映画「妖星ゴラス」のDVDを六月下旬に見ました。
1962年の邦画で、監督は本多猪四郎、脚本は木村武、原案は丘美丈二郎、特技監督は円谷英二。主演は池部良です。
特撮映画というよりは、よくできたSF映画という感じでした。そして、池部良はイケメンだなあと思いました。
以下、ネタバレありの感想です。
ネタバレが嫌な人は読まないでください。
● SF映画
特撮映画のつもりで見始めたら、「けっこう真面目にSFやるんだな」と途中で思い、最終的に「かなり熱いSFじゃないか」と感想を持ちました。
何をする話かと言うと、太陽系に侵入してきた高重力星の影響を避けるために、地球各国の政府と科学者が協力して、南極に無数の巨大ブースターを作り、地球を公転軌道から動かして回避するというものです。
けっこう本気だなあと思いながら見ていたのですが、後でWikipediaを見ると、東大理学部天文学科に通って実現性を確かめたそうです。以下、引用です。
<引用開始>
本多猪四郎監督は撮入前に、梶田興治助監督とともに1週間余り東京大学理学部天文学科に通い、畑中武夫率いる畑中教室の堀教授に、「地球移動」という荒唐無稽な設定の科学的考証を依頼。
堀は完全に実行可能な理論としてこれを算定したが、劇中の「月がゴラスに吸い込まれる」という描写については「月が吸い込まれた時点で地球も吸い込まれているはず」として、映画的なフィクションであることを理解したうえで、「興行でこの話題が出る際には必ずこの部分は“嘘”である、との注釈を入れて欲しい」と条件をつけている。
劇中で黒板に示される、地球移動にかかるエネルギー計算などの科学方程式は、上記理論に基づいて東大理学部が算出し、堀教授自らが書いたものである。
<引用終了>
かなりそれっぽく作っているなあと思ったら、それなりの裏付けを用意して作ったものだったようです。
● 科学賛歌と日本の地位
この映画を見て思ったのは、まだ「科学が人類を幸福に導く」と信じられていた頃の、純粋な科学賛歌の精神の眩しさです。
「科学が世界を救い、地球を助け、人類を守る」という、暗い部分のない描写が印象的でした。
もう一つ、日本が主導になる世界平和の描写も印象に残りました。
戦争で傷付き、自信をなくした頃を通り過ぎ、世界の一員として日本が活躍する様を描いています。
この映画が作られた1962年は、サンフランシスコ平和条約(1951)の十年後です。そして、高度経済成長期(1954〜1973)の真っ只中です。
こういった描写は、どちらも、この時代ならではのものだなと思いました。
● 巨大怪獣
この映画では、途中で南極に巨大怪獣が出てきます。
この巨大怪獣は「怪獣映画」として売らないといけない、会社的な要請から投入された「お約束」なのかなと思いました。
でも、本筋には関係なく、いらない怪獣だというのが、正直な感想でした。
この「いらない巨大怪獣」は、「海底軍艦」(1963)でも出てきました。映画自体は面白いのに、そこに無理矢理怪獣が入っています。
魔女っ娘もので、変身アイテムと変身シーンが欠かせないのと同じようなものなのかなと思いました。
● 粗筋
以下、粗筋です(中盤の終わりぐらいまで書いています)。
日本の科学探査有人宇宙船は木星を目指していた。だが、太陽系の端に、謎の高重力天体があることに気付き、予定を変更して探査を開始する。
宇宙船は、その途上で重力に引かれて崩壊する。宇宙船の乗組員たちは、死の直前まで、地球の同胞たちのためにデータを送り続けた。
地球では、その星をゴラスと命名する。日本政府関係者は、巨額を投じた宇宙船がなくなってしまったことに落胆する。科学者たちは、その星が地球にどんな影響を及ぼすか計算して戦慄する。
高重力星であるゴラスがそのまま近付けば、地球は最善でも死の星になる。そして最悪の場合は地球自体が吸い込まれてしまう。
世界中の科学者たちは集まり、解決のために知恵を絞る。そして、日本の科学者が提案した、南極にブースターを付けて、地球を動かして回避するという作戦に驚愕する。
それは実現不可能なように思えた。だが、各国の秘匿しているエネルギー技術を開示し合えば実現可能な作戦だった。
日本政府は、苦しい財政の中、再び調査のために宇宙船を繰り出すことを決定する。そして、死を覚悟した乗組員たちは、妖星ゴラスの詳細なデータを取るために地球を旅立つ。
南極では、世界各国の協力の下、地球を移動させるためのジェットエンジンの建設工事が急ピッチで進められる……。