映画「パプリカ」を劇場で六月下旬に見てきました。
2006年の作品です。
「なぜこのタイミングに劇場で?」と思われそうですが、高田馬場の早稲田松竹で「パプリカ」と「鉄コン筋クリート」の二本立てをやっていたからです。
そもそも両方とも「見よう」と思っていて、見逃した映画ですし、「パプリカ」に至っては大画面で見ないと勿体無い映画だと思っていましたので、ちょうどよかったです。
何よりも、二本立てで1300円はお得過ぎます。
というわけで、二本まとめて見てきました。
両方ともよくできていて面白かったです。また、個人的には「パプリカ」の方がよいと思いました。
「パプリカ」の監督は今敏(こん さとし)です。過去の作品では「千年女優」と「東京ゴッドファーザーズ」をDVDで見ています。
「千年女優」は、絵は非常に綺麗だけど、変にごちゃごちゃし過ぎているという印象でした。
「東京ゴッドファーザーズ」に関しては、物語の改善がもう少しできそうだなという印象でした。
また「千年女優」を見た時には、「大画面で見ないと損なアニメを作る人だな」という感想を持ちました。
なので、映画の中身自体も評判のよかった「パプリカ」は、ぜひ映画館で見たいなと思っていました。
見た感想としては「やっぱり映画館で見るべき作品だった」でした。非常に絵が綺麗でした。嬉しいくらいに。
また、話も、前二作よりもよかったと思います。
「千年女優」ほど詰め込み過ぎではなく、「東京ゴッドファーザーズ」ほど薄くもなく、ちょうどいい印象でした。
この「パプリカ」を見た感想の中で最も大きかったのは、「アニメってやっぱり動いてなんぼだよな」ということでした。
この映画は「夢」を扱った映画です。そして、出て来る家具や家電が、うにょうにょと動いてパレードをしたり、ある形のものが他の形のものに変身しながら動くというシーンが多くあります。
これを実写でやったらあざと過ぎるなと思いました。アニメでやるぐらいがちょうどいいです。
実際、この映画の表現を見る限り、心地良くてちょうどよかったです。
プログラムを買って読んだところによると、様々な物がうねうねと動きながらパレードをするシーンは、全部手書きのアニメーションだそうです。
「CGではなく手書きだ」と、わざわざ書いてありました。
わらわらと出て来る様々な物が、うにゃうにゃ、ふにゃふにゃ動くのは、なかなか楽しくて気持ちよかったです。
アニメはマッドハウスらしいですが、クオリティ高いなと思いました。
次に思ったのは、映画ネタがやたら多いなということです。
前々作の「千年女優」は、もろに映画の女優の話でしたが、今作の「パプリカ」も映画が重要な要素になっていました。
筒井康隆の原作を未読なので分かりませんが、監督自身は映画に対する思い入れが強いのだろうなと感じました。
(筒井康隆も相当の映画マニアだそうですが)
映画ネタのシーンだけでなく、映画館や、映画の看板や、映画の撮影など、映画に関係する話がやたらと出てきます。
あと、終盤の映画館で、今監督の過去の作品の看板が出てくるのは、ちょっとくすりとしてしまいました。
また、映画を見る前に、「おおっ」と思ったのは、声優陣です。
主な声優は以下の通りです。
林原めぐみ、江守徹、堀勝之祐、古谷徹、大塚明夫、山寺宏一……。
私でも知っている名前ばかりだったのでびっくりしました。そして、正統派アニメ映画だなと感じました。
そう強く思ったのは、この後に続けて見た「鉄コン筋クリート」が、俳優を声優として使った映画だったからです。
「パプリカ」の声優陣は、テレビでは最近見ない名前が多い気がしました。そういったこともあり、見る前からちょっと楽しくなりました。
さて、シナリオについて少し触れておきます。
夢を扱った話ということで、もっと分かり難い物語になるかと思っていたのですが、非常にすっきりとしていました。
基本構成は、以下の通りです。
・一つのメインの話と、もう一つのサブの話がある。
・メインの話が行き詰まったところでサブの側から問題が解決する。
・最後はメインの話で大きな展開があって物語が収束する。
基本はこれだけです。
この基本構成に対して、無駄な枝葉は付けておらず、「夢」というごちゃごちゃしやすいネタを、上手く処理しているなという印象を持ちました。
ちなみにメインの話は、「夢に入る機械『DCミニ』の盗難から始まる、医療系研究所内での陰謀話」です。
誰が盗んだのか? 何のために盗んだのか?
