映画「望郷」のDVDを八月中旬に見ました。
1937年の作品で、監督はジュリアン・デュヴィヴィエ、原作はロジェ・ダシェルベ、脚本はアンリ・ジャンソン他。主演はジャン・ギャバン。
恋愛映画なのですが、タイトルの通り、「恋愛」というよりも「望郷」の映画です。胸に染みる映画でした。
ネタバレありの感想です。
● 粗筋
以下、粗筋です(ネタバレあり。ラストまで書いています)。
主人公は、犯罪で故郷のフランスを離れ、アルジェリアのカスパ(回教徒が集まっている一画)に潜伏している。
カスパは複雑な迷路のような場所で、地元の警察も手が出せない。
そこで彼は犯罪王のような立場になっている。だが、彼は故郷のフランスに望郷の念を抱いている。
そのカスパの近くに、フランスの上流階級の女性が来る。彼女はカスパを訪れ、主人公に出会う。
主人公は彼女に恋をする。そして、彼女がフランスに帰る際、彼女を追ってカスパを出る。そのせいで彼は警察に捕まってしまう。主人公は、悲しみの果てに自殺する。
● 悲しい「望郷」の思い
この映画の主人公は恋をします。でも、何が悲しいかって、この恋は、その女性そのものではなく、彼女がまとっているフランスの空気への望郷の念なのです。
これは想像なのですが、もし彼が女性と共にフランスに帰ることができれば、この恋は終わりを告げます。主人公にとって、彼女に恋をする理由がなくなるからです。
こういった「望郷」のような感情は、それ単体で描くのは難しいです。
そこに「恋愛対象としての女性」という具体的な形を与えることで、本来描き難い感情に上手く実体を与えて描いています。
上手いなあと思いました。そして、悲しい映画だなあと思いました。
● 異国の風景
カスパの情景が非常によいです。まさに立体迷路とでも言うべき場所です。
地上の道路も複雑なのですが、それだけでなく、全ての建物が屋上で繋がり、複雑な立体構造を織り成しています。
こういった見慣れぬ場所は、その様子を映すだけでも映画として成立するなと思います。
● しっかりとした脇役
脇役がしっかりとしています。特に、現地の警察で、主人公と微妙な距離を取り続けるスリマンという男が非常によいです。
警察の一員でありながら、主人公の許に現れ、穏やかに話をします。
達人の漁師は、しかるべき時に、しかるべき場所で、大魚を捕まえる。そういった印象を与える刑事です。
他にも、主人公が目をかけている若者や、主人公を愛している現地女性など、なかなかよいキャラが揃っていました。
よい映画でした。