2005年10月25日 02:00:06
9月の末に、映画「ビッグ・フィッシュ」のDVDを見ました。2日連続。
1回見て、素晴らしかったのでもう1回見ないといけないと思い、2回見ました。
ティム・バートンが監督の本作品ですが、ティム・バートンらしいぶっ飛んだ造形とは違う、どちらかというと現実寄りの映像です。
しかしティム・バートが監督をすると、「こんな普通のシーンでもファンタスティックにしてしまうのか!」とびっくりさせてくれます。
森や町や様々な景色が、ティム・バートン以外の誰が撮ったとも思えない絵や動きになっています。真っ直ぐの道をただ歩くだけのシーンでも、ティム・バートンにしか見えない画面になる。そして各画面の構図のよさ、美しさ、オブジェクトの形。見ているだけでもわくわくしてきます。
そして、ティム・バートンらしい毒も軽いフーレーバーとして、きっちりと入っています。そこもまたよい。
さて、映像的素晴らしさだけを真っ先に語ってしまいましたが、ストーリーも負けないかそれ以上に素晴らしいです。そして何より、私の心を打ったのは、映画でなければできない方法を駆使して、言葉に書けない情感を編み上げていく手法。
少なくとも小説では似たような手法は使えない。そして、マンガでもかなり難しい。そういった表現を、映画という特性をいかんなく発揮して作品に仕上げています。本作を見て、ティム・バートンの手腕に改めて感動しました。
これを見たあとだと、「チャーリーとチョコレート工場」は数段レベルが劣るとしか言えなくなってしまいます。まあ、チャーリーはチャーリーで面白いのですが。
見終わったあと、映画館に行かなかったことを心底後悔しました。「見ようかな」と思っていたのですが、「ティム・バートンらしいぶっ飛んだ造形もないみたいだしいいや」と思ってスルーしていました。反省しています。
さて、以下、物語について、少し触れておきます。とはいえ、非常に粗筋の書き難い物語なので、御容赦を。
主人公の結婚式で、父は「主人公が生まれた日の話」をした。それはいつものホラ話。父は話を膨らませる名手で、みんなの人気者。でも、そんな父親を主人公だけは好きになれない。「本当のことを話して欲しい」彼はずっとそう思っていた。
結婚式の日以来、父と息子は疎遠になっていた。主人公の妻が妊娠し、お腹が大きくなった頃、父親が病気で倒れたと連絡がある。息子夫婦は両親の許へと行く。
父の看病をする家族たち。その合間に息子は父に言う。「僕にも子供ができる。子供に理解されない父親は悲しい」それに対して父は答える。「理解できないのは、お前に問題がある」話好きで人気者の父に対して、真面目過ぎる息子。二人はなかなか理解し合えない。
だが、父の最後が近付いてきたとき、二人に和解のチャンスが訪れる。そして息子は父に最高のプレゼントを贈ることになる。
粗筋を書くと、こんな感じです。
でも映画の内容は全然違います。上記の物語を前景として、「ホラ吹き男爵も真っ青の父の人生」が背景として入り混じり、どこまでが真実でどこからが創作か分からないようになりながら映画は進んでいきます。
そして、荒唐無稽と思っていた父の話のなかから、息子は父の姿を「知る」のではなく、「想像できる」ようになっていきます。
この、微妙な心の動きや、親子の機微、そして情感。そういった表現し難いものが、おもちゃ箱をひっくり返したような多彩なシーンの連続から紡ぎ出されていく。また音楽やナレーションを駆使して、現実と虚構の区別を破壊していく。凄い。そして、最後には泣きました。
インタビューでは「いろんな神話(Myth)が土台になっている」と言っていましたが、神話というよりはおとぎ話(FairyTale)です。それも相当上質の。
久しぶりに、「1回見て」、「もう1回見なければ」と思う映画でした。
また、本DVDは特典映像も素晴らしかったです。監督や俳優、製作や脚本家、原作者など、多彩な人のインタビューが収録されており、さらにそれらがテーマごとに様々に編集されていて、10本近くのインタビュー番組になっていました。
これほど内容の濃い特典はなかなかないです。
いろいろと書きましたが、要約すると「素晴らしかった」の一言に尽きます。久しぶりに心から感動しました。