映画「ロスト・チルドレン」のDVDを十二月中旬に見ました。
ジャン・ピエール・ジュネ監督の作品です。
ジュネ監督の作品で私が見たことのあるのは「アメリ」と「デリカテッセン」の二作です。今回の「ロスト・チルドレン」は三作目になります。
造形や映像美は楽しめましたが、物語はそれほど面白くありませんでした。
この映画を見て思ったのは、ジュネ監督は女の子を可愛く撮ることに執念を燃やしているのではないかということです。
「デリカテッセン」では、女の子の挙動や行動がとても可愛かったです。
今回見た「ロスト・チルドレン」では、ジュディット・ビッテ演じるミエットが、やばいぐらいに可愛かったです。
私の勝手な想像ですが、「アメリ」では「女の子を可愛く撮りたいだけなんだよ!」と開き直って撮ったのではないかと思います。
「ジュネ監督の撮る女の子は可愛い」というのが、今のところの私の評価です。
さて、ジュディット・ビッテ演じるミエットの話です。
□Googleイメージ - Judith Vittet
http://images.google.com/images?svnum=50&hl=ja&lr=&q=Judith+Vittet ミエットは「美形で有能で思慮分別がある九歳の女の子」です。この映画では、その設定を見事に映像化しています。
子供の体に、知性を感じさせる美しい顔立ち。そして、大人を思わせる表情。
ただ女の子を撮っただけでは、この映像は作ることができません。
上手く化粧をさせて、子役に適切な演技をさせ、照明を工夫し、正しい角度で撮らなければそのニュアンスを適切に表現することはできません。
この映画では、それが見事にできています。
そのために「上手くやっているな」と思った点をいくつか列挙していきたいと思います。
・当たり前ですが、顔の綺麗な役者を選んでいる。
・肌が白磁のように滑らかになるように、徹底的に美しく化粧をしている。
・マスカラなど、目を強調する化粧をすることで、アンニュイな大人の雰囲気を出している。
・柔らかなソバージュの髪で適度に顔を隠すことで、顔の輪郭をぼかして神秘的な印象を作っている。
・影が濃くできるように照明を当てることで、顔の陰影を作り、子供の顔立ちに大人の雰囲気を作っている。
・黒髪と影を上手く使い、闇の中で顔が浮き上がって見えるように演出している。
・口もとのほくろが、大人びた雰囲気を作っている。
・表情をかなり抑えさせ、観客に知的な印象を与えるようにしている。
・顔を大人に近付けるようにしているが、その反対に体は、体型を感じさせないすとんとした服を着させることで、子供の印象を強調している。
ざっと思いついた部分を列挙してみました。
前半から中盤に掛けての徹底的な上記のような描写があるために、終盤に子供らしい表情を見せるミエットが非常に魅力的になっています。
本作を見て、「ミエットの描写を見るだけでも、この映画は見る価値があるな」と思いました。
まあ、それだけではなく、種々の造形や映像美も楽しむことができたのですが。
以下、粗筋です。
町では幼児誘拐事件が多発していた。そして、サーカスの怪力男の弟も誘拐されてしまう。
怪力男は、幼い弟を探しているうちに、子供窃盗団のミエットという少女と仲良くなる。二人は一緒に弟を探し始める。
だが、ミエットは怪力男との捜索にのめり込むあまり、窃盗団のボスである双子の老女を裏切ってしまう。
ミエットは双子の老女に殺されかける。だが、命を取り止める。
彼女は、しばらく怪力男と離れて過ごすことで、自分が彼を愛していることに気付く。
怪力男とミエットは合流し、弟を助けるために、洋上に浮かぶ要塞へと向かう……。
たぶん、この作品の評価で分かれるのは、物語の“粗”な作りだと思います。
がっしりと骨太な造りではなく、形が不定形な海綿のような作りになっています。
「物語全体のなかで、ここはこうでなければならない」という脚本ではなく、「ここでは何か面白いことをしてみたいので、こういったシーンを入れてみました」という感じの脚本です。
そういった作り方は、観客の感性とシンクロするかどうかで評価が高くなったり、低くなったりします。
つまり平たく言うと、万人向けの作りになっていない。
エンターテインメントというよりは、アート寄りな作りとも言えます。
というわけで、私には面白くありませんでした。
まあ、ジュネ監督のこういう方向の感性は私とはシンクロしないというのは「デリカテッセン」で分かっていたので。
今回の映画で、「この時期の作品はやっぱり波長は合わないよな」と再認識しました。
ジュネ監督で、唯一波長が合うのは「女の子の描き方」です。これは非常に共感できました。
それを確認できただけでも、見た価値はあったと思いました。
注:ちなみに「アメリ」は非常に面白い映画で、高く評価しています。