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2007年08月11日 21:06:55
パッション
 映画「パッション」のDVDを七月上旬に見ました。

 2004年の映画で、メル・ギブソンが監督、製作です。脚本にも名を連ねています。

 話題になったので、内容をご存知の方も多いと思います。キリストが磔刑になる話を映像化したものです。

 メル・ギブソンと言えば、熱烈なカトリック教徒(主流派ではなく、傍流ですが)としても有名なので、完全に宗教映画です。

 とはいえ、別に説教臭くなく、二時間を使って映画的に非常に盛り上げる作品になっていました。



 さて、感想です。

 感想は主に二つ。

「うわー、かなり凄惨な、公開拷問処刑映画だ」

「ユダヤ教の司祭たちと、ローマの下級拷問吏は、物凄く精神的に劣悪な人間として描かれている」

 で、面白かったか面白くなかったかというと、「面白いわけじゃないけど、映像的な見応えというか、凄さはあった」となります。

 少なくともこの映画は「面白い」わけではないです。断言するなら、全く面白くないです。でも凄いです。

 話の筋はさっぱり面白くないですが、映像的体験は凄い類いの映画だと思いました。



 というわけで、一つずつ、解説していきます。

 まずは、「公開拷問処刑」についてです。

 この映画は、最初の十五分ぐらいは、ユダが裏切ってキリストが捕まるという退屈なシーンです。

 次の十五分ぐらいは、捕まったキリストが、ぼこすか殴られながら引き回されるというシーンになります。

 そして、残りの一時間三十分ほどを掛けて、キリストを拷問して、痛め付けて、磔にする様を、ねちっこく、ねちっこく、これでもか、これでもかというほど丁寧に描いていきます。

 その様は、まさに偏執狂。

「キリストは俺たちの罪を背負ってくれたんだよ! だから、徹底的に痛め付けられなければならないんだよ!」

 そう叫ぶかのように、拷問、虐待、処刑シーンが延々と一時間半ぐらい続きます。

 私はテレビ画面で見たからそんなに悪酔いしませんでしたが、これを真っ暗な映画館で、大画面と大音響で一時間半見せ続けられたら、キリスト教徒でない人も気分が悪くなると思います。

