映画「街の灯」のDVDを、十月上旬に見ました。
1931年の白黒無声映画(音楽つき)で、監督・脚本・主演はチャールズ・チャップリンです。原題は「CITY LIGHTS」。
映画が終わったあとに、物凄い虚脱感が襲ってきました。よい映画ですが、切な過ぎる。その理由については後述します。
以下、ラストに関わることを書くので、ネタバレを含む感想です。
● 切な過ぎる無償の愛
映画のラストは、ストーリー的にはハッピーエンドなのですが、あまりにも切な過ぎて、悲し過ぎて、恐れと戦慄を覚えました。
これを、ハッピーエンドと呼んでよいのだろうかと……。
主人公がボロボロ過ぎて、無残過ぎて、目も当てられないのに、本当に幸せそうな笑みを浮かべる。その瞬間に、鳥肌が立ちました。
なぜ、そう感じたのか。それは、この映画の圧倒的な落差と、チャップリンの演技が理由だと思いました。
この映画は、一言で言うと「はしごを上げ続けて、そのはしごを取り除き、上げた分以上に墜落する」話です。
恋をした女性のために、自分を虚飾まみれにして、その嘘が弾けて、地の底まで叩き落ちる話です。
でも、その嘘が、「悪」にはなっておらず、「善」になっている。無償の愛になっている。だから戦慄して、感動する。
そして、虚飾部分をめいっぱいコメディにして、笑いで塗り固めているからこそ、その対比である悲しみが圧倒的な反作用として返ってくる。そういった構成になっています。
● 笑いと悲しみの対比
以下、ここで、簡単に粗筋をまとめておきます。
主人公は、街の浮浪者です。彼は、盲目の花売りの少女に恋をします。そして、相手が盲目であることを利用して、自分をお金持ちの人間に見せます。ちょうど、その頃、たまたま知り合った酒乱の大金持ちと仲良くなることで、図らずもその役を演じることができます。
そして、彼女との仲が深まるにつれ、お金があれば、少女の目を治せることを知ります。主人公は、大金持ちからお金をもらい、その用途に使おうとします。しかし、手違いから盗人と見なされ、逮捕されることになります。
少女は、その時の金で目が見えるようになります。でも、主人公は牢獄に入ることになります。
時が経ち、主人公はボロボロの姿で出獄してきます。そして、少女が就職した店の前を通りがかります。少女は初め、主人公の存在に気付きませんが、彼の手に触れることで、正体が分かります。
主人公は、自分の落ちぶれた身なりも気にせずに、彼女の目がよくなったことを喜びます。
粗筋にまとめると、こういった話です。
全ての虚飾=笑いが剥げたあとに残った主人公の感情は、少女の幸せを願う純粋な気持ちだった。その剥き出しの感情を演じるチャップリンの大写しの顔。
そこには、一種透明性を感じる、動物のような無邪気な笑みが浮かんでいます。姿も体もボロボロなのに、心だけはキラキラと輝いている。
その様子が、感動的ではあるのだけれど、あまりにも悲し過ぎる。その先の主人公の幸せが、一片たりとも見えてこない。何の希望も感じられない。その、残酷な輝ける瞬間。
映画は、その場面を切り取って終わります。
美しいとともに、怖い映画です。
映画を見終わった瞬間、「主人公、どうするんだこの先?」と思いました。人生のその後が、全くないような終わり方でしたので。
こういった映画ですので、「よい映画」ではあるのですが、見終わったあとに虚脱感を覚えました。疲れている時に見ると、ダメージを受けそうな映画だなと思いました。
何かを表現するということに成功している映画ですが、それを受ける側にも覚悟のいる映画だなと思いました。
● ライムライトとの比較
「ライト」繋がりで、同じチャップリンの悲喜劇「ライムライト」(1952)についても触れておこうと思います。「街の灯」から二十一年後に撮られた映画です。
こちらも、無償の愛について描いた作品です。
映画としての構成や満足感では、圧倒的に「ライムライト」の方が上だと思いました。言うならば円熟の作品です。
「ライムライト」は映画ですが、「街の灯」は、いわゆる「映画」よりは前の時代の作品だなという印象でした。
時間も、「ライムライト」が137分で、「街の灯」は86分とだいぶ違います。
年齢を重ねて同じようなテーマの作品を作ったということは、チャップリンはこういった話が好きなのだろうと思います。もしくは、原体験として、人生のテーマに入っているのだと思います。この二つの作品の、根底に流れているものは同じだなと感じましたので。
● 粗筋
粗筋は、今回は感想の中に書いたので省きます。
● フォント
映画の物語自体には関係がありませんが、無声映画の台詞に使われていた文字のフォントが、けっこう好みでした。
何のフォントだろうかと思いましたが、ネットで検索してもよく分かりませんでした。誰か知っていたら、教えていただけると幸いです。
こういった、細かなパーツが気になることがあるのですが、いざ調べてみようと思っても、手掛かりがないことの方が多いです。
マニアな人なら知っているのだろうなと思いました。