映画「恐怖の報酬」のDVDを六月下旬に見ました。
以前、「激突」の感想を書いた時に、「トラック映画だと『恐怖の報酬』もよい」と言われたので借りてきました。
後で知ったのですが、この名前の映画は二本ありますね。1952年のフランス版と、1977年のアメリカリメイク版と。
勧められたのは古い方だったので、借りたので合っていました。
ちなみに1977年版は、「エクソシスト」のウィリアム・フリードキンが監督だそうです。
さて、私がツタヤ ディスカスで借りた「恐怖の報酬」は、原題が「LE SALAIRE DE LA PEUR」。1952年のフランス映画です。
監督と脚色はアンリ・ジョルジュ・クルーゾー。原作は小説のようです。
主演はイヴ・モンタン。出演作で知っているのは特になかったのですが、名前は聞いたことがあります。
白黒の映画でした。
この映画は、ジャンルとしては、カーアクション物になるのでしょうが、普通のカーアクション物とはちょっと毛色が違います。
普通のカーアクション物は、「いかに車をぶつけて壊すか」という方向性のアクションなのですが、この映画のカーアクションは「いかに車をぶつけず、壊さないか」という方向性です。
なぜなのか?
それはこの映画が、「ニトログリセリンを輸送するトラックの話」だからです。
つまり、揺らすと即爆発。
なので、できる限り揺らさず、事故らず運ぶという「逆緊張」とでも言うべきカーアクションになっています。
こういうのもありだなと思いました。
また、それだけでは話が単調になるのですが、そこには一工夫あります。
ニトログリセリンを運ぶトラックは二台で、その二台には二人ずつが乗り込みます。
つまり、同じトラックに乗っている者同士の人間ドラマ、他のトラックに乗っている者との友情や対立などを描くことで、物語に膨らみを持たせているのです。
また、それだけでなく、映画の進行に応じて、心理的な二つの変化軸を導入することで、物語の変化を演出しています。
一つ目は、「ニトログリセリンの恐怖にさらされ続けることで、対立していた二人が和解して、協力し始める」というものです。
二つ目は、「ニトログリセリンの恐怖にさらされ続けることで、強気だった人が精神を消耗させて、ぼろぼろになっていく」というものです。
また二つ目の「物語の変化」は、対比として、「ナチスドイツの収容所で生き残った神経の太いユダヤ人」という、恐怖を物ともしない人物も配されています。
図にまとめると以下の感じです。
トラックA:主人公、玄人
トラックB:親友、強気男
主人公(いい加減) ←初め対立、後で和解→ 親友(真面目)
玄人(徐々に疲弊) ←物語的対比→ 強気男(恐怖しない)
こういった配置は、よくできているなと思いました。
以下、粗筋です。(中盤の最初ぐらいまで書いています。シチュエーション系のアクション映画なので、それだけで十分だと思います)
中米のある町。そこには、アメリカ資本の石油の採掘工場とパイプラインが通っていた。だが、町の人間たちはその恩恵に与れず、日々の糧を得るのも難しい生活をしていた。
その町に、一人の男がやってくる。
犯罪の玄人で、逃亡の際に慌てて乗った飛行機のせいでこの町にたどり着いた男だ。主人公はこの男と同郷だった。主人公は玄人に金の臭いを嗅ぎ取り、ともに行動し始める。
この町は、その貧しさのせいで、入るのは簡単だが、出るのは難しい場所だった。
玄人はお金を稼ぐことができずに困窮し始める。主人公は、そのあおりを食って、親友と不仲になり、一緒に住んでいた家を出て行く。
その頃、パイプラインで火災が発生した。
火を消し止めるには、ニトログリセリンによる爆風が有効だ。しかし、この場所は辺境の地のために、輸送用の専用ヘリコプターを運び込むのには日数が掛かってしまう。
そこで、責任者は考える。死んでもいい町の人間を急募して、急ごしらえのニトロ運搬用トラックにニトログリセリンを満載して、運ぶことにしよう。
用意されたトラックは二台。ゴムで荷台を覆っただけのトラックだ。その荷台には、ポリタンクに詰めたニトログリセリンがぎっしりと並べられた。その量、一トン。
運転手は一台につき二人ずつで合計四人。
主人公と玄人、そして、主人公の親友と、もう一人の男は、この仕事を射止める。
成功すれば大金を得られ、この町を大手を振って出て行くことができる。
しかし、失敗すれば爆発に巻き込まれて即死だ。
彼らは、時にのろのろ運転をし、時に速度を上げ、荒地を、崖を、沼を疾走していく。
だが、その道は平坦ではなかった。障害物も多かった。彼らはそれらの危険を、勇気と知恵で乗り越えていく……。
まず、感想として一つ目。
ニトログリセリンを運ぶカーアクション物と聞いていたのですが、なかなかその話が出てこず、借りるDVDを間違えたかなと思いました。
最初の三十分ぐらい、全然その話が出てきませんでしたので。
次の感想ですが、主人公がマリオで、親友がルイージです。
マリオブラザーズみたいだなと思いました。
協力プレイとか、対立プレイとかしているし。
三つ目の感想としては、ヒロインのヴェラ・クルーゾーは、背がちんちくりんだなと思いました。
モデル顔で、胸は大きいのに、背は子供みたいです。
なんだか、バランスが悪いなと思いました。
今回の映画は、こういった「シチュエーションが全て」みたいな映画の盛り上げ方の勉強になるなと思いました。
シチュエーションから導き出されるピンチを、次から次に繰りだしながら、そのピンチをくぐり抜ける人の間の葛藤や友情や対立を描いていく。
また、そのシチュエーションから発生し、蓄積していく問題をトリガーとして、人間ドラマを動かしていく。
明確な敵がいない映画ですが、そういった構成で上手く引っ張っているなと思いました。