 上映でショック死した人がいたという話があったりしましたが、心臓の悪い人はそうなるかもしれません。

 この映画を見て、「キリスト教徒は、毎日あんな十字架磔の拷問シーンを見ているから、そりゃあ残酷になるよね」という、どこかの監督の話を思い出しました。



 さて、そういったシーンの中でも、最も目をそむけたくなるシーンが一つあります。

 拷問吏による、鞭打ちのシーンです。

 最初は普通の鞭打ちなのですが、途中から違うものになります。

 この鞭打ちシーンは、細い竹のような物(葦か?)で、背中をばしばし叩いてミミズ腫れさせるというところから始まります。

 しかし、興が乗った拷問吏は、嬉々としながら得物を替えます。

 替えたのは、無数の皮紐の先に鉄の鈎針が付いた、生皮を切り裂き、引き剥がすための道具です。

「えっ、それって、司令官が命令した鞭打ちの刑とは違うだろう?」

 頭にハテナが飛びまくりました。

 そして、この得物に替えてからのシーンが凄惨です。ここは、この映画の中でも最も血みどろのシーンです。

 この拷問道具でキリストが叩かれるたびに、肉に無数の鈎針が突き刺さり、鮮血を撒き散らしながら、皮膚が引き裂かれていき、肉が露出していきます。

 途中からは、あばら骨も見え始めます。

「いや、もう、磔刑とか関係なく、普通に死ぬよ……」

 さらにそれだけではありません。背中側だけでなく、ひっくり返して、腹側からも、ザクザクと切り裂きます。

 ……。

 この拷問シーンが長いこと長いこと。

 そして、その後、ぼろぼろになったキリストに、拷問吏たちのさらなる嫌がらせが続きます。

 全身、肉が剥き出しのキリストに無理矢理服を着せたり、頭からいばらの冠を被せて、頭の皮膚に食い込ませたり。

 さらに、その状態で十字架を持たせて、笑いながら鞭で打ちながら、自ら運ばせます。

 なんというか、残虐シーンも凄いのですが、キリストの底知れぬ体力に恐れおののきました。

 さすが神の子。普通の人間なら、その前に、とっくに死んでいます……。



 次の感想は「ユダヤ教の司祭たちと、ローマの下級拷問吏」についてです。

 ユダヤ人を悪く描いているということで、公開前に評判になっていたこの映画ですが、確かに悪逆非道な人たちに見えます。

 徹底的にキリストを貶めているのは、まあ予想が付く展開なのですが、自分たちの手を汚さずに葬るために、いろいろと小細工をします。

「ユダヤの法律では処刑できないから、ローマの法律で死刑にしてくれ!」

 そう言いながら、ローマの司令官の許に連れていくのですが、ローマの司令官は最初頭を抱えます。

「いや、ローマの法律だと、特に罪を犯していないから無罪だよ」

 そんな感じでやり取りが続き、ユダヤ側は暴動をちらつかせながら、次第にローマの司令官を追い詰めていきます。

 まあ、実際どうだったか分かりませんが、ローマ側にとっては、ユダヤもキリストもなく、両方とも迷惑だっただろうなと思います。

 どっちも一神教で、トラブルメーカーだったわけですから。



 あと、ローマの下級拷問吏の劣悪さも同列に凄かったです。描き方としては、ユダヤ教の司祭と、下級拷問吏は同列です。

 映画を見た感覚では、この二つは、監督の目線的には同じ高さに置かれているように思えます。

 ユダヤ教の司祭≒下級拷問吏

 この二つが同列……。この図式だと、反発するユダヤ教の人は多そうだなと思いました。

 同列に置いていると感じる部分は、その描き方以外に、キャラクター配置にもあります。

 この映画では、こういった「キリストを認めない人」の中にも、「キリストに共感する人」が映画を通して誕生していく様子も描かれています。

 ローマ兵の中にも、キリストの姿を見て、霊感に打たれて共感し始める人間がいます。

 また、キリストが十字架を運ぶのを無理矢理手伝わされ、そのうちにキリストに心打たれる人はユダヤ人です。

 そういった意味で、キリストを中心に置いて、ユダヤ教の司祭と、下級拷問吏は二本の柱として描かれています。

 図示すると、以下の通りです。

イ ←→ ユダヤ教の司祭たち ←→ 十字架運搬を手伝う人

ス ←→ ローマの下級拷問吏 ←→ 見守る内に共感する兵



 あと、ローマの司令官はキリストに同情を寄せているのですが、これは当時の「世界」であるローマを体現している人物なので、「神」と「世俗」の対比の中の、世俗に当たる人物なのだろうなと思います。

 なので、ローマの人物ですが、ちょっとこの中に並べるのとは違うかなと思いました。

 まあ、ローマ側の人間でも共感している人がいるという意味で、ローマの人物として扱っても差し支えないのでしょうが。



 そういったわけで、感想をまとめると「えげつない」でした。

 いろんな意味で。

 残虐シーンが嫌いな人は、避けて通った方がいい映画だと思います。そういう人にとっては、この映画は地雷です。



 以下、粗筋です。(ほぼ最後まで書いています)

 イエスはユダの裏切りによってユダヤの司祭たちに捕まる。

 彼らは、イエスを処刑させるためにローマの司令官の許に押し掛ける。

 そして暴動をちらつかせ、圧力を掛けて、イエスの処刑を迫る。

 司令官は、最初無罪を主張していたが、圧力に屈して、鞭打ちを命じる。

 拷問吏は悪乗りして、イエスを殺し掛ける。

 ぼろぼろになったイエスを人々に見せ、解放しようとする司令官。しかし、ユダヤ人たちは血塗れのイエスを前にしながら処刑を叫んだ。

 仕方がなく処刑を命じる司令官。

 そしてイエスは十字架を運び、磔にされ、死んでしまった。

 イエスを十字架に掛けたユダヤの神殿は、地震によって破壊される。ユダヤ教の司祭たちは、自分たちが、神の怒りに触れたことに恐れおののく。



 粗筋を書いていて思いましたが、「キリスト教 V.S. ユダヤ教」の話ですね。ローマはおまけです。

 個人的には、メル・ギブソンには、この変質狂的なねちっこさで、エッチな映画を撮って欲しいなと思いました。

 きっと、あまりのエロさに、昇天する人が出て来ると思いますので。
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