2006年02月16日 20:19:59
映画「レイ」のDVDを1月中旬に見ました。
素晴らしかったです。
わりと長い映画なのですが、映画が終わったあと「まだ続いて欲しい」と思いました。
レイ・チャールズの人生を描いた映画なので、その人生の一時期を切り取っています。これは、映画として当然の処置なのですが、その抜き出し方が非常によいために「延々と続いて欲しい」と感じました。
この映画の最大の功労者は、レイ・チャールズ役を演じたジェイミー・フォックスだと思います。
レイ・チャールズ本人が出てきて、レイ・チャールズ本人をカメラで映し続けているようにしか見えません。
凄い。
圧倒的説得力を持って、彼が画面に存在し続けています。
そして音楽も素晴らしい。
この「レイ」という映画は公開当時、ラジオで「ジェイミー・フォックスの歌うレイ・チャールズの歌は凄い」と散々言われていました。噂に違わぬ出来でした。
音楽家を描いた映画として、こんなに幸せなことはないだろうと思いました。
一回見終わったあと、BGMとしてもう一回映画を流しっぱなしにしました。
非常によくできた映画でした。
以下、粗筋です。(終盤間近までのストーリーを書いているので、ネタバレが嫌いな人は読まないほうがよいです)
盲目の天才音楽家レイ・チャールズ。
彼は母からこう言われて育った。「お前を盲目だと言わせないでおくれ」
施しを受けず、自らの音楽で自分の人生を切り開いていく。そう心に誓うレイは、田舎から都会に出た。
「盲目ではあるが、馬鹿ではない」と、彼は自分のことを言う。
したたかさを持ち、才能を持つレイは、次第に音楽の世界で頭角をあらわしていく。
そんなレイに転機が訪れる。
アトランティック・レコードから、レコードを出す話を持ちかけられる。彼はレコーディング・スタジオに入るが録音はうまく進まない。
「物真似はいらない。君の音楽を聞きたいんだ。僕たちは、君のなかに何か光ものがあると感じたんだ」
盲目のレイは仕事を失わないために、様々な人気音楽家の真似をすることを好んで行なっていた。彼は自分の殻を破れずにいる。
そんな最中、彼は生涯の伴侶を見つけ、彼女の助言を聞き入れて自分の殻を破る。彼にしか出来ない音楽に気付いたのだ。
音楽家レイ・チャールズが誕生した。
彼は次々と自分の音楽を確立し、人生は上り調子になっていく。
しかし、その上昇の影には深い闇が横たわっていた。彼は麻薬に溺れていく。それは、彼の幼児体験に原因があった。
彼は幼い頃、目の前で死ぬ弟を助けなかった。そのことがトラウマになり、ことあるごとに彼の心を悩ませる。レイは逃避のために麻薬を使う。
音楽的成功と、麻薬による凋落。その二つのバランスは、危ういところで保たれていた。
しかし、徐々に麻薬はレイの体を、そして彼の周囲の人の人生を蝕んでいく。だがレイは麻薬を手放そうとしない。そんなレイが麻薬と訣別するためには、大きな犠牲が必要だった。
ジェイミー・フォックスの演技や歌も素晴らしかったですが、シナリオもしっかりしていました。
レイの苦境や苦悩、そして精神的成長、音楽的飛躍。これらの人生の上昇を描いた直後に、ガツンと麻薬による不穏な影が入ってきて、観客の高揚感を一気に反転させます。
成功が大きくなればなるほど、この反転の度合いも大きくなり、いつか破綻することが目に見えてきます。
何よりも、音楽面での成功が描かれているあいだ、観客が完全に麻薬のことを忘れてしまうのがよかったです。
一人の人間の人生を、どのように一本のシナリオにまとめるかというのは、脚本家の手腕が要求されます。この映画は、その難しい仕事に成功していると思いました。
非常に楽しめる映画でした。