映画「上海の伯爵夫人」のDVDを、二月の上旬に見ました。
原題は「THE WHITE COUNTESS」(白い伯爵夫人)。
2005年のイギリス/アメリカ/ドイツ/中国による映画。監督はジェームズ・アイヴォリー、脚本はカズオ・イシグロ。
水準は越えているけれど、敢えて見る必要はないと思いました。
この映画は、太平洋戦争直前の上海の退廃的な雰囲気を描いた作品です。
ロシアからの亡命貴族と、好事家の元外交官の盲目の男、そして日本から来て暗躍する大物工作員。その三人による物語です。
美術などにはこだわりが見え、雰囲気作りは非常に上手いのですが、映像として一つだけ決定的に満足しない点がありました。
「退廃的な上海」の雰囲気や町並みを描いているのですが、引きの絵が一枚もありません。
昨今のノスタルジー映画に必須のシーンといえば、町並みの広がるシーンです。「ALWAYS 三丁目の夕日」のような俯瞰シーンです。
まあ、予算が掛かることこの上ないのですが、それにしてもそういったシーンが一枚でもあれば満足度が上がったのになと思いました。
物語自体は、まあ、こういった話もたまにはありかなという感じでした。
個人的には、映画よりもマンガの方が合いそうな話ではあるなと思いました。メジャー誌ではなく、マイナー誌の中の佳品を単行本で読むような感覚です。
だいぶ古いですが、道原かつみ(「銀河英雄伝説」のマンガ)辺りが絵を付けるといいなと思いました。
以下、粗筋です。(ネタバレあり。ほぼラストまで書いています)
場所は上海、時は太平洋戦争直前。ロシアの亡命貴族の女性は、夜の街の住人となり、娘や家族を一人で養っていた。
彼女はある日、一人の男性と出会う。その男はアメリカの元外交官。かつて凄腕で有名だったその男は視力を失っていた。
元外交官は、一つの夢を持っていた。好事家の彼は、上海に自分のバーを持とうとしていた。
彼はその夢を、屋台で出会った一人の男に語る。その男は日本人で、彼と同じような趣味嗜好を持っていた。
元外交官は、元貴族の女性をその店の重要なピースとして据えることに決める。
一年後、その店「THE WHITE COUNTESS」はオープンした。美しい白い肌の没落貴族を中心に据えた店は評判を呼ぶ。
日本人はその店にやって来て、いまや店主となった元外交官に夢の実現に対して祝福の言葉を述べる。
しかし、元外交官は満足していなかった。そして日本人に語り出す。「この店には政治的な緊張が足りない」
真に退廃的な社交場には、様々な勢力の人間たちによる危ういバランスが必要だ。
日本人はその言葉を聞いて申し出る。「では、私が手配しましょう」
彼は日本から来た大物工作員だった。そして徐々に店は元外交官の望む雰囲気になっていく。
自分の箱庭が完成し、満足する元外交官。しかし、上海には軍靴の音が近付いていた。
元貴族の女性は、家族とともに亡命の準備を進める。そして、日本軍の侵攻が始まる。
逃げ惑う人々の中、元貴族の女性は娘と引き離されて右往左往する。
その時になって初めて、元外交官は、彼女を愛していたことを知る。彼にはかつて妻子がいた。しかし、権力闘争に巻き込まれて死んでいた。彼は、自分の心の中に欠けた物を取り戻したいと考えていた。
彼女の居場所を日本人に聞いた元外交官は、命を賭して彼女の許に向かう。
映画で一番印象に残っているのは、日本人マツダ役の真田広之の髪型です。
撫で付けた七三分けなのですが、これがもう壮絶に似合っていません。
やはり、真田広之はワイルドな髪型の方が似合います。
この人の顔は、口が大作りです。そのため、ぴったりとした髪型にすると、口ばかり飛び出して見えます。なので、バランス的に髪型はボリュームがある方が似合います。
以下、キャラクターに関して一点だけ感想です。
主人公の伯爵夫人の家族たちです。正確に言うと、主人公の夫(死別)の家族です。
「すげー、ジコチュー」
人間、ここまで自己中心的に悪気もなく振る舞えるのかと思いました。
彼女一人に働かせておいて、逃げる段になると「夜の町で働いていたような女はいらない」と、彼女を切り捨てます。
どこまで我がままなんだと思いました。
映画中、「なんで一人だけ働かせているんだ?」と思っていましたが、家族全員で最初から切り捨てる気満々だったとわ。
でもまあ、発言小町などを見ていると、世の中は自己中心的な人ばかりのようなので(発言小町は釣り発言中心だと思いたい)、まあ普通なのかもしれませんが。
善良な人間は割りを食うので、困った世の中だなと思います。