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2011年04月20日 22:02:56
 2010年の読書のまとめ9月分です。

 星による評価の基準については前述の通りです。

● 2010年09月(9冊/計33冊)



■06 常紋トンネル—北辺に斃れたタコ労働者の碑(小池 喜孝)
★★★★★

 北海道開拓本その二。囚人による開拓が終わり、タコ部屋での開拓が始まって収束するまでの話。

 ともかく「凄まじかった」の一言。

 想像を絶する地獄絵図です。何となくイメージしたり、知識として知っていたレベルをあっさりと超えました。

 人さらい、監禁、拷問、生き埋め、人間の改造と使い捨て。それが無限連鎖のように行われ、脱出不可能なように人間を泥沼に沈めていく。

 たとえば東京で「バイトしない?」と普通の人や学生を誘い、約束の場所に行ったら、監禁されて、そのまま北海道に移送される。

 そして、体を破壊するほど酷使し、さらに精神的に復帰不能なように洗脳して、改造して、タコ部屋労働に依存させる。

 逃げようとしたら拷問の上、死刑。互いを監視させ、さらに少しずつの身分差を設けることで、互いに協力しにくいように仕組む。その上で建設現場の給料はピンはねの連鎖で、末端にはほとんどお金がいかない。

 予定期間の労働が終わった後は、借金が膨らみ、帰郷する金もなく、再びタコ部屋労働に舞い戻る。

 社会の末端の人がその沼にはまるだけでありません。普通に道を歩いていた学生や教師、勤め人などがある日誘拐されてタコ部屋送りにさせられる。

 さらに、タコ部屋労働者に対する差別が酷かったために、一度この場所に送られた人は、脱出の手も差しべられずに、孤立無援となる。

 心底恐ろしい世界です。

「ああタコ部屋ね」と、知った気になっている人も、一度この本を読んでみると、その想像の枠を遥かに超えていたことがよく分かります。

 2010年に読んだ本の中で、文句なしに最もインパクトのある本でした。



■07 春の雪(三島 由紀夫)
★★★★★
 美しい。そして優雅で邪悪です。素晴らしい。

 狂おしいまでの退廃美と青春美。それが、細密画のような三島由紀夫の筆致で描かれていきます。

 文句なしの傑作。堪能しました。

 しかしまあ、三島由紀夫の描写力は凄まじいですね。一番凄いと思ったのは、波が寄せては返すシーンです。

 海の波が、ただ寄せて返すだけのシーンで、波の描写だけで半ページぐらい使い、それがただただ美しい。

 他の作家では真似の出来ない技巧だなと思いました。

 あと、話は美しくて切なくて邪悪なのですが、主人公がやっていることはけっこう間抜けです。

 そのギャップも含めて、よい小説でした。



■16 サイレント・マイノリティ(塩野 七生)
(★☆☆☆☆)
 えー、面白くなかったです。

 塩野七生が面白いのは、歴史の下敷きを元にして、大胆な断定の大鉈を振るっている時だけだなというのが実感でした。

 確かに塩野七生自身は、変わっていて面白い人ですが、それだけでは話としての質量が足りません。

 同じエッセイでも、司馬遼太郎の「街道をゆく」の方が何倍も面白いです。というわけで、残念だなというのが正直な感想です。



■16 ローマ人の物語〈38〉キリストの勝利〈上〉(塩野 七生)
(★★☆☆☆)
 上中下、まとめて感想です。

 キリスト教の快進撃によって、ローマの「ローマらしさ」が失われていく時代。

 後少しで、ローマが溶けるようにしてなくなってしまいます。無念。

 どんな国家も、永久に続いたためしはなく、その中ではローマは長く生き長らえた国家だと思います。

 しかし老いには勝てず、若返りの劇薬を飲み、延命を図ろうとしました。その劇薬がキリスト教です。

 毒も少量なら薬になりますが、この毒は自己増殖して、細胞を置き換えていくタイプの毒でした。

 というわけで、ローマの精神が失われていくわけです。

 早く、最終巻まで文庫が出ないかなあと思い、待っています。最初の頃はすぐに出ていたのに、最近は一年に一度しか出ないので不満たらたらです。

 一冊あたり二時間かからない本なので、せめて半年に一度は出して欲しいです。



■17 ローマ人の物語〈39〉キリストの勝利〈中〉(塩野 七生)
(★★☆☆☆)
(既に書いたので感想略)



■ ローマ人の物語〈40〉キリストの勝利〈下〉(塩野 七生)
(★★☆☆☆)
(既に書いたので感想略)



■21 奔馬(三島 由紀夫)
★★★★☆
 豊穣の海四部作の二話目。「春の雪」の続編です。

 「春の雪」が、冷めたニヒルな美しさという感じだったのに対して、こちらは熱く煮えたぎる、若さと情熱がほとばしる一冊。

 若者による革命の本。

 何となく、その後の三島由紀夫の姿を想像しながら読みました。面白かったです。

 ただ、神風連のくだりは冗長で、もう少し短ければ読みやすかったのにと思いました。

 何にせよ、「春の雪」との対比もあり、とても楽しく読めました。



■24 芸術起業論(村上 隆)
(★★☆☆☆)
 世の中で叩かれることが多い村上隆ですが、個人的には面白い人だと思ってウォッチしています。これぐらい、立ち位置とキャラがはっきりしている人も珍しいので。

 あと、バランスを取る気もないのがありありと見えるので。

 まあでも、「自分の分野」について咆えるのはいいけど、「他の分野」に向かって咆えるのは無意味だからやめろと思うことは多々あります。

 というわけで、氏の代表作の本を読みました。

 賛同できる部分もあれば、賛同できない部分もありました。まあ、当然ですが。

 アート市場(アートではなく、アート市場)に異分野を持ち込む際の手法について思ったことは、アート市場内ではその戦略はありだけど、そうでない分野では成り立たないということです。

 まあ、アート市場での話を書いた本なのでいいのですが。

 ただ、この人の話し方として、「そこ以外も包含するように話してしまう」という問題があります。

 たぶんこれは、村上隆の中で、境界線が引けていない部分なんだろうなと思いました。

 その分野で正しいことが、他の分野でも正しいこととは限りません。

 そこらへんの議論の展開が曖昧なのは、芸風なのか、分かってやっているのか、割り切れていないのか微妙だなというのが、正直な感想でした。



■26 犯人は知らない科学捜査の最前線!(法科学鑑定研究所)
(★★☆☆☆)
 科学捜査の色々な手法を解説した本。ページ数は少ないですが、色々出てきて面白かったです。

 この本を読んで思ったことは、けっこうな人が科学捜査を舐めていて、簡単に証拠を残すということです。

 まあ、衝動的な犯罪とかはそれ以前の問題でしょうが。

 個人的に面白かったのは、万引きした商品を売っている店を告発するために、科学捜査を利用する話でした。盗まれた商品の出所を証明するという使い方です。あとは、社内文書の紛失(情報漏洩)の追跡とかもありました。

「法科学鑑定研究所」とあるように、本を書いているのは民間の調査機関です。

 なので、民間ならではの依頼もあり、面白かったです。
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