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2008年06月15日 14:44:38
 秋葉原の殺人事件について、いろいろと思うところがあるので、少し文章を書きます。

 最初に断っておきますが、これは完全に私見です。一般則ではありません。

 また、私は偏った人間です。そして、他人と同じ物の考え方である必要があるとは考えていません。

 私は自分が社会的辺境に住む人間だということを自覚しています。

 そういった人間が書く文章だということを前置きしています。



● 殺人が悪である理由

 まず殺人についてです。殺人はそもそも悪ではありません。しかし、それを悪としていることを私は積極的に支持します。

 なぜならば、殺人が悪である社会は、私にとって望ましい社会だからです。

 社会には、いくつかの安定状態があります。平和という安定状態、戦争という安定状態、無秩序という安定状態、etc...。

 それぞれの社会は、動的に緩やかに変化しながら、その瞬間々々には比較的安定しています。

 これは、恒常性の問題で、物事の変化は直線的ではなく、角が斜めになった階段状に起こるからです。

 そして、この“それぞれの安定社会”によって、殺人が悪かどうかは変わります。

 全ての殺人が悪である社会、一部の殺人は善であり、残りの殺人が悪である社会、殺人自体に善悪という概念すら付与されていない社会。

 これらの社会の中で、私は「全ての殺人が悪である社会」を支持します。

 なぜならば、私が現在いる社会的立場では、そのことが最も利益が大きくなるからです。

 殺人を悪であるとしなければならない最大の理由は、自分や自分の周囲の人間を殺人から守るためです。



 そして、社会の種類によっては、この殺人の一部が善とみなされます。

 無秩序状態を除き、そういった殺人が許容される社会に多く見られる特徴は、人間の経済的価値の格差が大きいということです。

 つまり、経済的に“安い”人間がいる社会では、その“安い”人間に対する殺人は悪とはみなされない傾向があるということです。

 もっと言うと、“価値のない”人間がいる社会では、その“無価値”な人間に対する殺人はかなりの率で許容されます。



 人類がこれまで経験してきた社会のほとんどは、この“人間の価値”についてピラミッド状の構造を持っています。

 一部の価値の高い人間と、その他大勢の安い人間で構成された社会です。

 そういった社会の中で、私は「一部の価値の高い人間」ではありません。たぶん、私以外の多くの人もそうでしょう。

 だから、「全ての殺人は悪である」という価値観に賛同の意思を表明するのです。

「殺人犯による殺人」も、「テロリストによる殺人」も、「いじめによる殺人」も、「追い込まれた人の自殺という形の殺人」も、「戦争による殺人」も、「死刑による殺人」も、全ての殺人に反対するのです。

 なぜならば、少なくともこれから前後千年ぐらいに人間が経験する社会において、殺人の正当化は、価値の高い人間が安い人間を殺すことを助長する傾向にあると考えているからです。



 殺人という行為は、本来それ自体は悪ではありません。

 しかし、私は殺人は悪であるという価値観に賛同しています。

 それは、小さい意味では「自分自身と、自分の周囲の人間の生命と安全と精神を守るため」に、そして大きな意味では、「社会という歯車に、自分やその他同じような立場の人間がすり潰されないため」にです。



 なので、今回の秋葉原の殺人事件は、悪以外の何物でもありません。そして犠牲者の方々や、その周囲の人たちの悲劇を思うと正直言ってやり切れません。



● 経済問題としての今回の事件

 今回の事件を知り、その容疑者の背景を知るに及び、「これは経済問題としての側面が非常に強い事件だ」と感じました。

 容疑者は経済的弱者として追い詰められており、そこから暴発したという事実は見逃せません。

 その後、ネットに次々と上がってきた周辺情報を読む限り、こういう形でなくとも、いつかは誰かが暴発していただろうし、また、そういった人(予備軍)が大量にいることも浮き彫りになりました。

(注:浮き彫りになったのは私の事実認識であり、実際はそういう状況が長く続いているわけです)

