映画「魔人ドラキュラ」のDVDを六月上旬に見ました。
ベラ・ルゴシ主演の白黒の怪奇映画です。この数日前に見た「エド・ウッド」に触発されて借りてきたものです。
短い尺でしたが、歴史的作品として楽しみました。こういう歴史上重要な位置にある作品は押さえておいた方がよいですので。
映画としては「まあそれなりに楽しい」というものでした。当時としては怖かったらしいですが、今見ると「まあこんなものだろう」という感じです。
しかしまあ、ベラ・ルゴシは“目力”のある人ですね。
眼力というか、目に圧力を感じます。元々演劇でドラキュラ役をやっていたそうですが、はまり役だなと思いました。
以下、粗筋です。(ネタバレがありますが、古典なのでよいでしょう。最後まで書いています)
トランシルヴァニアの古城に住んでいたドラキュラ伯爵の許に、イギリスからの客人が来る。
英国の土地を購入するためにドラキュラが呼び寄せたレンフィールドという不動産屋だ。
彼はドラキュラの手に掛かり下僕となる。
伯爵は、昼間寝るための“故郷の土”を棺に入れ、嵐の海を越えてイギリスに渡る。そしてその地で医者の娘に狙いを定める。
彼女の父親の経営する精神病院には、ドラキュラと同じ船で帰国したレンフィールドが収容されていた。また、同じ病院には、医師の友人として科学者のヴァン・ヘルシング教授も滞在していた。
ヘルシングは、超常の領域までをも研究対象としており、レンフィールドを手掛かりとして、ドラキュラの正体を見抜く。
そして、医師の娘の婚約者とともにドラキュラを追い、さらわれた彼女を取り戻そうとする。
二人は、ドラキュラが昼間寝ている棺の在り処を突きとめる。ヘルシングは棺を壊して木の杭を作り、伯爵の心臓を貫いて倒す。
74分と尺がとても短かったです。きれいにまとまっていました。古典的名作として、きちんと楽しめました。
さて、今回見たDVDの見所はもう一つあります。特典映像です。「ドラキュラへの道」と題されたドキュメントです。
これが非常によかった。
この映画はユニバーサルの作品なのですが、その社長の姪(?うろ覚え)だったかが案内役をしています。
この女性は、同映画の冒頭の馬車のシーンで“映画中最初の台詞をしゃべる女優”として登場します。
「今でも、私の許に、魔人ドラキュラに出演していたことでファンレターが届くのよ」と言っているおばあさんは、非常に誇らしげでした。
この特典映像は、まずは原作の「吸血鬼ドラキュラ」の“誕生までの道程”を解説します。
ブラム・ストーカーが、当時どういう仕事をしていたか、どういう風にプロットを書いたのか、そして、“吸血鬼”と“ドラキュラという実在の人物”をどう結び付けたのか。
ここだけでも非常に面白いです。
当初ブラム・ストーカーは、ドラキュラという人物を知らずにプロットを書いていて、あとでドラキュラの存在を知り、プロットのなかに組み込んだそうです。
新聞などから情報をいろいろと集めていたようですね。
そして次に、「原作が世に出て以降の舞台化や映画化の歴史」が解説されていきます。
中身は「ドラキュラ」なのに、権利の許諾を取らずに作ったドイツ映画の「ノスフェラトゥ」などは、非常に見てみたいと思いました。
その後、話はアメリカでの演劇版ドラキュラに移行します。”ドラキュラ俳優”であるベラ・ルゴシの渡米の理由と、アメリカでの俳優活動も紹介されます。
そしていよいよ本作「魔人ドラキュラ」の製作の話に入ります。
この「映画撮影の話」もとても面白かったです。
当時は、まだ吹き替えが一般的ではなく、本作の撮影と同時にスペイン語版が別キャスト、別監督で撮影されたこと。
そして、昼に英語版を撮影して、夜は同じセットと小道具で、より趣向を凝らしてスペイン語版を撮っていたことも語られました。
どういう状況かと言うと、「英語版を見たスタッフが、それを元にしてより派手にスペイン語版を作った」そうです。
「うーん、こちらも機会があれば見てみたいな」と思いました。
また興味深かったこととしては、当時はまだ無声映画が一般的で、映画館の中には音声の設備がない場所も多かったということです。
なので、監督は台詞の数を極力減らして、無声映画としても成り立つように撮ったとのこと。
時代によっては、そういう苦労もあったのかと感心しました。
特典映像が本編に匹敵するほど面白いことはあまりないのですが、この映画に関してはそういう現象が発生していました。
非常に儲けものの一本でした。