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2007年05月03日 00:20:02
裸足のピクニック
 映画「裸足のピクニック」のDVDを、三月下旬に見ました。

「ウォーターボーイズ」や「スイングガールズ」の矢口史靖(シノブ)監督の商業デビュー作。1993年の映画です。

 いやあ、黒くてよかったです。

 なんというか、監督の腹黒さがよく分かる、女の子が次々と不幸な目に遭うブラックコメディーでした。

 映画ではこういう芸風の人はあまり記憶にないですが、マンガだと、山本直樹(森山塔、塔山森)辺りがの雰囲気が一番近いと思います。



 これはよい映画でした。

 たぶん、善良な人は、腹を立てたり、気分が悪くなったりするのでしょうが、こういうのが好きな人は、酒を飲みながら、数人で黒い笑いを堪能しながら楽しむことができます。

「次は、いったいどういう酷い目に遭うんだ?」

 そんな黒い期待を抱きながら、サディスティックな気分でゲラゲラと笑う、非常に酷い映画(褒め言葉)でした。

 しかしまあ、見る人を選ぶ映画だなと思いました。私は非常に楽しみましたが。



 あと、これは書いておかないといけないですが、細かな描写の積み重ねが非常に上手かったです。

 普通の描写に、一つか二つ、心情を窺わせる行動や描写を付け加えることで、主人公の脱力感や、やるせなさといった感情の襞を上手く表現していました。

 こういった部分は、非常に勉強になるなと思いました。



 以下、粗筋です。(ネタバレあり。最後まで書いています。ネタバレが嫌な人は適当なところで飛ばして下さい)

