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2009年11月19日 12:20:56
ハワーズ・エンド
 映画「ハワーズ・エンド」のDVDを九月上旬に見ました。

 1992年のイギリス映画で、監督はジェームズ・アイヴォリー、脚本はルース・プラワー・ジャブヴァーラ、原作はE・M・フォスターです。また、主演はヘレナ・ボナム=カーターです。

 このメンバーは、「眺めのいい部屋」(1986年)と同じメンバーでした。

 映画は、なるほど、同じメンバーの作品だなという感じでした。よくできているとは思いますが、私の好みからは外れていました。



● 金持ちの傲慢さ

 この映画を見て思ったのは、金持ちというのは傲慢だなということです。

 自分の生活が豊かで安定していると、そうでない人の生活などは瑣末なものと見なして、残酷な振る舞いをします。

 別に、この映画の登場人物だけがそうだというわけではなく、日常の世界でも同じです。

 自分も含め、人間は自分よりも貧しく、不安定な境遇で暮らしている人には、なかなか目を向けることはできません。

 この映画の中では、アンソニー・ホプキンス演じる実業家が、主人公のヘレナ・ボナム=カーターにそういった「金持ちの傲慢な台詞」をかなりストレートにぶつけます。

 それに対して、ヘレナ・ボナム=カーターは反発して、労働階級の男に肩入れするのですが、これがかなり上から目線の慈善で、相手から拒絶されます。

 それは、なぜなのか?

 それは彼女が、相手にもプライドがあることに気付いていないためです。

 人間、どういった立場や、経済状態でも、プライドなしには生きられません。そのプライドは、環境や教育で作られるものですが、それを犯されると、非常に傷つきます。

 この映画を見て、少し感じたのは、自分よりも下だと思う人に対する人間のストレートな傲慢さと、そこに手を差し伸べようとする人間の、プライドに鈍感であることによる傲慢さです。

 種類は違えども、こういった傲慢さは、積み重なると暴発する類の感情の蓄積を生むだろうなと思いました。



● セットや衣装のよさ

 映画の舞台は、二十世紀初頭のイギリスです。建物や調度品、衣装などの雰囲気が非常によく、絵になるシーンが続きます。

「美術がいいな」と思って見ていましたが、あとで調べると、アカデミー賞の美術(監督)賞、美術(装置)賞を受賞しており、衣装デザイン賞にもノミネートされていました。

 なるほど、世間的にも、これはよい美術なんだなと思いました。



● 進んでいくのではなく、流れていくシナリオ

 映画の名前にもなっている「ハワーズ・エンド」は、建物の名前です。

 映画は、この建物に微妙に関わりながら進んでいくのですが、「目的があって進んでいく」という感じではなく、「流れていった末に、最終シーンにたどり着く」といった感じでした。

 それは、登場人物の台詞からも伺えます。

 登場人物の一人が、映画の終盤にこういった台詞を吐きます。

「結局、○○が言ったように、○○になってしまったのね」

 特に何を目指したというわけでもなく、一つ一つのエピソードが積み重なった結果、最終的にラストの結末にたどり着く。

 そういった感じで、話の進みとしては、ちょっと緩いというか、流された結果、ラストにたどり着くと感じるようになっていました。



● 駄目な子供たち

 アンソニー・ホプキンス演じる実業家の子供たち(全員成人している)が、揃いも揃って駄目な人間たちでした。

 どう駄目かと言うと、親の遺産を、どう自分たちだけで分割するかしか考えていないところです。

 自分で増やすとか、自分で何かをするといった考え方はなく、本当に親の遺産を分割して、それで自分たちが食っていくことしか頭にないです。

 これは、親が教育を誤ったせいだろうと感じました。

 財産などというものは、放っておけばどんどん目減りしていくものなので、増やすように回さなければいずれ底をつきます。

 特に親の遺産を兄弟で分割して相続するというやり方は、何代か続ければ財産が霧散します。

 もっと言うと、自分で新しい財産を築く気がなければ、単なる浪費で人生は終わります。

 目先の金にしか目が行っていない子供たちを見て、この家は先がないだろうと思いました。



● 粗筋

 以下、粗筋です(ネタバレあり。最後まで書いています)。

 主人公は、ある程度資産を持つ家の次女。彼女には姉と弟がいる。彼女たちは、芸術に対する造詣が深い。

 主人公は、資産家の実業家の息子と恋をするが、破局に至り、その家族と気まずい関係になる。

 ある時、その資産家の家の人間が、真向かいの建物に越してくる。それから、その家の母親と、主人公の姉が友人となる。その家の母親は、死ぬ時に「ハワーズエンドを彼女に」と書き残す。だが、家族の手によって、その遺言は握りつぶされる。

 ハワーズエンドは、家族が育った家だった。しかし、その家の者たちは、財産の維持にしか興味がなく、その家の持つ美しさや、心の安らぎを感じさせる佇まいには理解がなかった。

 その頃、主人公は、一人の男性と知り合いになる。彼は、既に婚約者がいる労働者階級の人間だが、詞的な感受性が高く、主人公はそのことを好ましく思った。

 だが、その男性は、主人公経由で聞いた実業家の助言で失業する。

 その後、寡夫となった実業家と、主人公の姉は婚約する。主人公は、男性の一件で、実業家に腹を立てていた。そして、男性に肩入れをしようとして、二人きりになった時に肉体関係を結んでしまう。

 主人公は、イギリスからしばらく離れる。主人公の姉は連絡を取ろうとするが、なかなか連絡が取れない。ようやく連絡が取れ、ハワーズ・エンドに誘い出すと、彼女は妊娠して臨月間近だった。

 姉は驚き、実業家は相手の男を探し出そうとする。実業家は、息子にその件を任せる。主人公のことを聞いた労働階級の男性は、ハワーズ・エンドにやってくる。そこで実業家の息子は、男性を殺害する。

 実業家の息子は刑務所に送られ、ハワーズ・エンドは、主人公の姉のものになり、主人公は子供を産み、そこで暮らし始める。



● 俳優

 主人公とその姉の、 ヘレナ・ボナム=カーターとエマ・トンプソンがなかなかよかったです。

 あと、アンソニー・ホプキンスも、さすがの存在感を示していました。また、実業家の元妻を演じていたヴァネッサ・レッドグレイヴも記憶に残りました。

 あとの役者は印象に残らなかったです。

 ここらへんは、配役のせいなのか、役者の力量なのか、ちょっと分からなかったです。
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