映画「刑事ジョン・ブック 目撃者」のDVDを五月上旬に見ました。
原題は「WITNESS」(目撃者、証人)です。1985年の作品で、主演はハリソン・フォード、監督はピーター・ウェアーです。
監督のピーター・ウェアーは、私が名前を知っている作品では、以下の物を撮っています。
1085 - 刑事ジョン・ブック 目撃者
1986 - モスキート・コースト
1989 - いまを生きる
1998 - トゥルーマン・ショー
2003 - マスター・アンド・コマンダー
有名な作品をいっぱい撮っていますね。
映画は、大人な感じで面白かったです。
さて、この映画は、主人公である刑事ジョン・ブックが、殺人事件の目撃者であるアーミッシュの子供とその母親と出会い、その母親に恋をするという話です。
映画はアメリカのお話ですか、後半は、その中でも「まるで異郷」と言うべき、アーミッシュの人々の住む土地が舞台となります。
そこで、予備知識として、アーミッシュを知っていると少し映画が分かりやすくなります。
私はこの映画を、脚本解説の本で知って、あらかじめ脚注などでアーミッシュの概要を知っていました。
そのため、すんなりと見ることができました。
そういった予備知識がない人は、事前に少し知っておくと、より深くこの映画を楽しむことができると思います。
アーミッシュとは、ドイツ系のキリスト教の一派です。彼らは現代文明を拒否して、電気などを使った機械を使わない生活をしています。
詳しくは、以下のリンクを参考にして下さい。
□Amish Life
http://rose.zero.ad.jp/~zbm18386/amish.html□松岡正剛の千夜千冊『アーミッシュ』菅原千代志
http://www.isis.ne.jp/mnn/senya/senya0645.html□Wikipedia - アーミッシュ
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82... 同じ国内の異郷の地を扱うのは、物語の演出上、なかなか面白いと思います。
文化の違いによるギャップは、自動的に様々な物語を生み出しますし、観客にとって新鮮な驚きを提供してくれるからです。
日本でも、地域によって文化や習俗が違ったりします。
また、宗教によっても、文化や生活様式が異なったりします。
日本の宗教関係の違いについては、山口文憲氏の「日本ばちかん巡り」がなかなか興味深いです。日本の信仰宗教の中心地を回った本です。
去年、飲み会で存在を聞き、読みました。
□日本ばちかん巡り(山口 文憲)
http://www.amazon.co.jp/%E6%97...
以下、粗筋です。(ネタバレ的な話ではないですが、そういったのが少しでも嫌な人は避けた方がいいかもしれません。終盤まで書いています)
アーミッシュの女性は夫を亡くし、子供と二人で暮らすことになる。彼女は姉を訪ねるために電車に乗って移動する。
その途中で立ち寄った駅で、子供がトイレに入る。そこで少年は殺人事件を目撃してしまう。殺されたのは警察の人間だった。
捜査の担当になった刑事の主人公は、子供に様々な人を見せたり写真を見せたりして、殺人犯を探そうとする。
しかし、なかなか上手くいかない。アーミッシュの親子は、その捜査のために足止めを食うはめになる。
そんな中、警察署に連れてこられた少年は、一枚の写真を見つける。それは表彰された刑事の顔だった。殺人事件は、警察内部の者の犯行だった。
主人公は、上司にその件を相談する。
その帰り掛け、彼は襲撃される。そこでようやく主人公は気付く。黒幕が自分の上司だったと。
主人公は傷を追いながらその場を離れ、アーミッシュの親子を守るために、町を出発する。そして、アーミッシュの集落に二人を届けたところで意識を失う。
彼は、文明から隔絶された人々の中で、匿われ生活し始める。そんな主人公を、警察署内の悪党たちは、やっきになって探そうする。
しかし、電話すらないアーミッシュの広大な土地の中から、一人の人間を探すのは困難を極めた。
主人公は次第に回復し、看護してくれていたアーミッシュ親子の母親と恋に落ちる。
そしていよいよ上司たちが主人公の居場所を突き止める。彼らは手に手に銃を持ち、主人公が匿われている家へとやって来た……。
さて、映画なのですが、最初に驚いたのは、その展開の速さです。
といっても、一場面だけなのですが、非常に効果的な「展開の速い部分」がありました。
それは、主人公が上司に話をしに行って、自分のアパートに戻ったところです。いきなり殺人事件の犯人からの銃による襲撃を受けます。
普通は間に何かクッションを挟みそうですが、場面が変わると同時に、もう銃で襲われます。この落差は非常に上手く、一気に緊迫感が増していました。
この部分は、特に上手いなと思いました。
また、話のプロット自体は単純なのに、演出が上手いなと思う点がいくつかありました。
その一つは、主人公と女性の恋が進展する場面です。
主人公が乗ってきた車は壊れます。主人公は体が回復した後、それを修理します。そして、その直った車のラジオを付けて、音楽を流します。
たった、それだけの場面です。
しかし、アーミッシュの生活の中にはラジオなどなく、その生活を経験した後、唐突に「音楽が流れる」という非日常が紛れ込むことにより、二人の距離は一気に縮まります。
プロットで言うと、「恋に落ちる」というだけのシーンなのですが、上手いなと思いました。
もう一つ、上手いなと思った演出は、主人公がアーミッシュの人々に受け入れられる場面です。
アーミッシュの土地に匿われた後、主人公はかつて大工をしていたことを明かし、自分が壊してしまった鳥小屋を修理します。
その後、新婚夫婦たちのために「倉庫を建てる」というイベントが発生します。アーミッシュは、こういった時、総出で手伝います。そこで主人公は大工の腕を振るい、受け入れられます。
共同作業と、その成功による仲間意識の芽生え。
それを、「倉庫を建てる」という具体的な作業で見せる。
上手い演出だなと思いました。
映画の結末は、主人公と女性の恋がどうなるかということに集約されます。
この結論は満足の行くものでした。「やはり、こうなるよな」という、非常に現実的な内容でした。
こういった、正しい結末を見ると、満足します。
DVDには監督のインタビューが付いていました。この中で、監督が言っていましたが、最初はこのシーンには、二ページぐらいに及ぶ台詞があったそうです。
しかし、何も言わないでも感情はきちんと伝わると思い、大胆に台詞を全部なくしてしまったそうです。
これは、映画中で成功していました。実際に、見ていて、台詞がなくとも、何を語り合っているか伝わってきました。
言われて初めて、そう言えばしゃべっていなかったなと気づきました。
さて、主人公を演じたハリソン・フォードについて、少し書いておきたいと思います。
ハリソン・フォードと言えば、私の頭の中では「スターウォーズ」と「大工」です(一時、俳優業の傍ら大工をやっていた)。
そのハリソン・フォードが大工仕事をしているのは、なかなか面白かったです。
「すげー、ハリソン・フォードが、本当に大工をしている!」と思いながら見ていました。
また、監督のインタビューによると、ハリソン・フォードは、この映画の役作りのために、警察の殺人課にもぐり込んで、一緒に捜査に同行していたそうです。それも、銃を持たず、丸腰で。
監督いわく「今考えたら、滅茶苦茶危険なことだったよね」ということでしたが、本当にそうだと思います。
ドル箱スターが、流れ弾で死んでいたかもしれないわけですから。
「普段、映画は見ない!」「俺は、映画に出ることで映画について学ぶ!」と豪語しているハリソン・フォードですが、きっちりと映画に出る時に、下調べをしたり、勉強をしたりしているんだなと思いました。