 女子高生の主人公は、キセル乗車がばれて捕まってしまう。駅の事務所を逃げ出して駅員を振り切るが、鞄の中身を全部ぶちまけてしまい、学校に問い合わせをされてしまう。

 主人公は母親ともども呼び出される。

 暗澹たる気分に浸る主人公は、家に帰らず、祖母の許へと行く。だが、祖母の家にはなぜか両親がいた。祖母が死んで、両親が葬式のためにやって来ていたからだ。

 葬式の帰り、遺骨を抱いて家族で車で返る途中、バイクと衝突事故を起こしてしまう。

 主人公は、一人で遺骨を運んで家に戻ることになる。

 だが、その途中で転んでしまい、骨壷は割れて、道路に骨がばらまかれる。さらにそこに道路清掃車が通り、遺骨を全部ブラシで掃除して持ち去ってしまう。

 次々に起こる不運に、主人公は絶望的な気分になる。

 しかし、何とかして遺骨は持って帰らなければならない。親戚に会わせる顔がないからだ。

 主人公は、他人の葬式に侵入して遺骨を奪うことを考える。喪服を着て、知らない葬式に紛れ込み、遺骨を手に入れるチャンスを狙う。

 だが、彼女には不幸が次々と訪れる。

 お湯を沸かしてくれと頼まれれば、服に火が燃え移り、火葬場で骨を奪おうとすると、焼いた直後のせいで火傷をしてしまう。

 どんどんやる気を失い、暗い気分になる主人公。

 だが、そんな彼女にてきぱきと指示を出して、構ってくれる女性がいた。その女性は主人公を家に連れていき、着換えの服を用意してくれる。

 安心してリラックスする主人公。

 しかし、なぜかその女性は逃げ出し、見知らぬ人たちが家にやって来る。女性は、不法侵入の常習犯で、後でやって来た人たちこそが本物の家の主だった。

 主人公はその家の父親に捕まり、警察に突き出すと言われて、引っ張っていかれる。

 だが、主人公の不運は周りの人をも巻き込む。その父親は不良に絡まれ、暴行される。主人公は逃げて、道端の大型ごみの中で一夜を過ごす。

 その、主人公の入ったままの大型ごみが回収される。そして、山奥に運ばれて見知らぬ場所で捨てられる。

 命からがら助かった主人公は、山の食堂で介抱され、食事を出される。だが、その食事のせいで食中毒になる。

 病院に入院するはめになる主人公。彼女は医師に、入院費の支払いを求められ、実家に電話する。しかし、電話は繋がらない。

 交通事故を起こした主人公の両親は、多額の慰謝料を請求されて、家を売却して引っ越していた。

 病院を逃げ出し、実家に戻った主人公は絶望する。そこには、家族どころか、家もなく、ただの更地になっていた。

 彼女は、彼氏の許に行ってみる。だが、彼氏はいなかった。そのポストに入っていた郵便物を見て、自分が二股を掛けられていた事実を知る。

 さらに、主人公が知らぬところで、不幸の種は育っていた。彼女のキセル仲間の女子高生たちは、キセルがばれたことで、推薦入学を取り消されてドロップアウトしていた。

 彼女らは、主人公を殺すための同盟を作り、主人公を探し回っていた。

 主人公は誰も頼る相手がおらず、彼氏のもう一人の彼女の許に行き、彼氏と話し合う。しかし、当然上手くいくはずもない。

 さらに友人たちに襲われて殺されそうになる。

 どこにもいく場所がなく、さまよっていた彼女は、不法侵入の女と再会する。

 彼女は手馴れた様子で新たな家を見付けて、そこで主人公と生活し始める。だが、彼女は普通の女ではなかった。売春の斡旋をして金を稼いでいる女だった。

 主人公はいつの間にか、売春婦ということになってしまう。

 そして、知らない間に客に襲われ、強姦される。

 怒り心頭になった主人公は、フォークを握り、客を散々刺しまくる。

 そして、家を脱出する。だが、彼女にはとことん不幸が付いて回る。彼女を嫌っている同級生に出会い、売春婦と散々罵られる。

 それでも家から遠ざかろうとし続ける彼女は、怒りを爆発させて、その同級生を蹴り飛ばす。

 彼女は自分を売り飛ばした女を見つける。

 主人公の不運を華麗に躱し続けてきた彼女の運も尽きる。不法侵入の女は、主人公を殺しにきた女たちの車に巻き込まれて死んでしまう。

 しばらく時間が経った。

 主人公は、家族と再会する。だが主人公は妊娠していた。たった一回売春させられた種が当たってしまったのだ。

 彼女は大きなお腹のまま、高校生活に戻る。そして、子供を産み、明るい笑顔を取り戻す。



 物語は、序盤、気怠いやるせなさとともに進行していきます。

「ああぁ」と声を漏らしたくなるような暗澹たる気分になるような描写ばかりが続きます。

 そして、「嫌なことばかり起こるなあ」という感じで進んでいきます。

 その、「何となく嫌な気分」は、祖母の遺骨を失ってしまう瞬間から、「止めど無い不幸の連鎖」に変わります。

 そして、「あまりにも不幸過ぎて、ギャグにしかならない」という展開になっていきます。

 この瞬間に、「はい、これから不幸のオンパレードをお楽しみ下さい」という、監督の暗いメッセージが伝わってきます。

 後はもう、坂を転がり落ちるように、ただ、ごろんごろんと転がりながら、不幸になり続けます。

 たぶん、真面目な人とか、正義感の強い人とかが見たら、怒るような内容の映画です。

 それも、手加減一切なしの、ブラックな展開と落ち。

 最後が爽やかな青春映画のような画面で終わっているのも、監督の意地の悪さを非常に感じます。

 そして、タイトルが「裸足の“ピクニック”」という楽しそうな物なのも、悪意を感じます。

 いやあ、この監督は、本当に黒い人です。



 この黒さは、最近の映画にもわずかに残っています。

 たとえば「ウォーターボーイズ」。憧れて入ったシンクロ部の先生が妊娠している展開。

 たとえば「スイングガールズ」。届けた弁当で相手チームが食中毒となる展開。

 こういった、そこはかとなく黒い話が混じったりするのは、この人の本性の片鱗なのだなと思いました。



 しかしまあ、商業一作目で、こんな「真っ当なビジネスの場に乗せるのを嫌がられるような作品」を撮るとは、この監督の精神構造はどうなっているのかなと思いました。

 最近は非常に万人受けする作品ばかりを撮っていますが、実際は、心の中でどう思っているのか分かりません。

 もしかしたら、こういった黒い企画を実は今でもずっと出していて、金を出す人から却下され続けているのかもしれないなと思いました。

 だって、「ウォーターボーイズ」を撮った後、その焼き直しのような作品の「スイングガールズ」を撮る辺りが怪しいです。

 とはいえ、今回のような作品は、純粋に若いからこそ撮れたのかもしれないなと思いました。

 いい意味で黒くて素晴らしい映画でした。
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