。

 その事件とは、「遺体の掘り返し事件」です。元市長の遺体が、何度墓に埋めても掘り返されて地上に出されてしまう。

 その犯人を捕まえてみると女性で、彼女は裁判で、「なぜ遺体を掘り返すのか」を語り始めます。

 そして、その話に感化を受けた市長の孫が、独裁の終わった後の現代の感性で、独裁者だった祖父の功罪を判断することになります。

 この冒頭の「遺体の掘り返し事件」が、インパクトがあって、導入としてよくできているなと思いました。



● 芸術と描写の間

 映画中、独裁者の兵士たちが、西洋の甲冑を着て移動するシーンがあります。これは芸術的な描写なのか、実際にその地方で、こういった姿が使われているのか分かりませんでした。

 日本で言うならば、戦時中の特高警察が甲冑を着て現れるようなシーンでしたので。

 ここらへんは、前提を知らない観客が迷う部分なので、何らかの分かりやすい仕掛けが欲しいなと思いました。



● 粗筋

 以下、粗筋です(ネタバレあり。最後まで書いています)。

 世間で称えられていた旧市長が死んだ。その葬儀の後に奇妙なことが起きる。墓に埋めた遺体が、いつの間にか掘り返されて、彼の家の庭に置かれるのだ。

 何度埋めても掘り返される。そのことに業を煮やした親族は、犯人を捕まえるために墓の周りで銃を持って待つ。そして、旧市長の孫が、犯人を撃って捕まえる。犯人は女性だった。

 裁判が始まる。そして、女性は旧市長が、墓に埋められるような人間ではなかったと語りだす。彼女の両親は、旧市長の独裁によって殺されていた。

 時は戻り、旧ソ連時代。女性はまだ幼い娘だった。そして市長は独裁体制の市長として、町に君臨していた。

 その市長が、彼女の母親を見初めることで不幸は始まった。市長は、少女の父親を徐々に反逆者に仕立て上げる。そして、少女の家庭を壊していく。

 それは一つの例にしか過ぎなかった。市長は独裁の結果、多くの人々を死に追いやっていった。

 時は現代の裁判に戻る。女性を撃った旧市長の孫は、その事実を知り、心を痛める。それに対して彼の父親は、あの時代では正しいことだったと主張する。

 だが孫は思い詰めていく。そして、単身女性に会いに行く。彼は自分の一族にまつわる罪を、自分の問題だと考える。そして、その罪の意識を一身に背負って自らに向けて引き金を引く。



● 恋愛感情の不発

 市長の、主人公の母親に対する恋愛ですが、ちょっと不発気味に終わります。

 その他、終盤、少しすっきりとしない展開あります。

 ここらへんは、もう少し分かりやすく整理されていてもよかったのになあと思いました。まあ、史実に近いような内容にしたかったのかもしれませんが。

 また、市長とその息子(孫の父親)との葛藤も、幾分分かりにくい印象になっていました。

 ここらへんも、改良の余地があったかなあと感じました。
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