映画「トゥルー・クライム」のDVDを三月中旬に見ました。
クリント・イーストウッドが監督・製作・主演の1998年の映画で、無実の罪で死刑になる人をジャーナリストが救おうとするという物語です。
面白かったのですが、一点だけ、どうしても気になる点がありました。それは、後で書きます。
以下、粗筋です。(ネタバレというほどのことはないです。中盤ぐらいまで書いています)
主人公は新聞記者。女と酒にだらしのない妻子持ち。
彼はある土曜日の夜、同僚の入社一年目の女性記者をバーで口説いていた。何とかキスまではこぎつけるが、そこから先は拒まれてしまう。
その彼女が、帰りの運転で事故を起こして死亡した。
主人公はその事実を知ってショックを受ける。そして、「彼女の仕事を代わりをするように」と編集長に命じられ、「分かった」と答える。
彼は、女性記者が今日の夜に死刑になる男の面会に行き、記事を書く予定だったことを知る。
そして、資料を見ているうちに、この死刑囚が実は無実の罪で投獄されているのではないかと疑い始める。
なぜならば、殺されたのは白人の妊婦、目撃者二名はいずれも白人、そして死刑囚は黒人、事件に使われた拳銃は発見されていないからだ。
この事件のタイムリミットは今日の二十四時。その間にできるだけの調査をしようと主人公は考える。
そんな彼の許に電話が入る。妻からのものだ。娘を動物園に連れていくという約束を忘れていると。
彼は現在、妻とは微妙な関係だ。女と酒にだらしのない彼は、妻に見放される寸前だった。
他人の命も大切だが、自分の人生も大切だ。彼は、娘を動物園に連れていく。その合間に、事件現場を訪れたり、取材のアポを取ったりする。
そして、急ぎすぎて娘を怪我させてしまう。彼は妻に娘を送り届け、事件を追う。妻は当然激怒する。
「俺が頼れるのは、この鼻だけだ」
彼は自分が駄目な男だと重々承知している。しかし、事件を嗅ぎ付ける“鼻”だけは一級品だと信じている。
調査や聞き込みの結果、目撃者が拳銃を見たという証言はどうも嘘のようだと判明する。
主人公は死刑囚に会い、彼はやっていないと確信する。
今日の死刑執行を止めるには、真犯人を見付けて、死刑の延期を決定できる知事を説得する以外にはない。
彼は残り少ない時間の中で、持てる力をフルに使って無実の罪で死刑になる男を救おうとする。
この映画は、二つの基本ストーリーを持っています。そして、その話が交互に進みます。
ストーリーA:死刑囚の最後の一日
ストーリーB:新聞記者の奮闘の一日
途中、面会時に会う以外は、基本的に別個の物語として進んでいきます。
「死刑囚の最後の一日」は、前半は、どうやって死刑囚が最後の一日を過ごすかを見せて、観客の興味を繋ぎとめます。
そして後半は、妻子との最後の面会と別れを描き、一気に死刑囚に感情移入をさせます。
前半、死刑囚は必死に感情を抑制しようと努めているため、後半の感情の発露はより強く感じるようになっています。
また、「新聞記者の奮闘の一日」では、最初に“気付き”があり、次に“調査と確信”の段階があり、最後に“証拠にたどり着く”段階と、“解決”の段階と進んでいきます。
「死刑囚の最後の一日」では、時間はゆっくりと流れていきますが、「新聞記者の奮闘の一日」は、非常に速いテンポで時間は流れていきます。
それは、毎回こちら側のストーリーになるたびに、必ず新しい「ハラハラドキドキする要素」が仕込まれているからです。
それは、事件に関係する物もあれば、しない物もあります。たとえば、不倫の発覚とか、編集者との喧嘩とか、娘を泣かせてしまいそうとか、そういった物です。
そうやって、こちら側のストーリーで緩急の“急”を作り、死刑囚側のストーリーで“緩”を作っています。
この構成が、非常にシステマティックで面白かったです。
さて、「一点だけ、どうしても気になる点がある」と最初に書いたことについてです。
それは「たった一日で死刑を止められるのか?」ということです。
これだけは、「ありなのか?」とずっと疑問でした。
DVDには、メイキングやインタビューが付いていました。
この映画は、実在の事件を元に作られたそうです。といっても、インタビューを聞く限り、インスパイアーという程度で、全然別物の話です。
共通点は、冤罪事件というところだけです。
それにしても、冤罪事件は怖いです。
生活の基本は食と安全なのですが、その安全を守るべき国家に安全を奪われるのは避けたいものです。
まあ、そんなものを守ってくれる国家は、歴史上少ないのですが。だいたい、国家が守るのは、国家や特権階級であって、国民ではないので。
そういうことを考えると、本当に暗澹たる気分になります。