2007年01月25日 13:46:45
映画「007 カジノ・ロワイアル」を劇場で五日前に見ました。
アクション映画として非常に楽しめました。
出て来るアクションが、それぞれ手に汗を握るテンポのよいもので、主演のダニエル・クレイグのワイルドさと相俟って、映画を重厚なアクション映画にしていました。
また、アクションの合間の会話も非常に小気味よく、観客を飽きさせません。
緩むところなく、ガシガシと(サクサクという軽い食感ではなく、ガシガシという重い食感で)話が進んでいきます。
以前劇場で見た「007 ダイ・アナザー・デイ」の時は、一緒に見に行った友人とともに途中で寝落ちしたのですが、今回の映画ではそういったことは一切なかったです。
というか、全編、ぐいぐいと引き付けられっぱなしでした。
以下、粗筋です。(ネタバレあり。中盤ぐらいまで書いています)
007になったばかりのジェームズ・ボンドは、「テロリストの資金を運用している男」を追っていた。
その男ル・シッフルは、天才的な頭脳を持ち、株を使ってその資金を増やしていた。
ボンドは爆弾魔を追い、ル・シッフルの尻尾を掴む。その“株屋”が企んでいたのは、航空機メーカーの株の空売りだった。
彼は、新たに開発された世界最大のジャンボジェット機を爆破することで、株価を下げて大儲けする予定だった。
だが、ボンドはその企みを防ぐために奮闘する。空港での大立ち回りの結果、ボンドは、ジェット機の爆破を食いとめる。
おかげで株価の大暴落はなく、ル・シッフルは多額の借金を作り窮地に立たされる。テロリストたちは彼に刺客を差し向け始める。
ル・シッフルは、その天才的頭脳を使っての得意技が二つあった。一つはチェス、もう一つはポーカー。
彼は株での負け分を取り戻すために、富豪たちの集う“カジノ・ロワイアル”に出席することに決める。そこは、一人だけが全てを奪う、ポーカー勝負を行う場所だ。
そして、MI6で最もギャンブルの強いボンドが、その戦いの場に送り込まれることになった……。
話は二つのチェイスになっています。
ル・シッフルを追うジェームズ・ボンド。そして、途中から加わる、ル・シッフルを追うテロリスト。
この二つのチェイスが途中で絡み合いながら話は進んでいきます。
そして、いやが上にも盛り上がる“カジノ・ロワイアル”。
こういったギャンブル勝負は、演出によっていくらでも盛り上げることができるのですが、やっぱり面白かったです。
とはいえ、「ル・シッフル側:株で負けたからギャンブルで勝負」「ボンド側:追い詰めるために、国の金でギャンブルに参加」というのはどうよ? という気はしました。
まあ、始まってみれば、場外の駆け引きも含めて非常に面白かったので「まあいいや」という気になりましたが。
このカジノシーンも、アクションシーンに負けず劣らず興奮しました。
さて、この映画はアクションが非常によかったです。
テンポのよい編集、そして次々に飛び出す“肉体派”のアクション。
そんなアクションのなかで、最初に度肝を抜かれたのは、冒頭の「鉄骨上り」のシーンでした。
このシーンでボンドは爆弾魔を追っています。
その爆弾魔が逃げ込んだところが、建設途中の骨組みだらけのビル。
そして彼がいきなり取った行動は、鉄骨の“H”型になっている断面に手の指を引っ掛けて、まるでクラウチングスタイルのような体勢で、上に向けて“駆け上がり”始めるのです。
ビルの鉄骨を縦向きに“走る”という発想はなかったので、いきなりびっくりしました。
そのあとは、工事現場を縫いながら、“縦”にアクションを展開していき、さらに、クレーンの腕の上を走ったりしながら、まるでジャングルジム状態で高速チェイスを行っていきます。
このチェイスの仕方もよくできていました。
逃げる爆弾魔は、目の前の障害物を身体能力を駆使して乗り越えていきます。
対してボンドは、走りながらも冷静に周囲の状況を観察して、より効率のよい方法を瞬時に判断して間合いを詰めていきます。
このチェイスシーンで、この“ボンド”という人物が、肉体だけではなく知性もあり瞬時の判断力に富んだ人物であるということが如何なく説明されていきます。
映画の冒頭で観客を引き込むためのアクションを行っているように見せて、実はそこで周到な計算の元に新生ボンドの人物像を伝えている。
上手いなと思いました。
またこの冒頭だけでなく、全編、アイデア満載の面白いアクションを次から次に繰り出してくる映画でした。
さて、この“新生ボンド”ですが、“マッチョ”です。“強面”です。そして“タフネス”です。
甘いマスクの今までのボンドとは違い、重戦車のような風貌です。
そして、飢えた一匹狼のような印象を与える人物です。
特に、その肉体が与える印象は強烈です。ボディービル系の筋肉ではなく、上半身の胸から上は丸太のようで、腹は樽のような脂肪の付いた体です。
つまり、見せるための筋肉ではなく、敵に打撃を与え、受けたダメージを防ぐための筋肉。
無言のうちに、「俺は殴り合いをするつもりなんだよ」と訴え掛ける筋肉です。
映画中、何度も死にかけて、その直後に無理矢理復活して戦線復帰するのですが、この筋肉を見せ付けられているために、「無茶だ」ではなく「凄いタフネスだ」と納得させられました。
また、悪役もよかったです。
“血の涙を流す”という、物凄く悪役っぽい設定で、ぜんそく薬を多用して、天才的頭脳を持っているル・シッフル。
非常に“らしい”悪役でした。
また、ふんぞり返っているだけでなく、他の敵にも追われて切羽詰っている様もよかったです。
非常に病弱な印象の役だったのですが、プログラムを読むと、演じている俳優本人は非常にスポーツマンの肉体派だと書かれていました。
かなりギャップのある役を演じているようでした。
脚本家についても触れておきます。
脚色としてプログラムに名前が出て来るのは、「ニール・パーヴィス&ロバート・ウェイド」「ポール・ハギス」です。
ポール・ハギスは、「クラッシュ」で製作・監督・共同脚本、「ミリオン・ダラー・ベイビー」で脚本と製作、「父親たちの星条旗」で共同脚本、そして「硫黄島からの手紙」で原案を担当しています(プログラムより抜粋)。
まさに脂が乗り切っている、今が旬の人という感じです。
この名前には、今後注目していこうと思います。
さて、脚本ですが、最後は少し尻すぼみの感がありました。
「まあ、あそこで話は終わりだよな」とは思いましたが、「あっけなく終わった」という感が強かったです。
「なんか、もうちょっと上手くやれたような気がする」と思いました。
最後に脇役について書いておきたいと思います。
個人的に一番受けたのは「CIAのエージェントのフェリックス・レイター」です。
007の物語ではセミ・レギュラー的存在らしいのですが、このキャラが面白かったです。
「なあ、ボンド頼むよ〜〜」という感じで、いい具合の駄目キャラを演じていました。
あと、MI6の部長の「M」。
ボンドに勝手に自宅に押しかけられてぷりぷと怒っていたのですが、その様子を見ながら「実はボンドは、Mのことを好きなんじゃ」と思いました。
男の子が女の子を困らせて喜ぶような愛情表現……。ボンドは、何気に年上の女性が好きそうだし。
映画中、二人の関係を見ながら何度かそう思いました。