 そして思ったのは、「経済界や政界の失敗が、そのツケを払わされた人たちにのしかかっている」ということです。

 正社員を支えるために、派遣社員を大量に増やし、その社会的位置を固定化し、さらに搾取の対象としてきた結果、首の回らない人たちを無数に作ってきた。

 その一人が、とうとう無差別殺人という形で暴発してしまった。

 世の中は、もっとこのことを重く受け止めないといけないと思います。



● 思考の自由は、教育や健康や精神的・経済的余裕によって生まれる

 これから少し書くことは、容疑者を擁護するためのものではありません(理由は前述の殺人に対する私の見解を参照)。

 そして、被害者の方々がいるということを、一旦思考の外に排除した上での文章であることをご理解いただきたいと思います。

 今回の事件の報道や、ネットでの容疑者への意見のいくつかを見て思ったことを書きます。

 容疑者は、内向的で、コミュニケーションが下手で、異性の交際相手がいないことに悩んでいた(これは自分の容姿へのコンプレックスとして表出)ということでした。

 そのことに対して報道は、容疑者を「信じられないような変な人間」であるように扱い、ネットの一部は、「コミュニケーションを取らない勇気のない人間」として攻撃していました。

 この状況を見て、私は二つのことを同時に思いました。

 一つ目は、「それは普通だから」ということ、二つ目は、「弱者の立場に立った人間は、そもそも思考が限定され、行動が単純化し、自分でそのことに気付かず、そこから抜け出せない」ということです。



 まず、一つ目について書きます。

 内向的で、コミュニケーションが下手で、異性の交際相手がいないことに悩んでいるような人間はいくらでもいます。

 というか、このレベルの人間は、これまで吐いて捨てるほど見てきました。

 誰の周囲にも必ずいるかどうかは別として、そういった人間は大量にいて、普通に社会の中で暮らしています。

 異常者でも何でもなく、それは個性の範囲です。

 今回の事件は、そういった「普通の人が暴発した」ことが恐ろしいことだと思っています。



 次に、二つ目について書きます。

 「弱者の立場に立った人間は、そもそも思考が限定され、行動が単純化し、自分でそのことに気付かず、そこから抜け出せない」ということについてです。

 人間の思考というものは、多くの人が考えているほど自由ではありません。

 まず、教育が与えられていないと、自分の立場に対する価値判断ができず、さらに不満を他人に伝えられず、さらにそれを改善する行動を起こすことができません。

 「当然できる」と思うのは、「そこまでできている」人の視点での判断でしかありません。

(少し話が逸れますが、教育の本当の大切さはそこにあると思っています)

 そして、これが今回の事件では本題になると思うのですが、肉体的に健康で、精神的に安定していて、経済的に余裕がなければ、人間は思考が限定され、行動が単純化します。

 さらに始末が悪いのは、この傾向がある一線を越えると、自分で自分がそういった状態になっていることに気付けなくなります。そして、そこから自力では抜け出せなくなります。

 これは、本人の意思や努力の問題ではなく、精神医学の領域に属する問題です。

 これを避けるには、周囲に親しい人間がいて、異常に気付き、適切な手を打つしかありません。

 故郷から離れた場所で、精神的に追い詰められ、経済的に圧力を掛けられ続ければ、思考は限定され、行動は単純化します。



 今回の容疑者の状況の報道や心の動きを綴った掲示板のログを見て、私が一番戦慄したのは、「これって完全に抜け出せなくなった人の行動パターンじゃないか?」ということです。