それを、主人公たちが追うミステリーになっています。
また、サブの話は、「『DCミニ』を使った治療を受けていた刑事が、過去のトラウマを克服していく話」になっています。
刑事は、治療の過程で陰謀話に斜めから関わって(巻き込まれて)、主人公たちのピンチを救うことになります。
非常にシンプルです。
まあ、実際は、そのシンプルな構成をめくるめく「夢」の目晦ましで幻想的にしているのですが。
映画を見ながら、不可思議な話を作る時は、内部の構成をシンプルにすることが大切だなと思いました。
さて、映画中のキャラについても触れておきたいと思います。
主人公の千葉敦子が非常によかったです。そのキャラのよさに、くらくらしながら映画を見ました。
どういうキャラなのか、その内容を箇条書きで書きます。
・研究所に勤める精神科医兼研究者。
・色白のスレンダー美人。
・ひっつめ髪で、タイトで飾り気のない服を着ている。
・いつも冷静で有能で、ちょっと冷たい印象の女性。
・夢を共有する機械「DCミニ」を使う時は、奔放な少女パプリカの姿を取る。
・でも、そのことについては秘密にしており、自分がパプリカであると指摘されても、冷たい口調で突き放す。
いやー、千葉敦子の冷めた目が非常によかったです。ぞくぞくします。
そして、冷めた態度を取っている割には、実は少女のような部分も持っていて、それを否定も肯定もしない他人との距離感。
そういった部分がとてもよかったです。
もろにつぼに入りました。ああいった女性はいいですね。
ただ、一点だけ「あー、しょうがないけど、そうだよね」と思った点がありました。
それは、首です。
立ち姿で、横から見た時に、猫背ではないけど、首が少し前に傾いでいるのです。
普通の立ち姿だと、もう少し頭の位置が後ろなので、これは、精神科医でもあるが研究者でもあるという彼女の職業を反映しているのだろうなと思いました。
つまり、椅子に座って、下を向いてやる仕事が多いせいで、そういう姿勢になっている。
もうちょっときちんと胸を張った方が美しい立ち姿になるけど、これは仕方がないんだろうなと思いました。
キャラクターについては、あと二人、印象に残ったキャラがいます。
一人は天才科学者の時田浩作です。声が古谷徹なので、まんまアムロの声です。
このキャラは物凄い太っていて贅肉だらけという設定なのですが、その肉がアニメでよく動いていました。
無駄なところで頑張っているなと思いました。いや、無駄ではないのですが。
あともう一人は、小山内守雄という研究所の所員です。
凡人は大変だなという感想を持ちました。
周りに天才がいて、凡人だからこその悩みを抱えていて、それとは無関係に美青年だったために色々と利用される。
なんだか、周囲の皺寄せを一人で食ったようなキャラクターで、ある意味かわいそうな存在だなと思いました。
以下、粗筋です。(途中までのネタバレあり。ミステリなので、犯人周りの言及は避けています。中盤が終わる直前ぐらいまで、あっさりと書いています)
夢を共有する機械「DCミニ」。精神医療総合研究所で作られたこの機械は、まだ研究段階で、それを利用した治療は極秘裏に行われていた。
その研究チームの一人、美貌の研究者千葉敦子は、仲間の時田浩作の訪問を受ける。DCミニが盗まれたというのだ。
まだ研究段階のその機械には、本来付けるべきセキュリティー機能がまだ組み込まれていなかった。
盗まれたDCミニを使えば、研究所内の精神医療機器を通して、他人の夢に自由に侵入することができる。
敦子と時田は、所長とともに対策を練ろうとする。しかし、この研究に反対していた理事長に、その事実を突き止められて、研究の中止を要請される。
このままでは、折角の発明が世に出る前に潰される。敦子たちは調査を開始する。そして、時田の研究者仲間である後輩が持ち出したのではないかと当たりを付ける。
敦子と時田は、同僚の小山内とともに、後輩の家に向かう。
その頃から研究所への攻撃が始まる。DCミニを使った「夢のハッキング」とでも言うべき攻撃だ。
その被害を受けた者たちは、誇大妄想家の夢を植え付けられ、異常行動を起こす。
敦子の上司である所長も、夢の攻撃を受け、研究所の窓から飛び降りて入院する。
敦子たちは夢に侵入し、そこで見た手掛かりから、DCミニがなぜ盗まれたのか、また誰がその黒幕なのかを探っていく。
同じ頃、所長の友人であり、DCミニによる治療を受けていた刑事は、過去のトラウマに悩んでいた。
また、その刑事は、治療中に出会った少女パプリカに淡い恋心を抱いていた。
DCミニの盗難について密かに相談を受けた刑事は研究所に行く。そして、そこで出会った敦子にパプリカの影を見る。
刑事は、パプリカの正体は敦子ではないかと所長に尋ねる。
刑事は、自らの治療のために、そしてパプリカと敦子に対する恋心のために、夢の世界に関わり、事件に関係を持っていく。
そして、敦子たちが黒幕にたどり着いた時、夢の世界と現実の世界の境界が壊れ、幻想が世界に溢れ出してきた……。
基本的に出来のよい映画でしたが、一点だけ、表現上どうかなと思った部分があるので、そのことについて触れておきます。
それは、夢に侵入された研究所員が、訳の分からない台詞を喋りだすというシーンです。
このシーンは、キャラを変えて何回かあるのですが、「ちょっとなあ」と思いました。
たぶん、このシーンは、小説などで文字で読む分には「変な台詞をしゃべっている」という記号的な表現になるのだと思います。
しかし、それを生の声でやられると、そこだけ映画から剥離しているような「変な物」に聞こえてしまいます。
台詞の言い方にも原因があると思うのですが、何か工夫が欲しかったです。
一気に興ざめするというか、あまり感心できない表現だなと思いました。
こういった部分は、監督の演出の仕方になるのでしょうが、他がよかっただけに、非常に気になりました。
逆に、表現上上手いなと思ったシーンもあります。
それは、捕らわれたパプリカの中から敦子を引きずり出すシーンです。
机の上に固定された少女の下腹部に手を突っ込んで、そこからずるずると手を頭部へと動かしていき、皮を剥いで、蛹の中から蝶が出て来るように、少女の体の中から、成熟した女性の裸体を取り出すというものです。
これは、非常にエロかったです。
たぶん、監督自身ものりのりのシーンだと思うのですが、見ていて艶かしくてとてもよかったです。
こういった裸の見せ方はいいよなと思いました。