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2011年05月07日 20:02:29
第5惑星
 映画「第5惑星」のDVDを二月の中旬に見ました。

 1985年の作品で原題は「ENEMY MINE」、監督はウォルフガング・ペーターゼン、脚本はエドワード・クマーラ、原作はバリー・ロングイヤー。主演はデニス・クエイドで、特殊メイクをした宇宙人役はルイス・ゴセット・Jrです。

 最初、タイトルとDVDに印刷された画像から、B級臭がただよう映画っぽいなと思ってましたが、見てみると良質のSF映画でした。よかったです。

 個人的には、前半の設定から、アーシュラ・K・ル=グウィンの「闇の左手」を思い出しながら見ていました。

 また、異文化コミュニケーションということで、司馬遼太郎の「菜の花の沖」も、色々と思い出していました。



 以下、ネタバレありの感想です。



● 異文化コミュニケーションと戦争当事者の相互理解

 この映画は、前半と後半に分かれます。前半は、戦争で対立していた二つの種族の知的生命体が、ある惑星に不時着して最初は戦いながらも、徐々に共生して文化を共有していくという過程を描きます。

 後半は、主人公である地球人が、一緒に生活していた宇宙人の子供を育て、絆を育んでいく過程を描きます。

 この二つの物語が、自然な移行で進んでいきます。

 監督の言いたいことが強く訴えかけられてくる感じでよかったです。

 たぶん、人によっては、この映画を説教臭く感じるのでしょうが、SFに仮託して社会問題を訴えるというのは常套手段なので、私はこれはありだと思いました。

 この、異文化コミュニケーションが、映画中でどういった展開を見せるのだろうかと、いろいろと想像しながら見ていたのですが、私の予想をよい意味で裏切ってくれました。



● 雌雄同体生物の表現

 この映画の宇宙人は、雌雄同体の生物です。なので、アーシュラ・K・ル=グウィンの「闇の左手」を思い出したりしていたわけです。

 この宇宙人は、映画のターニング・ポイントあたりで、子供を産みます。この生物はセックスによる増殖ではなく、単為生殖により子孫を残すようです(この雌雄同体という設定は、映画の冒頭で語られます)。

 映画中、ドキッとしたのは、宇宙人が妊娠を告げて以降の描写でした。ちゃんと、表情に媚態が混じり、女性のように見え出すのです。

 これは、メイクと演技が相まったものだと思うのですが、ちょっと驚きました。



● 血脈の概念

 そして、宇宙人は子供を残して死にます。宇宙人が途中で死に、代替わりするというのは予想していなかったので、けっこう驚きました。

 そして、主人公は宇宙人の子供の親代わりとなり、自分の文化を教えながら、宇宙人に習った文化も伝えていきます。

 これは上手い展開だなと思いました。単なる二つの勢力の交流(横軸)だけでなく、世代間の継承(縦軸)も含むことで、異文化の交流が立体的になっていると感じました。



● 「ENEMY MINE」のダブルミーニング

 「mine」には、「私のもの」という意味と「鉱山」という意味があります。この映画では、この二つの意味で、タイトルを利用しています。

 主人公と宇宙人が不時着した惑星には、地球人の鉱山荒しが巣食っており、宇宙人を奴隷にして働かせています。

 序盤で少しこのことが明かされ、終盤では、この場所に子供の宇宙人が拉致られて、救出に行く展開になります。

 この救出劇には、地球軍の人間も絡みます。戦争が終わるという話ではないのですが、相互理解の一端が垣間見えるような感じで、映画は幕を引きました。



● タイトルと字幕の不一致

 この映画のタイトルは「第5惑星」です。でも、映画の字幕中、この惑星の名前は「ファイリンIV星」と表記されていました。

 字幕とタイトル、どちらかが間違っていると思うのですが、どちらが正しいのでしょうか?(ヒアリングが苦手なので分かりませんでした)

 ちなみに、日本版字幕は戸田奈津子です。

 うーん、どっちが正しいのだろう。凄い気になりました。



● 一応突っ込みどころ

 突っ込みだすと切りがないのですが、野暮を承知で一応突っ込んでおきます。

 不時着した惑星に、地球人も、宇宙人も呼吸可能な大気があること。そして、地球人も、宇宙人も、二足歩行で、ほぼ同じ体格をしており、音声振動による意思疎通をすること。



● 監督

 監督のウォルフガング・ペーターゼンは、この一年前に「ネバーエンディング・ストーリー」(1984年)を撮っています。

 この「第5惑星」は、ドイツからアメリカに進出した最初の作品だそうです。でも、興行面でも、批評家面でも成功は収められなかったそうです。

 興行面はともかく、作品としてはよい作品だと思うので、ちょっと残念な感じです。

 その他の代表作としては「U・ボート」(1981年)、「ザ・シークレット・サービス」(1993年)、「エアフォース・ワン」(1997年)、「アウトブレイク」(1995年)、「パーフェクト ストーム」(2000年)、「トロイ」(2004年)といった感じでしょうか。

 大作が似合う監督という感じです。

 ファンタジーからSF、現代物から歴史物まで、何でもござれという監督なんだなと思いました。



● 粗筋

 以下、粗筋です。

 時は未来。地球人類は宇宙に進出して、既存の勢力と戦争を繰り広げていた。

 主人公は地球軍のパイロット。彼は戦闘の末に、ある惑星に不時着する。彼はそこで、敵軍のパイロットを見つける。

 最初いがみ合っていた二人だが、他に人がいないこともあり、互いの言葉や文化を教えあい、徐々に打ち解けていく。

 それからしばらく経った。主人公は、このまま同じ場所にいてもジリ貧だと主張して、旅に出ることを提案する。だが宇宙人はそのことを拒み、同じ場所に残り続けることを選ぶ。

 主人公は惑星を旅し、地球人の鉱山荒しが、宇宙人を奴隷にして採掘している現場を目撃してしまう。

 主人公は宇宙人の許に戻る。すると、宇宙人は妊娠していた。宇宙人は地球人に子供を託して死んでしまう。地球人は宇宙人の子供を育てる。

 宇宙人は地球人よりも成長が早く、すぐに大きくなった。そして、採掘している他の人間に興味を持つ。

 宇宙人の子供は、主人公の言いつけを破り、その場所に行き、ピンチになる。主人公は駆けつけ、助けようとするが銃で撃たれてしまう。

 瀕死の彼の許に、救出の地球軍が訪れる。彼は死体になったと思われて回収される。だが宇宙葬の直前に生きていることが判明し、一命を取り留める。

 彼は回復して、宇宙人の子供を助けるために、単身戦闘機で惑星へと戻る。

 そして、鉱山荒したちと戦いながら、宇宙人の子供を救おうとする。だが、たった一人で乗り込んだ主人公はピンチを迎える。そこに、地球軍の仲間たちがやって来てくれた。

 主人公と宇宙人の子供は救われる。戦争の終結はまだ遠かったが、戦場の一端で、相互理解への小さな道が開かれた。
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