映画「ミリオンダラー・ベイビー」のDVDを五月下旬に見ました。
よかった。抑えた演技が非常に心に響いてきました。
これは、評価高いよなと思いました。
散々あらすじを周囲から聞かされ、すでにネタバレしていましたが、そんなことは関係なく、ぐっとくる作品でした。
以下、粗筋です。(ネタバレは終盤間近まで)
最高のカットマン(止血する人)であり、ボクシングのトレーナーでもある主人公(クリント・イーストウッド)は、自分が育てたボクサーの試合の帰りに、一人の女性に声を掛けられる。
彼女は女性ボクサーだという。そして、彼にトレーナーになって欲しいという。
しかし、主人公は、女は育てないという理由で拒絶する。
彼女はジムまで来て、勝手にトレーニングを始める。そして、その建物に住み込んでいるかつてボクサーだった老人(モーガン・フリーマン)に気に入れられる。
この老人は、かつて主人公と臨んだ最後の試合で片目を失った。
老ボクサーは、そのことを悔いていなかったが、老トレーナーはそのことを心の傷として残しており、ボクサーの安全を第一と考えるようになっていた。
トレーナーは、自分が育てたチャンピオン間近の男に逃げられて落ち込む。あまりにも大切に育て過ぎたせいで、チャンピオンへの挑戦を先伸ばしし過ぎたのだ。
彼は、空いた時間と、心の空虚さを紛らわせるために、女ボクサーのトレーニングを始める。
彼女はすでに30歳を超えていた。根性だけしかなかった彼女だが、名トレーナーの訓練を受け、みるみる成長していく。
そして、彼女は世界に羽ばたく。老トレーナーと、老ボクサー、そして女ボクサーは喜びを分かち合う。
お金を得た彼女は、老トレーナーに自分の家族を紹介する。だがそれは問題のある家庭だった。トレーナーは、彼女にとって“ボクシング”が唯一の心の拠り所“プライド”になっていることを知る。
彼女は快進撃を続け、世界タイトルマッチに挑む。そしてそこで悲劇が起きた……。
重い作品ですが、途中で緩むところもなく、二人の老人と、女性ボクサーの演技でぐいぐいと物語を引っ張っていきます。
クリント・イーストウッドの頑固親父っぷり。モーガン・フリーマンの人生を悟りきったような優しい視線。女ボクサー役のヒラリー・スワンクの、根性だけはあるけど、ほかは全然駄目な様子。
三人が、地味だが堅実に観客を物語に引きずり込んでいきます。
舞台は薄暗く汚く、物語も非常に暗いのに、確かな演技力が見ている人の目を離しません。
そして、最後の結末。
老トレーナーと女ボクサーのとった決断に賛否両論があるのは知っていましたが、あれはありだと思いました。
彼女が、それだけを心の拠り所として精神を保っていたことを、きっちりと描いていたので。
そういう部分が描けていなければ認められない決断ですが、この映画に関してはありだろうと思いました。
以下、映画を最後まで見た人向け。(ネタバレ?)
この映画を見て、けっこう心に来たんだなと思ったのは、その日の夜に、自分が死ぬときの夢を見たことです。
街のなかで、腹を刺されて死にかけていたのですが、周囲の人に病院まで運んでもらうように指示して、肩を借りて、必死に歩いて向かおうとしていました。
肩を貸してくれたのは、一人は家族、もう一人は友人。友人は、いったん拒絶したあと、肩を貸してくれました。それとは別に、三人ほどの友人が周囲にいました。
どう見ても死ぬ深手だったのですが、「生きている限り、生き延びる努力を中断せず、最後の瞬間まで生きようとする」ということをぶつぶつと呟いていました。
目が覚めると、わけも分からず涙がこぼれていました。
どうやら、自分自身は「ミリオンダラー・ベイビー」の結末に納得していなかったようです。
私の思想とは真反対なので。
でもまあ、よい映画でした。