2005年11月08日 02:22:29
映画「ALWAYS 三丁目の夕日」を11月7日に見ました。
公開から少ししか経っていないのに、周囲で絶賛の嵐で、紹介記事の写真を見て「これは出来がよさそうだ」と判断したので見てきました。
見た結果、素晴らしい映画だということが分かりました。
映画の楽しさのなかには、「脚本がいい」「俳優がいい」「演技が素晴らしい」「演出がよい」「編集がよい」「SFXがよい」などいろいろな楽しさがあります。
本作の楽しさは「その世界に入り込む魔法を掛けられる」というものです。それも、とても上質の。
昭和30年代の世界を見事に再現しており(見たことがない私が言うのも何ですが)、この素敵な世界にいつまでも居続けたいと思わせるような映画でした。
いや〜、よかった。
最近こういった面白さの映画を全く見ていなかったので、久しぶりにやられたなと思いました。
これは、非常におすすめできる映画です。
以下、粗筋です。
昭和33年の春。建設途中の東京タワーが見える町。
夫婦で営む自動車修理工場「鈴木オート」に、東北からの集団就職でやってきた「六子」が加わった。
鈴木夫妻とその子供、そして六子。鈴木オートでは、この四人による新たな生活が始まる。
また、その向かいの茶川商店では、“文学”と通称される駄菓子屋兼小説家の駄目男「茶川竜之介」の生活にも、変化の兆しがあった。
飲み屋「やまふじ」の美人女将「ヒロミ」に思いを寄せている茶川は、彼女の女友達の子供を半ば強制的に預かることになる。その子供「淳之介」の母親は蒸発しており、少年は自閉気味になっていた。
新しい生活が始まった鈴木オートと茶川商店。この2つの家を軸に、三丁目の「優しく、明るく、少しだけ波瀾含みの1年」が展開していく。
以下、感想です。
美術が素晴らしい。
まず、オープニング直後の「路面電車が町を走るシーン」で驚きました。「うわ、これ子供の頃の光景そのままじゃないか!」と。
私が生まれた門司港という町は、私が子供の頃は路面電車が走っており、さらにその路面電車の線路の周囲は、大正時代や昭和初期の建物が多かったのです。
またそれ以外にも、ちょうどこの映画に出てくるような建物がゴロゴロとしていました。……時代が止まっていた街だったので。
まるでデジャブでも見ているように、「うわー、懐かしい」と思いました。
そして、セットや、小道具や、服装の細かいこと細かいこと。路面電車、機関車、車などの乗り物。電化製品や日常用具。言い出すと切りがありません。
よくもまあ、ここまで時代の空気感を再現したなと感心させられました。
時代の再現に掛けた並々ならぬ労力のおかげで、完全に映画の世界に引きずり込まれる魔法を掛けられてしまいました。
次に、役者がよかった。
正直言うと、私は今まで吉岡秀隆と小雪という俳優をあまり好きではありませんでした。
吉岡秀隆は何だか優しそうな顔をしているけど、心の底では冷たそうだなという印象を持っていました。小雪は、冷たそうな顔をして、心の底でも冷たそうだなという印象を持っていました。
しかし、この映画でガラッと印象が変わりました。「吉岡秀隆、いい奴じゃないか」「小雪もなかなかいいぞ」と。
役者が好きになる映画に、悪い映画はありません。
大人の役者も、子供の役者もみんな輝いていました。そのなかでも、茶川竜之介を演じる吉岡秀隆はとても素晴らしかったです。
でもまあ、夏の淳之介に対する行為は、小説家としてきちっと反省して欲しかったです。これは役者の問題ではなく、脚本の問題ですが。
以下余談。ラジオで聞いたのですが、当時の髪の毛のゴワゴワ感を出すために、石鹸で頭を洗っていたそうです。
次は脚本です。脚本は「難しい脚本を見事にこなしたな」と思いました。
そもそも原作が短編集の集積で、そこから映画としてのストーリーを釣り上げるのが相当困難です。
そしてさらに、「家族の物語」と、「家族を持たない者の物語」を、「町と時代をメインディッシュ」にしながら描いていくというのは、かなり難易度の高い作業です。
でも、映画を見ている間中、「この世界をずっと見続けたい。活気が溢れ、優しい人々がいて、明るい未来を夢見るこの時代に浸っていたい」と思わせる出来になっていました。
そして、泣きあり、笑いあり、驚きあり。
脚本もとてもよかったです。
まとめです。いろいろ書きましたが、最大の功労者はエグゼクティブ・プロデューサーの阿部秀司氏かなと思います。
先週か先々週ぐらいの朝のラジオで山崎貴監督のインタビューが流れていました。
そこで聞いたのですが、阿部氏(であっているはず)が、前々からことあるごとに、「昭和の映画が作りたい、昭和の映画が作りたい」と周囲の人々に言っていたそうです。そして山崎監督にも同じことを語っていた。
そしてある日、「山崎君、決まったよ。三丁目の夕日になった。監督よろしく!」「えっ、僕ですか!」ということになったと(^^;
この映画は、「昭和の町と時代」がメイン・ディッシュです。
それが「商品や作品になる」と考えて動き回り、そして適切なスタッフを配した人がいた。これを素晴らしいと言わないわけにはいきません。最大の功労者という由縁です。
素敵な映画をありがとう!
心からそう言いたい映画でした。