映画「アバター」を劇場で、一月中旬に見てきました。
2009年の映画で、監督・脚本はジェームズ・キャメロン。主演はサム・ワーシントンです。
3D映画のキラー・コンテンツと言われているキャメロンの超大作。162分におよぶ長い映画ですが、時間はまったく気にならず楽しめました。
● 3D映画とIMAX
本作「アバター」は、3D映画として作られた作品です。そのため、物凄い没入感を期待して川崎のIMAXシアターに行ったのですが、奥行きはあまり感じられませんでした。
昔あった品川のIMAXは物凄い没入感だったのですが、川崎のIMAXはそういった感じではありません。それは、川崎IMAXの画面が“本物”のIMAXよりもかなり小さいのが原因です。下記ページに、その問題がまとめられています。
□偽IMAX問題
http://www.premiereport.com/paul-nise-imax.html 今日本に残っているのは、通常のIMAXの数分の1しか画面サイズがない、ミニサイズのIMAXだそうです。
その違いを具体的に言うと、品川のIMAXは視界を全て覆うように画面があったのですが、川崎のIMAXは、画面の上部1/3ぐらいが画面外で、下部も1/8ぐらいが画面外でした。
おかげで、視界中で画面外の領域がかなり多かったです。
そして、それが原因なのか、奥行き感はあまり感じませんでした。たまに手前に物が飛んできた時に、「ああ、3Dだ」と思い出す程度でした。
また、3D眼鏡をかけるので、画面も少し暗く感じました。
でもまあ、3D映画として作られた映画なので、3Dで見るのが正解なのでしょう。そして、3Dとしてみるのならば、少しでも画面が大きなIMAXで見るのが正解なのだと思います。
あと、この映画の3D表現として気付いた点としては、2D映画のカメラみたいに、手前のオブジェクトのフォーカスが合っていない演出が何度か見られました。
3D映画は、全部鮮明な方がよいのにと思いました。
あと、当然なのですが、字幕の文字が宙に浮いています。これは最初、ちょっと違和感がありました。
● 風の谷のナウシカ
映画を見始めて、真っ先に頭に浮かんだのは、「風の谷のナウシカ」(1984年)です。
なぜ頭に浮かんだかと言うと、「アバター」の舞台となる惑星「パンドラ」の森や動物の姿や色彩が、「風の谷のナウシカ」を彷彿とさせたからです。
それだけではありません。
「パンドラ」の惑星の動物は、何本もの黄色の触手を出して、他の動物と「絆」を結んだり、植物と交信したりします。
この様子が、王蟲の触手とナウシカが接触する様子によく似ていました。
また、パンドラの住人であるナヴィたちは、翼竜に乗って空を舞い飛びます。その様子が、メーヴェに乗っているところを思い出させてくれました。
そして、ガンシップや巨大な空中戦艦も出てきます。
ストーリーに共通する点はないのですが、出てくるパーツが、えらく「風の谷のナウシカ」に似ていて、終始ナウシカが頭を離れなかったです。
また、映画の途中では、空中に山が無数に浮かんでいる「ハレルヤ・マウンテン」という場所が出てきます。こちらは、「天空の城ラピュタ」(1986年)を思い出しました。
● エイリアン2
彷彿とさせた映画は「風の谷のナウシカ」だけではありません。キャメロン自身の映画「エイリアン2」(1986年)も強烈に頭に浮かびました。
それも当然で「アバター」には、シガーニー・ウィーヴァーが主人公の相方として出てきます。
そして、敵方の兵士たちは、AMPスーツと呼ばれるパワード・スーツに乗っています。このデザインが、「エイリアン2」のパワード・スーツをやたらと思い出させます。
それだけでなく、映画中の台詞でパンドラに来ている人間たちが「彼らにとっては、私たちがエイリアンよ」みたいなことをやたらと言います。
「そうか、この映画は、エイリアンが平和な惑星に攻めてきた映画なのか」と思いました。
● スターシップ・トゥルーパーズ
「アバター」とは直接関係ないですが、映画を見ながら思ったことです。
巨大画面の3D映画で、「スターシップ・トゥルーパーズ」(1997年)を見たい!
