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2009年01月20日 08:26:49
地球の静止する日
 映画「地球の静止する日」のDVDを十二月中旬に見ました。

 1951年の白黒映画で、監督はロバート・ワイズ、脚本はエドモンド・H・ノースです。

 ロバート・ワイズは、「市民ケーン」(1941)の編集担当で、「ウエスト・サイド物語」(1961)や「サウンド・オブ・ミュージック」(1964)の製作・監督を行っています。



 この作品は、プロデューサーが「冷戦時代の国家対立を危惧し、なんらかの形で世界情勢を表す映画を作ろう」と考えて作った映画だそうです。

□Wikipedia - 地球の静止する日
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9C...

 異星人とのファースト・コンタクトを描いた大人向けの本格SFといった作品で、当時の冷戦や核爆弾といった社会問題が色濃く描かれていました。



 この作品は、2008年12月に「地球が静止する日」というタイトルでリメイク版が公開されました。

 この映画の系譜ならば、当然「その時点での社会問題や世界情勢」が色濃く反映されていなければなりません。

 リメイク版がどうなっているのか、まだ見ていないので分かりません。

 また、オリジナルの「地球の静止する日」にアクション的な要素は一切ありません。

 なので「地球が静止する日」の予告編の、ド派手な演出は、たぶん映画のほんの一部なんだろうなと思いました。



 さて、この映画の魅力は三つあります。

・ファースト・コンタクト物としてのシミュレーション的部分

・「地球の静止する日」というタイトルにもある、全世界規模の演出

・異星人クラートゥの魅力

 以下、それぞれについて書いていこうと思います。

 古典なので、ネタばれは気にせずに書いていきます。



● ファースト・コンタクト物としてのシミュレーション的部分

 国家のエゴ丸出しという感じです。

 あと、不安が不安を呼び、世論がどんどん過激になっていく展開は、まあそうなるだろうなと思いました。

 もう一つ思ったのは、映画が作られた当時は、現代ほど技術が進んでいないために、警備の隙が非常に多かったことです。

 異星人を監禁しようとするのですが、警備が杜撰なためにすぐに逃げられてしまいます。



 このファースト・コンタクト物の部分で心に残ったのは、主人公である異星人クラートゥが、協調しない人間たちの様子を見て、「私たちはこの段階はとっくの昔に過ぎた」という意味の台詞を吐くところです。

 善意が通じないことへの空しさと、諦めが伝わってきました。



● 地球が静止する 全世界規模の演出

「地球が静止する」様子を示す演出部分です。お金は掛からないけど、演出としては派手に見える、上手いアイデアだなと思いました。

 以下、どんな演出なのか書きます。

 この映画で異星人クラートゥは、その能力を示すために、世界中の動力を停止させます。

 そして世界中の人々は、車やバスが動かなくなったことに驚愕します。

 内容的には物凄いことが起こっていて、全世界の人々が右往左往して、世界がひっくり返るような驚きに包まれるのですが、撮影的には車やバスを動かさないだけなので安上がりです。

 爆発シーンもクラッシュ・シーンも一切なし。それでいて、動的な演出よりも派手に見える。

 ある意味、このアイデア一発で映画が成立するなと思いました。



● 異星人クラートゥの魅力

 実はこの映画の最大の魅力は、異星人クラートゥの存在です。

 彼は、理知的で静謐でありながら、温かい優しさを感じる異星人です。

 その姿は人間と全く同じで、外見からは異星人であることが分かりません。

 実際、映画では、町で下宿先を見つけて、そこに住む人々と友好的に交流しながら地球人を観察しています。

 彼は終盤まで全てを語りませんが、彼が漏らす断片的な情報から、いくつかの背景が分かります。

 彼は、人間よりも高度な文明と道徳を持った社会から来たこと。

 彼の社会では、人間を危険な存在とみなして、排除する計画が持ち上がり掛けていること。

 彼は、人間のラジオを傍聴していて、人間という存在に興味を持っており、個人的に親しみを持っていること。

 彼は、自らの危険を冒してまで、自分が愛着を感じている人間たちのために、警告を与えにやって来たこと。

 これらの事実から、もし何のしがらみもなく彼のことを知れば、この異星人クラートゥがどれだけ人間にとってありがたい存在かが分かります。

 しかし、その相手を受け入れる人間は、この異星人を排撃する側に回ろうとします。

 辛辣だけど、人間のファースト・コンタクトとしては、ありうる可能性の高い展開だよなと思いました。



 映画は、ある程度予想通りの終着点にたどり着きます。

 しかし、この映画で大切なのは、ラストではなく、過程だと思います。

 もともと社会風刺を含んだ、警鐘的色彩の強い作品ですので、異星人を人間に置き換えながら考えることが大切なはずですので。

 そういった意味でも、宇宙人が「怪獣」の姿をしているのではなく、「人間」の姿をしているのだと思いました。



 以下、粗筋です。(ネタばれあり。終盤の最初まで書いています)

 ある日、世界中で衝撃が走る。謎の飛行物体が、人知を超えた速さで空を移動しているのが発見されたからだ。その飛行物体はアメリカのワシントンに着陸した。

 飛行物体は円盤型UFOだった。軍と群集が見守る中、円盤からロボットと男が出て来る。その男はどうやら異星人らしい。

 緊張は高まり、兵士が銃を撃ってしまう。ロボットは反撃して、銃や戦車などの兵器を砂に変える。

 男は一命を取り留めた。事態は収拾し、男は病院に運ばれる。

 男は病院で軍の監視下に置かれる。男は大統領秘書に会い、全世界の指導者を集めて欲しいと告げる。人類全体の運命に関わることを伝えるために自分は来た。彼はそう話をする。

 しかし、世界中の指導者は、それぞれの国のエゴを丸出しにして協調的な行動を取ろうとしない。失望した男は、病院を抜け出し、街中の下宿を借りて住み始める。

 下宿には、少年とその母の未亡人がいた。男は少年と親しくなり、町を案内してもらう。

 そして、この町で最も頭のよい人間の許に連れて行ってもらう。少年が行った先は科学者の家だった。科学者は不在で、黒板には数式が書いてあった。男は数式の誤りを正す。

 科学者と男は出会い、科学者は男のために、世界中の科学者の前で話をする機会をセッティングすると約束する。

 だが、科学者が世界中の人々にメッセージを伝えるためには、男が人類にとって恐怖を与えるほどの力を持っていることを証明しなければならない。

 男は、その力を見せることを約束する。そして、準備を行い、世界中の動力を三十分間停止してみせる。

 科学者は会議の準備を進める。しかし、男の力を目の当たりにした軍は、男を探し出して抹殺することを決める。そして、少年の母親の新しい婚約者が、男の存在を知り、軍に通報を行う……。



 古い映画でしたが、なかなか面白かったです。

 あと、全世界の人々に情報を伝えるには、衛星中継でテレビを放送すればよいのにと思いました。

 そう思った後に、当時の技術でそれができたかどうか調べてみました。

・1963年 11月23日。世界初の人工衛星によるテレビジョン中継放送が、アメリカを主にして、日本にも公開、大成功に終わる。

□テレビ資料室:テレビの歴史年表
http://cozalweb.com/ctv/shiryo/rekishi.html

 ああ、無理だったようです。この映画は1951年製作なので。

 こういった部分もあるので、現代でリメイクするなら、だいぶ話を変えないといけないんだろうなと思いました。
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