2008年の読書のまとめ8月分です。
星による評価の基準については前述の通りです。
● 2008年08月(4冊/計42冊)
■ 04 人間の測りまちがい〈上〉—差別の科学史(スティーヴン・J. グールド)★★★★☆ 下巻でまとめて感想を書きます。
■ 16 人間の測りまちがい 下—差別の科学史(スティーヴン・J. グールド)★★★★☆ 頭蓋骨の大きさの測定や、IQテストなど、“人間の知能を測る”“科学的手法”が、いかに偏見に満ちた前提で行われてきたか、そして、その当時の当事者が、“それが先入観で捻じ曲がっている”ことに気付かず、いかに差別を助長していたかということを、過去の論文や、その論文に掲載されたデータを丹念に見ていくことで暴いていく本です。
著者は、バージェス頁岩(カンブリア紀の生物で有名)の発掘を元に、「ワンダフル・ライフ」を書いたスティーヴン・J・グールド。
サイエンス系の本の良書をまとめたページなどで、本書はよく取り上げられているので購入しました。グールドの本を読むのは、「ワンダフル・ライフ」に続いて二冊目です。
面白かったです。
知的興奮を味わうことができました。ただし、くらくら来る方の「ダウナーになる知的興奮」ですが。
例えば、「学習の遅れている人を救済する」ために開発されたIQテストが、「学習機会を奪われている人たちを差別する」道具に使われたり、「優生学」に繋がったり、「何の通知もなく女性に去勢手術を施す社会政策」に繋がったり。
本書では、そういった「社会的影響」の皮肉さをたくみに盛り込んでいます。
またこの本では、科学の研究は、人間の先入観によって大きくその結果が歪められるということ、そして、社会的背景と両輪になって、その先入観を肥大させていくということを分かりやすく描いています。
科学系の本として、「“科学”の危険性」を非常に分かりやすい形で描いた本書は、読んでおいて損のない本だと思いました。
また、本を作るやり方として「一般的な真理を描こうとすれば、非常に限定したことを書かなければならない」というグールドの執筆方針も「なるほどな」と思いました。
物事はどんな場所でも繰り返されます。そして、限定的な内容の方が、それを読む人にとっては分かりやすく、具体性が高いです。
また、本書を読んだ後に、ダーウィンの「種の起源」を読もうと決めました。
理由は、2007年に読んだ「神は妄想である」のリチャード・ドーキンスと、今回のグールドが、それぞれの本で、激しいほどにダーウィン・リスペクトを行っていたからです。
また、西洋社会において、ダーウィンが与えたインパクトをきちんと把握するには、一度原典を読んでおかないといけないと思ったからです。
というわけで、2008年は、重い腰を上げて「種の起源」を読むことになりました。
■ 20 マルドゥック・ヴェロシティ〈1〉(冲方 丁)(★★☆☆☆)
一巻の最初3/4までは、本当にこれがどうして評価が高いんだろうと、謎に思いながら読みました。
二巻以降、どんどん面白くなっていくのですが、その立ち上げとして、丸々一冊ぐらい掛かるのは、掛かり過ぎだろうと思いました。最終的に面白かったのでよかったのですが。
「特定の快感」を味わわせる上で、そのために「既存のテンプレート」を使えない場合、そのスタートアップに時間が掛かるのは仕方がない部分かもしれません。これは難しい問題だよなと思いました。
既に前作で評価を確立しているからこそできるわざであって、「マルドゥック・スクランブル」の前にこちらを出していると、ちょっと食い付きが悪いだろうと思いました。
ただ、「マルドゥック・スクランブル」も、最初と後半が面白いのですが、間は少し中だるみがあり、こちらも難しい部分があり、どうかと思う部分もあるのですが。
■ 24 河童・或阿呆の一生(芥川 龍之介)(★★★☆☆)
表題の「河童」が面白かったです。
特に、河童の資本家が、リストラを語るシーンで、私は背中に冷たいものを感じました。
人間たちと同じような社会を築いている河童たち。その河童の世界では、リストラされた河童が社会問題になることはないそうです。なぜならば、リストラされた河童は、食肉用に回されるからです。
その所業に対して、人間である主人公が抗議の声を上げるのですが、それに対して河童はこんな感じに回答します。
人間も同じだろう。職にあぶれた女性を売春宿に送っているのだから。
うわあと思いました。