いやもう本当に。
同じ「別の惑星で、別の生物」の話なら、3D画面を最大限に生かせるのは、「スターシップ・トゥルーパーズ」みたいな映画なのではないかと思いました。
やってくれたら見に行くのに。
でもまあ、わざわざ十年以上前のこの映画を、3D化してくれるわけはないだろうなと思いました。
● 美しいパンドラの世界
映画は、舞台となる惑星パンドラが非常に美しかったです。
どこまでも広がるジャングルに、異世界ならではの変な地形があったり、巨大な植物が繁茂したりしています。
映画中は単に、「これだけのスケールとリアリティの映像を作るのは大変だな」と思っていましたが、プログラムを読んで、大変さがそこではないところにあることに気付きました。
プログラムには、「3Dにするために、マットペインティングの手法が一切使えなかった」と書いてありました。
映画では、画面の奥の背景を、手書きやCGの絵で済ませてしまうことが多々あります。その時の絵をマットペインティングと言います。
3D映画では、立体視をさせるために、奥まで広がるジャングルの木々を、全て三次元で作って、二つの視点分レンダリングさせる必要があります。
その計算量は、凄いことになってそうだと思いました。
プログラムには、この映画の3Dデータのデータ量も乗っていました。1000テラバイトを越えるそうです。キャメロンの前作の「タイタニック」(1997年)は、2テラバイトだったそうです。
えらいことになっているなと思いました。
● 惑星の実在感
それではそうやって作られた惑星パンドラの実在感はどうだったのでしょうか。
感想としては「地球のジャングル+不思議な生物+一部の大型生物」という感じで、人間の想像の範囲内の世界でした。
実は、「スターウォーズ」シリーズに出てくる惑星の方が「それっぽさ」を感じるなと思いました。
これは、単純に見ている時間の違いだと思います。一つの惑星を三時間近く見れば、それがゼロから構築された世界なのか、地球世界の一部を置換して作った世界なのかは、次第に実感として分ってきます。
「スターウォーズ」みたいに、短い時間だけ見せるのではないので、これは仕方がないのかなと思いました。
● 言語と動作
惑星パンドラに住むナヴィと呼ばれる人間は、独自の言語をしゃべります。
この言語や動作は、言語学者と、元シルクド・ソレイユのパフォーマーと、振付師が作ったそうです。
「元シルクド・ソレイユのパフォーマー」というのが、なるほどなと思いました。
シルクド・ソレイユでは、肉体パフォーマンスだけでなく、独自の「どこにもない言語」である「シルク・ランゲージ」を作っていますので。
ただ、このナヴィの動きというか、肉体構造については疑問が残りました。
「六本足でないのはなぜ?」という点です。
なぜなら、惑星パンドラで出てくる哺乳類的な動物はみんな六本足なのに、ナヴィだけ四本足(二本の足に日本の腕)だからです。
ここは六本足にするか、退化した腕を二本見せるかして欲しかったです。
● 星野之宣の「2001夜物語」
映画を見ながら、星野之宣のマンガ「2001夜物語」を思い出しました。
機会があったら読み直したいマンガなので、そのうち読みたいなと思います。
● 意外に少ない登場動物
さて、以下突っ込みです。
映画にはいくつかの大型動物が出てきます。前半のエピソードで出てきたあと、後半のスペクタクル・シーンでも、重要な役を果たします。
スタンピードでの主要な破壊者になるからです。こういった使い方は、異世界物のスペクタクル・シーンでは定番です。
この大型動物の数が、三種類(内一種類は、ハイエナ的な中型動物)しかいません。
これはちょっと少ないよなと思いました。映画の作り方として、使い回しが必要なのは分かりますが、「大地の怒り」的なシーンでは、見たこともないような大型動物がうじゃうじゃと出てきて欲しいなと思いました。
「ベルセルク」の蝕のシーンぐらい、出てくれればよかったのにと思いました。
● 謎の通信
これが一番解せなかったです。
映画の後半、主人公たちは、基地から逃げ、基地の軍人たちに探知されないように、探知不能な場所に移動します。
そこでは強力な磁力が働いており、探知不能で、計器も誤動作を起こすと説明があります。
その前に、伏線としてその場所の話題が出ているので「ふーん、なるほどね」と思いながら見ていました。
そうしたら、その少しあとに、その場所に逃げ込んだ主人公たちは、基地に残っている仲間と映像通信を行い、情報収集を行います。それも、クリアな映像で。
「うん?」と思いました。磁気障害があるんじゃなかったのかと。まあ、よく分からないけど、違うテクノロジーで送っているのかと、首をひねって、そのことは忘れました。
しかしその後、敵がこの場所に攻めてきた時に、「磁気障害で映像を送れない」という台詞と描写がありました。
