映画「ホットファズ 俺たちスーパーポリスメン」のDVDを三月上旬に見ました。
2007年の映画で、監督・脚本はエドガー・ライトです。
ネットでの前評判がよかった映画です。確かに面白かったのですが、これはそのネット文脈で語られている視点とは違うように見るべき映画なんだろうなと思いました。
確かに実際の監督視点では、そうなのかもしれませんが、一般向け視点はそうではないですから。
この映画は、ポリス物です。そしてバディ物です。
主人公は、その二人の内、都会からきた有能な警官の方です。映画は、彼の視点で進みます。
しかし、監督とマニアにとっての視点は、その相方になる、デブでポリス映画マニアの警官になります。
ネット文脈では、この相方視点での語られ方になっていますが、何の前知識もない人にとっては前者の視点で映画を見ることになります。というか、映画自体は、前者視点で作っています。
なので、ちょっと前評判とは違う映画だよなと思いました。
まあ、そういった齟齬があるのですが、面白いのは面白かったです。
この映画は、かなり横断的なジャンルの映画です。
ポリス・アクション物であり、ポリス・コメディー物であり、パロディー物であり、クライム・サスペンス物でもあります。
それらが、かなりいい具合にブレンドされ、ごった煮になっています。
ネタバレになるのでクライム・サスペンス部分は書きませんが、「その情報を論理的に繋ぎ合わせたら、それが一番簡単な答えだけど、それが答えか!!」という驚きがありました。
クライム・サスペンス部分の答え自体がギャグという感じです。
というわけで、一筋縄ではいかない映画でした。
この映画を見て思ったのは、「物語の基本は異物を混ぜることだよな」ということと、「テンポのよい繰り返しはよいギャグだ」ということです。
前者は、スーパーポリスが田舎に左遷されてくるという設定です。そこに、ポリス映画マニアのダメ警官がいるもんだから、やたら絡んできて話が転がります。
後者は、クールでスタイリッシュな映像で同じことを繰り返す演出です。馬鹿らしいことほど、格好よく繰り返されるとギャグになります。格好よくなく繰り返されるシーンも多いですが。
そしてこの映画の肝になっている部分は、連続殺人事件が起こっているのに、「この町で殺人事件なんか起こるわけがないじゃないか〜(^o^」という町の人たちです。
よくある「何も事件が起こらない田舎町に左遷された〜」という設定を、完全にパロディーにしています。
これは上手いなと思いました。ステレオタイプを上手く利用しています。
あと、この映画が、よく作り込んであるなと思うのは、随所にメタファーやパロディーを散りばめてあるところです。
単なる殴り合いのシーンでも、その殴り合っているシーンの選び方に意味があります。
分かりやすいところでは、終盤に主人公と敵が殴り合うシーンがあります。このシーンでは、町の“現実”が完全に壊されていくことが示されます。なぜならば、ミニチュアの街の中で殴り合い、その街が壊れていくからです。
こういった風に、映画はかなり作り込んであります。この映画に対する監督の気合の入れようが伝わってくるなと思いました。
以下、粗筋です。(特にネタバレはなし。中盤ちょっと過ぎぐらいまで書いています)
主人公はロンドンで活躍していた警官。しかし、その華々しい活躍が災いして田舎町に左遷されてしまう。
その町は、“最も素晴らしい町”に選ばれたこともある理想的な田舎町だった。町の人たちだけでなく、警官たちものんびりしていた。彼らは、この町で事件は発生しないと言っていた。
主人公はその町で、署長の息子とコンビを組むことになる。非常に太ったその相方は、ポリス映画の大のマニアだった。彼は、都会で華々しい活躍をしていた主人公に好意を寄せ、映画のような活躍をしたことがあるのかと事あるごとに尋ねてくる。
非常にのんびりしていて何も起こらない町──。そう思っていた主人公の前に事件が起きる。
殺人事件。それも連続殺人事件。しかし、主人公以外の誰も、それを殺人事件とは考えない。
この町で殺人事件なんか起こるわけないじゃないか。それは事故だよ。
しかし、死者は次々と増えていく。主人公は一連の“事故”には関係があるとして調査を進める。そして、彼は恐るべき事実を知る……。
随所で笑える映画なのですが、私が印象に残ったのは、オーメンのパロディー・シーンです。
来るぞ、来るぞと思っていて、やっぱりきて、その後の過剰なサービスっぷりにやや苦笑気味になりました。
まあ、笑うには不謹慎なシーンなんですけど。
というわけで、映画好きの人は随所に笑い所のある映画だなと思いました。