映画「ヒックとドラゴン」のBlue-ray Discを二月中旬に見ました。
2010年の作品で、監督はクリス・サンダースとディーン・デュボア、脚本はクリス・サンダースとディーン・デュボア他、原作はクレシッダ・コーウェルです。
よくできた映画で、非常に面白かったです。そして、映像特典の「ボーン・クラッシャーの伝説」も非常に楽しかったです。
● ヒックの立ち位置
この映画を見始めて最初に驚いたのは、主人公のヒックの立ち位置です。
社会の中で、認められていない弱者であるというのは、よくあるパターンなのですが、この映画の主人公はそれに加えて、卑屈で言い訳ばかりをして、増上慢で失敗ばかりをするキャラクターになっていました。
これは、集団の中では、かなり嫌われるパターンです。
さらに、肉体的能力が評価される社会の中で、脆弱な肉体というハンデを負っています。
とはいえマイナス点ばかりではなく、キラリと光る才能も持っています。それは、クラフトの能力です。
新しい武器を発明したりするのですが、肉体的能力を誇示するタイプの武器ではないので(弩とかなので)、集団の中では評価されません。
通常、映画の主人公は、大きく分けると、憧れタイプと、分身タイプに分かれると思います。
この映画の主人公は後者に属します。その中でも、かなり低い位置にハードルを設置した「分身」だなと思いました。
● 尾翼の設定
主人公が暮らすのは、寒風吹きすさぶ荒れ野の島です。そこにはバイキングが生活しており、度々のドラゴンの襲撃を撃退するのが日常となっています。
この「ドラゴン退治」の能力が、この社会では「評価基準」となっています。
つまり、より強いドラゴンを倒せば「もてる」というわけです。この中で、主人公は「一発逆転」を狙って、誰も姿を見たことのない「ナイト・フューリー」というドラゴンを退治しようとします。
そして、自らの開発した兵器(弩型投網)をナイト・フューリーに命中させて落下させます。ただし、落下地点は森の奥です。彼はそこでドラゴンと初めてまともに対峙します。そこで意外な発見をします。
それは「どうもドラゴンも人間を怖がっているようだ」ということです。そして、そのドラゴンを解放してしまいます。
それから再び森に行き、ドラゴンが尾翼に傷を負っており、上手く飛べないことに気付きます。
そこから交流が始まり、ヒックは持ち前の工芸能力で機械の尾翼を作り、自らが背に乗り、その尾翼を操作することで、人竜一体の飛行形態を身に付けます。
この「尾翼」の設定が、非常によくできているアイデアで唸りました。
また、映画のラストは、「当然補完し合わなければ対等ではない」部分が補完されることで、ヒックとドラゴンは、互いに切り離せない存在になります。
これは原作には一切なく、映画オリジナルの設定だそうですが、話としても、映像としてもよく出来ているなと思いました。
● ナイト・フューリー
この映画の両監督は、宮崎駿のファンだそうで、本作の飛行関連のシーンは「紅の豚」や「魔女の宅急便」の影響下で作られたとのこと。
ナイト・フューリーの造形が、どう見ても「黒猫」なのは、魔女宅のジジがモデルなのかもと思いました。
また、そう思うほど、やたらと猫っぽかったです。
● トゥースレス/トゥース
今回、この映画を吹き替えで見たのですが(普段は字幕ですが、飲み会の席なので、吹き替えでもまあいいかと思ったのですが)、ドラゴンの名前は、英語版と日本語版では違うそうです。
英語版が「トゥースレス」で、日本語版が「トゥース」とのこと。
これじゃあ、意味が逆です。
なんで「〜レス」を略したのかなと思いました。変な改変はしない方がよいのにと思いました。
● 親子の関係
この映画は、「ヒックとドラゴン」の物語ですが、その背景で一本背骨になっているのは「ヒックと父親」の物語です。
ヒックの父親はバイキングの長をしており、ヒックをどうにか一人前にしたいと思いつつ、ヒックのひ弱さを残念がってもいます。
この父親と、ヒックが、互いを思いやりながらも、対立して理解に至る話が、丁寧に描かれていました。
こういった視点は、子供映画でも、大人が一緒に見にいって楽しめる要素だなと思いました。
● 師匠
師匠がよかったです。ヒックの鍛冶の師匠であり、かつ若手の教育係で、かつ一線の兵士で、ヒックの父親の親友でもある。そんな感じのおっさんです。
なんでもよく分かっていて、ちょっと距離を置いて見守っている感じのキャラです。
とはいえ、この師匠ですが、映像特典の「ボーン・クラッシャーの伝説」では、ほら吹き偏屈じじい的側面を全開にします。
まあ、それも非常に楽しかったのですが、というか面白すぎでした。
● フィッシュ
また、個人的にツボにはまったのが、太っちょでぼうっとしている感じのフィッシュ少年です。