やっぱり、通信に障害が出ている……。
でも、主人公側は、無線で連絡を取り合っている……。
そもそも、アバターは、無線で操縦している……。その機械も誤動作を起こしていない……。
いったいどうなっているんだろうと、えらく腑に落ちませんでした。
● 鉱物
映画では、地球側は、惑星パンドラの地下に眠っている高額な鉱物アンオブタニウムを狙ってきます。
この鉱物ですが、映画中では特に説明がなかったのですが、プログラムには説明がありました。
超伝導性の鉱物だそうです。そういえば、超伝導による浮遊をさせていたなと思い出しました。
この鉱物と磁気の作用で、惑星パンドラの空中に浮かんでいる山は浮かんでいるそうです。
実際にそういった物質があった際、惑星がまだ液体だった頃に、どういった分布をするのかは謎なのですが、一応ちゃんと説明をつけているんだなと思いました。
● 終盤の戦闘の指揮
映画の終盤は、ナヴィ側についた主人公が、ナヴィの戦士たちを率いて地球側の人間と戦います。(散々CMで流しているので、ネタバレではないと思います)
その際、素晴らしいほど作戦がないです。全員で、全力で攻める。それぐらいです。
でもまあ、主人公は海兵隊の一兵卒で、士官でも何でもないので、作戦はこういったレベルになるよなと思いました。
でも、何か「これが理由で勝った」という戦術的な伏線があった方がよいなと思いました。
● ストーリー
この映画のストーリーは、かなりシンプルです。
いろんなところで書かれていますが、3Dの異世界をストレスなく堪能するには、このぐらいシンプルなストーリーでよいのだろうと思います。
これで、複雑なストーリーを描いてしまったら、万人が楽しめる映画にはなりませんので。
その副作用だと思うのですが、主人公がナヴィの通過儀礼を経て、ナヴィの一員になるまでが、かなり丁寧に描かれていました。
実は、これがよかったです。
異世界の体験として、「通過儀礼を主人公とともに観客も経る」というのが、重要だったと思いました。
● 粗筋
以下、粗筋です(序盤だけ書いています)。
主人公は地球の海兵隊員。彼は戦闘で負傷し、下半身麻痺になってしまう。その彼には双子の兄がいた。兄は科学者で、あるプロジェクトのメンバーだった。
主人公の兄は、パンドラという惑星のナヴィという知的生命体と接触するプロジェクトに参加していた。プロジェクトは、ナヴィと人間の遺伝子を掛け合わせた、アバターと呼ばれる肉体にリンクをして、ナヴィと接触するというものだった。
アバターは、その乗り手に合わせて作られる。主人公の兄は事故死して、高価なアバターだけが残された。パンドラの開発を進める会社は、そのアバターを無駄にしないために、遺伝子が同じ主人公を呼び寄せる。
主人公は、科学者チームに合流するが、科学者としての経験を積んでいないために、リーダーの女性に疎まれる。
また、パンドラには海兵隊も派遣されており、そのリーダーである大佐は、軍事行動を考えていた。
パンドラに地下には、常温超伝導の鉱物が眠っており、その鉱脈の上に、ナヴィたちは住んでいたからだ。
主人公は、大佐から、科学者チームにスパイとして入るようにと言われる。科学者チームは鉱物よりも、この惑星の生態系に価値を置いていた。
科学者チーム、ナヴィ、海兵隊のそれぞれと接点を持った主人公は、ナヴィたちの奥深くに潜り込むことになる。そして彼は、ナヴィとともに生活し、彼らの知識を学び、通過儀礼を受けるための訓練を積んでいく……。
● マトリックスの逆
以下、少しネタバレ的な内容です。あまりネタバレではないと思いますが。
映画のラストは、「マトリックス」シリーズの逆だと思いました。
「マトリックス」シリーズは、仮想世界から現実世界に戻ってくる話ですが、この「アバター」は、仮想世界に行ってしまう話でした。
今の時代なら、仮想世界に行ってしまう話も、リアリティを持って受け入れられると思います。ネトゲ廃人とか、普通にいますので。
映画中で面白かったのは、アバターとその乗り手の描写です。
主人公たち科学者チームはアバターを操縦するのですが、その間はずっと起きています。そのため睡眠は、リンクを切って寝ないといけません。その間、アバターは木偶の坊のように身動き一つできなくなります。
また、主人公たちは食事を取る必要があり、リンクを切って、必死に食事をかっこみ、すぐにリンクを再開する描写もあります。
こういった描写は、リアルで面白いなと思いました。
● まとめ
なんやかんや書きましたが、エポック・メイキングな映画として見ておいて損はないと思います。
今後の3D映画の比較対象の軸となるでしょうから。
そして映像表現は非常に美しく、映画も退屈せずに楽しめるものでした。
私は値段分は楽しんできました。