映画「エド・ウッド」のDVDを六月上旬に見ました。
ティム・バートン監督の作品で、白黒映画です。前から見たかったけど、近くのレンタルショップになく、TSUTAYAに行ったらあったので借りてきました。
たぶん、私の友人のほとんどは、エド・ウッドの存在を知っているでしょう。
“最低映画監督”として名高い、あの人です。
本作は、“作る映画”は最低だけど、“映画に掛ける情熱”だけは人一倍のエド・ウッドが、往年の怪奇映画俳優ベラ・ルゴシ(「魔人ドラキュラ」のドラキュラ役で有名)と、“ちょっといい話”の振りをして、“滅茶苦茶なこと”をする映画です。
ともかく凄い馬力で映画を作っていくわけですが、彼ほど「“妥協”という言葉の意味を知らない」監督はいません。
「これは僕の映画だ、僕が全て決めるんだ!」と騒いだ直後、あっさりと前言を撤回して、ともかく妥協に妥協を重ねていきます。
しかも本人は、自分が妥協したことにすら気付いていない。
そりゃあ、出来が凄いことになるわ……。
映画中、ベラ・ルゴシがこう言います。「他の監督は、一日に一シーンしか撮らないけど、彼は違う。五シーンも一気に撮るんだ!」
押さえのテイクも撮らなければ、俳優が扉にぶつかっても撮り直しなど一切なし。「えっ、だって問題ないでしょう?」
そして、凄い勢いで映画を作っていきます。
えー、完全に天然の人です。ええ……。
このエド・ウッドを演じるのは、ティム・バートンの盟友とも言うべき、ジョニー・デップ。
実は、エド・ウッドには隠された性癖があります。「女装癖」です。
最初はそのことを隠していたエドですが、途中から「もうどうでもよくなってきて」「ノリノリで」女装をし始めます。
「だって、女装をすると落ちつくんだよ!」
映画が行き詰まると、控え室に行き、女装して戻って来ます。
「カシミヤのすべすべがたまらない」そうです。(カシミヤのセーターをすぐ着たがる)
あと、エド・ウッドは、オーソン・ウェルズを非常にリスペクトしています。「市民ケーン」がお気に入りです。
そんなエドに、ウェルズ絡みのちょっといいシーンがあったりもします。
馬鹿らしく、滑稽だけど、愛すべき“映画馬鹿”たちが奔走する楽しい映画でした。
映画の最後は、出て来た人たちのその後を次々と紹介していくのですが、それもまた面白かったです。
どうでもよい端役をやっていた人まで、だらだらと紹介が続きます。
そのなかでも面白かったのは「自分のファンクラブを作った人」。全てにおいて、B級テイスト漂う面白い映画でした。
(この映画自体はB級ではないのですが)
以下、粗筋です。(ネタバレあり、終盤まで書いています)
舞台監督をしたり、脚本を書いていたエド・ウッドは“超”がつくほど楽観的な男。
「軍人の服だけは本物っぽかった」と新聞の演劇欄に書かれれば「服がリアルだと誉められた!」と喜ぶ始末。
しかし、彼の行なう演劇は行き詰まりを見せている。そんな中、彼が目を付けたのは映画だった。
ハリウッドに出入りをしていた彼は、「性転換して女になった男の映画を撮る」という会社に自分を売り込みに行く。
そして「僕こそが、この映画を撮るのに、最も相応しい男ですよ!」と声高に言う。
「なぜなんだ?」と聞かれたエドは、「だって、僕は女装が大好きなんだもん!」と自分の性癖を披露する。
また彼は、数日前に偶然出会った“往年の怪奇映画俳優ベラ・ルゴシ”を映画に格安で登場させるとも言う。
ベラは既に世間から忘れられており、よぼよぼのおじいちゃんになって困窮していた。
運よくその映画を撮ることになったエドは、脚本を仕上げて自分の彼女に見せる。その物語は、「女装好きの男性が、彼女に性癖を打ち明ける」という内容だった。
「何よこれ! 私たちの生活をそのまま書いているだけじゃない!」
怒る彼女。扉を開けた先には、恥ずかしそうに女装しているエドの姿があった。……彼女は呆れ果てる。
翌日、意気揚揚と脚本を映画会社の社長に見せるエド。「なんだ、これは! 性転換した男の話ではなく、女装癖の男の話じゃないか!」社長は激怒する。
しかし、どうにか最低限の予算をもらい、エドはスタッフやベラ・ルゴシとともに撮影を開始する。エドは、「魔人ドラキュラ」の映画が大好きで、ベラ・ルゴシを撮るだけで大喜び。
どうにか映画は完成して、公開される。しかし評判は最悪。でも、エドはめげない。「次の映画は『原子の花嫁』だ!」
しかし、予算は付かずに干される。「じゃあ、直接お金を集めればいいんだ!」
エドは出資を募るパーティーを開き、お金を掻き集める。
そんなエドの周りには、一癖も二癖もある、変な人たちが多数集まってくる。
当然映画は、わけの分からないものになり評価は散々。彼女にも振られる。ベラ・ルゴシも、長年の麻薬がたたり、入院する羽目に。
ベラが大好きなエドは、ベラの入院に付き添い、そこで新たな彼女を見つける。
「人生の最後に楽しい時間が過ごせた」と、ベラはエドに感謝しながら天国に行く。
エドは、そんなベラの最後の姿をフィルムに焼き付けていた。
「あっ! このフィルムで、ベラの遺作が作れるぞ!」
たった、数分のフィルムに、適当に肉付けしたり、代役を駆使したりして、エドは新作を作っていく。
そして“ベラの遺作”が公開された。その評価は……。
ともかくエドが馬鹿でよかったです。条件反射だけで生きているような人でした。こういった奇妙な人を演じさせると、ジョニー・デップは上手いですね。
とても楽しい映画でした。
映画を見終わったあと、この映画に触発されて、ベラ・ルゴシの「魔人ドラキュラ」を借りてきました。