このキャラの役どころは、「雷電」です。
歩く字引として、ドラゴンの能力を数字で指摘しまくります。これが、面白かったです。
とはいえ、雷電みたいには強くなく、ドラゴンマニュアルを諳んじている単なるオタク少年です。
また、この映画のドラゴンの「ゲーム的な設定」も面白かったです。
やたら特徴があり、さらにゲームのモンスターみたいに能力値が付けられて分類されているさまは、くすりとさせられました。
● アスティ
ヒロインの女の子もなかなかよかったです。ちょっと目つきが鋭いのですが、真面目で努力家で、負けん気が強くて、能力が高いです。
こういう女の子に「あんたなんかには負けないわよ!」と言われるのはいいですね。
エヴァで言うとアスカです。
映画の中盤以降、主人公のよき理解者となってくれて、よい雰囲気になるのですが、なかなかキュートでした。
● 大ボス
ゲーム的に、この映画にはラスボスがいます。ええ、「大ボス」と言ってもいいようなラスボスが。
映画の中盤以降、なぜドラゴンがバイキングたちの村を襲うのか、その背景設定が解き明かされていきます。そして最終決戦へと向かいます。
冒険物としても、非常に堪能させてもらいました。
しかしまあ、バイキングたちは脳みそまで筋肉という感じでした。作戦は「突っ込め!」一択という調子で、筋肉バカだなあと思いました。
● 原作との違い、前日譚
この映画は、原作からかなりの改変をされた内容だそうです。そして、時間軸的には、原作の前日譚になるそうです。
とはいえ、原作クラッシャーというわけではなく、原作者絶賛(魂を受け継いでいる!)という出来だそうです。
こういった原作との関係は珍しいと思います。そうなったのも、映画の出来がよいからだろうなと思いました。
● ボーン・クラッシャーの伝説
映像特典です。完全にコメディです。
映画を見た後にこの映像特典を見ると、抱腹絶倒です。飲み会の席でみんなでこの映画と映像特典を見たのですが、全員で大声で笑いながら転げ回り続けました。
もう、「ハンマーヘッドヤク」最高。
● 制作会社
前後の事情をよく知らないのですが、クリス・サンダースとディーン・デュボアは、前作の「リロ&スティッチ」(2002年)はディズニーでした。
また、それ以前のキャリアでも、ディズニー作品畑を歩み続けていました。
しかし、今回の「ヒックとドラゴン」はドリームワークスです。
何があったのでしょうか?
「リロ&スティッチ」は、ディズニーでも多くのグッズが作られて売れ線だと思ったのですが、なぜ他の会社で映画を撮っているのだろうかと気になりました。
● 粗筋
以下、粗筋です(ネタバレあり。終盤直前まで書いています)。
主人公はバイキングの少年。彼は長の息子だったが、ひ弱な体と卑屈な性格のせいで、仲間からつまはじきにされていた。
彼らの住む村は、度々ドラゴンに襲われていた。主人公は最も強いとされる、姿の見えないドラゴンを倒して名声を上げようとする。そして、自作の機械で撃墜する。
しかし、ドラゴンの姿を間近で見て、殺さずに解放してしまう。そして、主人公はドラゴンとの交流を始める。
ドラゴンは尾翼に傷を負っており、空が飛べなくなっていた。主人公は持ち前の鍛冶師の能力で機械の尾翼を作り、人竜一体で飛行することに成功する。
また、彼はドラゴンと多くの時間を過ごすことで、ドラゴンは人間を怖がっているだけだということを知る。さらにドラゴンの生態を知ることで、村でのドラゴン退治修行で好成績を上げるようになる。
主人公が突然成績を上げたことに不審を抱いた仲間の少女は、こっそりと跡を付けて秘密を知る。最初驚いていた彼女だが、主人公に竜の背に乗せられ、彼のことを認める。
村では、ドラゴン退治のために、主人公の父親たちが巣を探していた。しかし、発見できずに帰還する。
主人公がドラゴンを殺してバイキングになる日がやってきた。だが、ドラゴンに情が移った主人公はその儀式を拒絶する。そして儀式のためのドラゴンを殺さないようにと訴える。
激怒した父親はドラゴンを殺すように言う。驚いた儀式用のドラゴンは暴れ出し、主人公は傷付けられそうになる。
そこに、主人公の仲間になったドラゴンが助けに来て捕まってしまう。そのドサクサの中、主人公は、ドラゴンの巣を見つけていたことを父親に知られてしまう。
父親は、主人公の仲間のドラゴンに先導させて、その場所に向かおうとする。だが、そこには、人知を絶する巨大ドラゴンがいる。
閉じ込められた主人公は、父親たちの身を案じる。その主人公に助けがやって来た。彼の仲間の少年少女たちが、主人公のようにドラゴンの乗り方を覚えてやって来たのだ。
主人公は彼らとともに、父親たちを救うために、ドラゴンの巣へと旅立つ……。