映画「バタフライ・エフェクト」のDVDを六月下旬に見ました。
“時間戻り、やり直し物”の話でしたが、よくできた映画で楽しめました。
公開時から評価が高かったですが、これは名作になるポテンシャルを持った作品だと思いました。
以下、粗筋です。(中盤ぐらいまでのネタバレあり)
主人公の父親はかつて天才であり、精神病院に入れられていた。子供時代の主人公は、たびたび記憶を失うことがあった。
彼は記憶が途切れないようにするために、精神科医の勧めで詳細な日記を付け始める。
主人公は、友人や、淡い恋心を抱く少女や、その兄とともに少年時代を送る。それは、数々の“やり直したい苦い体験”を伴うものだった。
彼は大学生になる。青年は父と同じように高い知性を発揮する。
故郷を離れて以来、彼は記憶を失うことがなくなっていた。そんなある日、彼は久しぶりに記憶を失う。そして、その間に過去の記憶が蘇る。
気になった主人公は、かつて一緒に少年時代を過ごした女性の許を訪ねる。そして、自分の記憶を確かめるために、彼女の体験を聞き出そうとする。
だが、その経験は彼女にとって忌まわしいものだった。その夜、彼女は自殺する。
主人公は後悔する。そして、“本気”で人生をやり直したいと願う。彼は自分の日記を読み直し、どこで自分は間違ったのかを考え出す。その時、不思議な出来事が起こった。
彼は“少年時代に記憶を失っていた時間”に戻ったのだ。そして、その失われた時間のなかで彼は自由に振る舞う。主人公は、かつて失敗した選択を変える。
気付くと彼は大学時代に戻っていた。そして、死んだ彼女が復活して、自分の恋人になっていた。
不幸な過去は消え去り、幸福が彼の許に訪れていた。彼はその幸せを徐々に受け入れる。そして、それが何物にも変え難いものだと確信する。
だが、その喜びは長く続かなかった。自分と彼女が結ばれた代わりに、彼女の兄が凶悪な犯罪者に変わっていた。彼はその兄と戦い、殺してしまう。
主人公は殺人犯となる。
彼は再び過去を改変しようとする。最良の結果を導きだすために、彼は何度も過去にさかのぼり“今”を変えようとする。
そして、自分の能力の秘密を知るために、天才だった父のことも知ろうとする……。
過去の一点を変えることで、未来が大きく変わってしまう。確かに“バタフライ・エフェクト”だなと思いました。
単なるタイム・トラベル物ではなく、閉じた世界のなかで寓話的にまとめているのは好感を持てました。
特に、本人のみでなく、親子二代が微妙に絡むという構成(ただし、複雑にならないように親側の話は最低限にとどめている)は、上手いなと思いました。
何より、映像効果の使い方がよくできていると感じました。時間逆行の表現が秀逸。
“時間逆行”は、この作品で一番の“虚構”の部分なのですが、原理を一切説明せずに“非常に不思議な体験”として描くことで、説明を回避しています。
これは“映画という限られた尺”のなかで物語を語る必要上からは正解だなと思いました。
さて、この映画は、ジャンル的にはSFなのでしょうが、SFとしては破綻しています。
結論に必然性がない。
物語の力学的には正解なのですが、SFとしては正解ではない。
感情的には正しい結果なのかもしれませんが、論理的には無茶な結果です。
完全なネタバレになるので書きませんが、「惜しいな」と思いました。
そして、「過去に戻って歴史を変えたことは、改変した本人だけしか分からない」という原則があるはずなのに、その原則も破っています。
刑務所でスティグマータが浮かぶところです。大原則を無視している。
映画としては完成度が高いのですが、SFとしては欠陥品でした。
DVDには、ラストシーンの別バージョンがいくつか入っていました。
蛇足。
監督が、最後をどうするかいろいろと悩んだのは分かりますが、それを実際に作ってぶつぶつと語るのはどうかと思いました。
まあハリウッドなので、何種類か作って、試写会をやって、観客の反応を確かめてどの結末にするか決めるといったことをしたのでしょう。
でも、作品としては一本に絞るべき。「ノベルゲームじゃないんだから」と思いました。