映画「ホワイトナイツ 白夜」のDVDを三月下旬に見ました。
1985年の映画で、監督はテイラー・ハックフォード、脚本はジェームズ・ゴールドマン他です。主演はミハイル・バリシニコフ、助演はグレゴリー・ハインズです。
東西冷戦を背景にして、バレエダンサーとタップダンサーが心を通わせ合う、手に汗握るサスペンスドラマです。
たぶん、玄人受けがよさそうな映画だと思います。大衆が大好きなアクション映画とは、少し方向性が違っていました。
● 二人の亡命者
この映画には二人の亡命者が出てきます。一人はソ連のバレエダンサーで、ダンスの可能性を追求するために西側に亡命してきた男です。
もう一人はアメリカのスラム街の黒人タップダンサーで、戦争中にソ連に亡命した男です。
このバレエダンサーの乗った飛行機が故障してソ連に不時着し、タップダンサーがその監視役に付けられます。
立場や目的は違えど、二人は祖国を捨てた人間のわけです。
一人は積極的に夢を見て母国を捨て、もう一人は消極的に祖国に幻滅して故郷を捨てました。
その二人が接触する内に、世界に幻滅した男が徐々に自分の心を取り戻していきます。
米ソ冷戦時代の駆け引きという大きなレイヤー、二人のダンサーの精神のぶつかりという小さなレイヤー、そういったものが上手く機能して、緊迫感の溢れる映画になっていました。
● ダンスの達人
DVDには映像特典が付いていました。そのインタビューによると、この映画のそもそもの企画は、二人の有名なダンサーで映画を撮りたいという監督の希望から始まったそうです。
物語りも、この二人を生かす前提で作られたそうです。
なるほど、そういったことが切っ掛けになり、映画が撮られることもあるのかと思いました。
ただ個人的には、タップダンサーよりもバレエダンサーの方に目が釘付けになりました。たぶん、原因のひとつは、私がタップダンスというものをあまりよく知らないからだと思います。
いまいち何がどう凄いのか分かっていないので。
● 主人公はナチュラルに酷い人
主人公は、踊る姿が非常に格好良かったです。
でもこの人はナチュラルに酷い人です。欲望に一直線で、周囲のダメージよりも自分の芸術欲を優先するタイプです。
本人は満足した人生を送れるかもしれないですが、周囲は死屍累々だなと思いました。
昔の恋人は、彼が亡命したせいで警察に捕まり、今回の映画内で再び主人公が脱出することで再度警察に捕まりそうな感じでした。
ちなみに、この主役を演じている役者(本職はバレエダンサー)も、ソ連からの亡命者ということでした。
● 粗筋
以下、粗筋です(ネタバレあり、終盤近くまで書いています)。
主人公はバレエダンサー。彼はソ連からの亡命者で、ダンスの可能性を模索するために故国を捨てた。
彼は西側世界で成功する。そして、飛行機での移動中、事故が起きてソ連領内に不時着することになる。
主人公はソ連の秘密警察の監視下に置かれる。その監視の任務を言い渡されたのは、かつてアメリカからソ連に亡命した黒人のタップダンサーだった。
彼は兵士として大義のない戦争に借り出され、祖国に幻滅して敵の下に身を投じた。
黒人ダンサーにはソ連で得た妻がいた。秘密警察は、黒人ダンサーの仕事次第では、そのささやかな暮らしが崩壊することを臭わせる。
秘密警察は主人公に、ソ連の劇場で踊ることを求める。それは、「西側の世界よりも東側の世界がよくて戻ってきた」という政治的アピールのためだった。
主人公は、そういった政治的活動には興味を持たなかった。しかし都会に行けば脱出の機会が増えると思い、都心部に移動する。
主人公と黒人ダンサーは、互いの利害が一致しないまま交流を続ける。だが、主人公が踊りの練習を始めてから、少しずつ二人の関係は変化してくる。
互いに一芸を極めた人間同士、踊りを通じて声なき心の交流を深めていく。
そして、主人公は、元恋人を利用して脱出の手はずを整える。主人公は黒人ダンサーに一緒に来るかと尋ねる。
彼が消えれば、黒人ダンサーのソ連での生活は崩壊する。彼の妻には子供が宿っていた。彼は、主人公とともに、妻を救うために西側に脱出する決意をする……。