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2009年02月03日 15:49:14
大統領暗殺
 映画「大統領暗殺」のDVDを、十二月下旬に見ました。

 2006年のイギリス映画で、監督・製作・脚本はガブリエル・レンジ。

「ブッシュが暗殺されたら?」という仮定の下に、その後の政治情勢がどう動いていくかを描いたフェイク・ドキュメンタリー(モキュメンタリー)です。

 非常にシリアスな内容で、意欲的でもあり、大変よくできていました。面白かったです。



 さて、この映画は「ブッシュを殺せ」という映画ではありません。それは映画の冒頭で強く示されます。

 映画は、アラブ系の女性が出てきて、「ブッシュを暗殺した人は、その後、こうなるということを考えなかったのか?」と涙ながらに訴えるところから始まります。

 これはどういうことかと言うと、ブッシュの暗殺が政治的に利用され、さらなる弾圧と狂気にアメリカが走るということです。

 この冒頭の後、映画は、徹底した“リアル”なドキュメンタリータッチで進みます。



 この映画の「ドキュメンタリー的手法」が、よくできていると感じた点は二つです。

 一つ目は「関係者の証言」を徹底的に活用していることです。(注:架空の関係者です)

 二つ目は、その証言を挟みながら、時系列に従い、暗殺が起こるまでの経緯とその後の展開をストーリー性を持って描いていることです。



 まず、「関係者の証言」について書きます。

 これは、SPや政府役人、鑑識など、様々な「専門家」が、その時何をやったか、そしてどう考えたかを事細かに描いています。

 この情報がかなり突っ込んでいて、それだけでまず楽しめます。

 そして、この専門家たちが顔出し、名前出しで「出演」していることに違和感を覚えます。この違和感は、映画のラストで解消されます。

 また、被疑者となった人々やその家族の背景なども、「インタビュー映像」を交えながら事細かに「当時の状況」を明かしていきます。

 これが、よくできた報道番組のスタイルとなっており、「これが真実であるかどうかに関係なく」面白いものとなっています。

 何より、専門家の証言が「へー」と思うこと満載で、これだけで楽しめる内容になっていました。



 次に時系列の描写です。

 暗殺が起こるまでは、ブッシュが暗殺される時点での警備の状態やその推移、反ブッシュのパレードの熱狂が描かれます。

 そして、これが一番重要なのですが、「人間ブッシュ」の人柄や、彼を慕う人たちの証言が大量に投入されています。

 つまり、ブッシュを「悪者ではなく、一人の人間」として描いているのです。

 そして「暗殺は、人間を殺すものである」という部分を暗黙の上に強調しています。

 このスタンスは、「倫理的」であるとともに、映画の後半の伏線にもなっています。

 以下、ネタばれでもなんでもなく、システム上そうなるので書きますが、ブッシュが死ぬと、副大統領が繰り上がり、大統領になります。

 つまり、映画の後半は、チェイニーが大統領として、暗殺の責任の全てをアラブのせいだと強硬に言い張る展開が待っています。

「ブッシュの方がましだった」そういった効果を最大限にするために、ブッシュをニュートラルに置くことが伏線の一つになっています。

 そして後半は、アメリカが、アメリカの決めた「犯人」を裁判に掛ける展開となっていきます。

 それは、悪夢のような世の中の始まりです。



 映画は93分と短いものでしたが、その間非常に緊迫感が漂っており、集中して見ることができました。

 名前から、ちょっと軽い乗りの映画と勘違いされる可能性もありますが、非常に硬派にIFを描いており、大変楽しめました。

 そして、映画の結末は、非常に皮肉に満ちたものになっていました。

 2008年最後の映画でしたが、よい映画でした。



 以下、粗筋です(少しネタばれあり。中盤ぐらいまで書いています)。

 ブッシュ大統領が暗殺された──。

 この番組は、その暗殺当日の出来事と、その後の捜査・裁判の展開を克明に描いたドキュメンタリーである。

 その日、ブッシュはシカゴに降り立った。そして彼の警備担当者たちは緊張していた。シカゴでは、反ブッシュの大規模なデモが行われていたからだ。

 いたるところで、警官隊とデモは衝突を起こした。何よりも警備陣が神経を尖らせたのは、秘密であるはずのブッシュの移動経路が、デモのリーダー達に筒抜けだったことだ。

 ブッシュのシカゴ入りから時間が経つにつれ、デモの規模は大きくなり、熱狂も激しくなる。

 そして演説を終え、車に乗り込もうとしたブッシュを凶弾が襲った。

 急遽病院に運び込まれるブッシュ。

 そして警察やFBIは捜査を始める。捜査は難航を極めた。その日、ブッシュに対して殺意を持っていた人間は何万人もいた。動機の面から犯人を割り出すのは不可能だった。

 仕方なく、関係のありそうな人間を片っ端から捕まえ、刑務所に送り込むことになる。

 その中に一人のアラブ系の男性がいた。大統領となったチェイニーは、暗殺はアラブの仕業でなければならないと考える。

 その政治の思惑の中、アラブ系の男はアルカイダであるという烙印を押されることになる……。



 映画は、全編シリアスだったのですが、一箇所だけ、思わず笑いが漏れそうになったシーンがありました。

 ブッシュが病院に運び込まれた後、医者が漏らした台詞です。

「この年齢とは思えないほど丈夫な心臓をしています」

 ああ、ブッシュは心臓に毛が生えていそうだなと思いました。

 この部分以外は、非常に真面目な映画でした。
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