2006年06月24日 15:52:36
映画「インサイド・マン」を劇場で五日前に見てきました。平日映画会に参加しての観賞です。
結論から先に書きます。面白かったです。当たり。
銀行強盗を“クールなアイデア”と“意外な設定”で行なう、頭脳戦系クライム・ムービー。
監督はスパイク・リー。氏の代表作である「マルコムX」は無駄に長くて、眠くてたまらなかったのですが、本作は非常にスピーディーで興奮しました。
また、脚本の人は、この映画がデビュー作だそうです。上手い。今後も面白い映画を生み出してくれそうな期待を持たせてくれました。
以下、粗筋です。(ネタバレにならない程度に)
ニューヨークの銀行に、塗装屋の姿をした一団がやって来た。彼らは突如銃を出し、行員と客を人質に取り、立てこもる。
銀行強盗たちは、その場に居合わせた者たち全員に同じ服装とマスクをさせ、自分たち自身も同様の格好をした。
彼らはたくみに人質を混乱させ、互いにコミュニケーションができない状況に追い込む。そして、誰が誰だか分からない状態にする。
銀行強盗発生の報を受け、ニューヨーク市警の交渉役刑事が現場にやって来る。
彼は犯人たちとの交渉を始める。敵は一人の男を窓口として要求を出してくる。
刑事はやり取りをしながら何とか情報を得ようとする。また、時間を引き伸ばしてチャンスを作ろうとする。
その頃、襲われた銀行の頭取は一人の敏腕女弁護士を雇う。
頭取は、事件の舞台となっている銀行の貸し金庫にある物を隠していると告げる。それが明るみに出た際、彼は名声の全てを失うという。
女弁護士は、コネの全てを導引して事件現場に乗り込む。彼女は刑事を説得し、犯人と直接交渉する機会を作る。
そして、彼女と犯人の交渉が終わったあと、刑事は次第にこの事件が「何かおかしい」と気付き始める……。
犯人、刑事、女弁護士という三者の思惑が交錯して非常に緊迫したストーリーを作っていました。
何より、三者の頭脳戦が楽しかったです。
そして、俳優がよかった。犯人がクライブ・オーウェン。刑事がデンゼル・ワシントン。女弁護士がジョディー・フォスター。
また、警察の現場指揮官にウィレム・デフォーなど、豪華俳優陣。凄いなと思いました。
クライブ・オーウェンが、ひたすら寡黙で冷静な犯人を演じれば、デンゼル・ワシントンが熱き情熱を持った勇猛果敢な刑事の姿を見せる。
そして、ジョディー・フォスターが小悪魔的な雰囲気を持った、ずる賢くて大胆不敵な女弁護士で楽しませてくれます。
いや〜、しかし、本作のジョディー・フォスターはよかった。明らかに憎々しげな女なのですが、それを補って余りあるキュートさがあるために周りもしぶしぶ振り回される……。
そういった非常に魅力的な女性を造形していました。そして表情がとてもよかったです。
ああいう女性なら、騙されてもいいよなと思いました。
あと、映画本編とは無関係ですが、オープニングの映像がとてもよかったです。
音楽と街の景色を組み合わせただけのものなのですが、これが小気味よく、そして荘厳さを備えた重量感を持っていて気持ちよかったです。
話は少し飛びますが、前回の平日映画会も“銀行強盗物”でした。しかし、こちらの「インサイド・マン」の方が何倍も出来がよかったです。
オープニングからして出来が違います。
非常に楽しめました。
以下、いろんな意味でネタバレです。
本作以外の作品についてもネタバレするので、ミステリー系の人は読まない方がよいと思います。
ちょうど、この映画を見る一週間ほど前に、西村京太郎の「殺しの双曲線」を読了しました。
この小説は、最初のページで「双子のトリックのお話です」と明言します。
そして冒頭で、双子であることを利用して、「どちらが犯人か分からないので逮捕できない」という状況を演出します。
この小説を見ていたので、「インサイド・マン」で、犯人が全員に同じ服を着せ始めた段階(序盤)で、犯人側と警察側の物語の筋が結論まで読めました。
でも、そこに女弁護士側のストーリーがうまく絡んで来ることで、“それだけではない”ということが明示され、うまく物語をミステリーの状態のまま保ち、引っ張っていました。
そこに「トリックは読ませても、物語は読ませない」という脚本家の意気込みが感じられました。
そして最後の結末は、なかなか粋な感じでした。ああいう締めは嫌いじゃない。
クライム・ムービーとして、非常に“清潔で”よくできた物語だなと思いました。