 容疑者がいつからこの状態になったかは知りませんが、そういう状況の中で思考の針が飛んだのではないかと感じました。

 もし、論理的に物事を考えられる精神状態で、ある程度正常な判断力があれば、無差別ではなく、自分が追い込まれた状況を作った相手に刃を向けただろうと思います。

 つまり、派遣会社や派遣先、もしくはもう少し上の立場の人間へのテロへと向かったのではないかということです。

 それとともに思ったのは「これだけ思考が制限された状態の人間を“作業部品”として使うのは、企業にとっては都合がいいだろうな」ということです。

 つまり、精神的、経済的圧力を掛けることで、思考を限定し、反論できない状況を作って、可能な限り人間を買い叩く。

 容疑者が所属していた派遣会社の現状などもネットで読みましたが、これは赤線などに代表される売春婦の管理方式とほとんど同じです(去年、そういった本を読みました)。

 その余りの酷似っぷりに驚きました。



 もう一つ、書いておこうと思います。

 たぶん、ネットで容疑者の精神性を叩いている人の多くは、欝などで会社を休まざるを得なくなったような人も同じように叩くんだろうなと思いました。

 一昨年ぐらいに精神病に関する本を何冊かまとめて読みましたが、あれは病気ですので。



● 生物としてのボスの死

 少し補足しておこうと思います。

 先ほど、容疑者が派遣先や派遣会社、もしくはもっと上の立場の人間に刃を向ける可能性について書きました。

 なぜ、そういった考えが出てくるのかを書いておきます。

 理由は、生物界では無能なボスは下から追い出されるべきで、それは死を意味することが多いからです。

 本来、集団の中でボスになるということは、そういったリスクを負うことです。

 たぶん、そういった状態が身近にないために、「自分が人を管理するということは、自分が無能ならその相手に殺される」ということを理解していない人が多いのだと思います。

 本来、他人の上に立つということは、下に付いた人間より無能なら死ぬことを意味しています。

 それは、もう少し多くの人が自覚すべきことだと思います。

 人の上に立つ、下に付くということは、命のやり取りをしているんだということを。

 価値観や社会制度として殺人は反対します。だからといって生物としての立場を忘れるべきではないと私は考えています。



● マスコミ(主にテレビ)の報道について

 昨日テレビを見たら、必死にゲームやアニメを叩いていました。何をやっているんだこいつら?

 あまりの無能っぷりに、呆れて声が出ませんでした。

 正直言って、報道として何も必要なことをしていないです。こいつらに電波利権はいらんだろうと思いました。



● 精神的加害者について

 今回の件に関連して、他人と話をして、少し怒ったことを書いておきます。

 出社した容疑者のつなぎがなかった件についてです。

 この件について、隠した人は軽い悪戯のつもりだったのか、それとも本気で悪意を持ってそういったことをしたのかと聞かれました。

 こと精神的な問題については、加害者側の加害の意識の有無は意味を持ちません。

 そこには、被害者がいるという事実があるだけです。加害者の意図でそれが許されるわけではありません。

 もし、悪意を持って加害したのならば完全に黒です。

 悪意がなかったのならば、相手の心の痛みを察することができなかったということで、その人が無知で無能だったことを世間に証明しただけでしかありません。

 そして、精神的問題については、誰もが気付かない間に加害者になっています。

 私も数十年生きていますので、当然何度も加害者になっています。そして、多くの無知と無能をさらけ出しています。

 自分で加害の事実に気付いた時には、恥ずかしさと悔しさで悶絶します。

 「自分は加害者ではない」などと本気で主張する人間がいれば、その人は世間に向かって「私は馬鹿です」と叫んでいるにしか過ぎません。



● 生活レベルと人口問題

 今回の事件に絡むことですが、ずっと思っていることがあります。

 日本は、そろそろ“全員が”貧しくなる時期に来ていると思います。

 勝ち組、負け組みではなく“全員が”。

 そして、もう少し小さく回す方向性で舵を切るべきだと思います。

 それとともに、人口減少については、そもそも人口が多すぎる反動だと思っています。人類は限界に来ていますので。

 ただこの問題は、人口≒軍事問題≒経済問題なので、なかなか一国だけ減らすのが難しいのも事実です。



 個人的な考えなのですが、本当は、そんなにお金なんかいらんだろうと思っています。

 きちんと食事が取れ、そして、ある程度の娯楽が得られ、そして子孫たちが将来を切り開けるようにきちんと教育を受けさせられる。

 最低限そのことを“全員が”満たせるようにして、多くを持ちすぎている人は、ある程度持分を手放さなければならないと思っています。

 多くを持ちすぎている人たちが必死にしがみ付けば、どこかで革命が起こり全てを失います。

 それまでに勝ち逃げする気満々の人が多すぎるのは許せないことですが。



 日々、自炊をし、その食事を食べながら思います。

 必死に金を稼いで、高い金を払って外食し、仕事で一日が終わり、そのストレス発散のために大量の金を使っている人がいます。

 そして、それでもなお、お金が余り過ぎている人もいます。

「もう少し世の中をどうにかしたいな」

 自分にはそういった能力はないですが、切にそう思います。

 そういう私自身は、世界レベルで見ると大いなる勝ち組であり、物凄い勢いで搾取している側の人間であることも事実です。



● 参考リンク

□マガジン9条 雨宮処凜がゆく! - 製造業の派遣や請負で働く若者たちの生活状況
http://www.magazine9.jp/karin/080611/080611.php

□天漢日乗 - 秋葉原通り魔殺傷事件(その9)「加藤の乱」就職氷河期世代の叛乱
http://iori3.cocolog-nifty.com/tenkannichijo/2008/06/9_3d6c.html

□池田信夫 blog - 「日雇い派遣」禁止して「日雇い」はどうするの?
http://blog.goo.ne.jp/ikedanobuo/e/45a570dd0750a52fe80c0c775ac5c0a5

□404 Blog Not Found - 規制するなら労働時間を
http://blog.livedoor.jp/dankogai/archives/51065207.html
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