映画「イレイザーヘッド」のDVDを十一月中旬に見ました。
1977年の白黒映画で、監督・脚本はデヴィッド・リンチです。
同監督の、長編デビュー作でもあります。
● 不気味でシュールな映像
この映画の最大の特徴は、「不気味でシュールな映像」これに尽きると思います。
冒頭に出てくる、なんだか壮大な宇宙的な映像。そして、途中から出てくる、ぬるぬるした奇形の赤ん坊。
出てくる登場人物の言動や行動の奇怪さも含めて、不気味でシュールな映画になっています。
その中で、唯一冷静で普通に振舞っているように見える主人公も、映画の終盤になると数奇な運命をたどり、よく分からない存在になっていきます。
この話を、理路整然と説明しろと言われてもちょっと無理で、解釈の幅がかなり残されています。
たぶん、粗筋を書くと、人によって微妙に内容が変わってきそうな、そんなイメージの積み重ねで作られた映画です。
何というか、他人が真似するのが難しいようなセンスで、真似しようと思うかどうかも謎だよなと思う感じでした。
ただ、この人の作る映像の、イメージの喚起力は強烈です。そこは、素直に凄いと思いますが、私が映画に求めているものとは方向性が違うなと思いました。私が映画に求めているのは物語なので。
● 体液ぶじゅるる系
映像は、基本的に体液ぶじゅるる系です。
汁が「ぶじゅるるる〜」と溢れ出る感じです。そして、てらてらと光っています。基本的に、気持ち悪いです。
しかし、気持ち悪いのは映像だけではないです。人間の台詞や動きも気持ち悪いものが多いです。
主人公の奥さんになる人の家族が、全員気持ち悪いです。なんだかみんな、精神のピントがずれている感じです。まともなコミュニケーションが取れない雰囲気です。
こういった気持ち悪さの演出が、この監督は上手いなと思いました。
● 奇形の赤ん坊
「どうやって撮ったか分からない」と評判の奇形の赤ん坊ですが、確かに謎でした。
何かの生き物の胎児を利用したようにも見えますが、製作の長さ(五年の歳月をかけて完成)から考えて、生ものではなさそうな気もします。
本人が種明かしをしていないので答えは分かりませんが、本当に謎です。そして、生理的に気持ち悪いです。
こういった、強烈なビジュアルの何かを見つけたり、作ったりすることができれば、それだけで一本映画を引っ張れるんだなと思いました。実際は、「それだけ」ではないのですが、そう思わせる力がありました。
● 思い出した映画
この映画を見ている途中で思い出したのは、オーソン・ウェルズの「審判」(1963年)です。
話が似ているとかではなく、映像への強烈なこだわりが、デジャブのように重なりました。
実際は、関係はなさそうですが、私の中では、かなりイメージが喚起されました。
● 粗筋
以下、粗筋です。
主人公は、印刷工。彼には恋人がいて、ある日、彼女の家に招かれる。その家で、主人公は、彼女とその家族から告白をされる。その告白の内容は、奇妙な奇形の赤ん坊が生まれたということだった。
主人公は彼女と結婚して、二人で暮らし始める。だが、彼女は育児に疲れて家を出て行く。そして、主人公は一人で赤ん坊を育て始める。
そんな彼の許に、隣人の女がやって来て、肉体関係に及ぶ。その後、主人公の精神は病み始め、赤ん坊を殺し、不可思議な世界へと入り込んでいく。
● その他
以下、個人的な感想です。
凄い奇妙な赤ん坊なのに、主人公が別に気にせず、普通に振舞っているのが凄いなと思いました。明らかにちゃんと成長しなさそうだし、もし成長しても社会に入れなさそうなのに。
女性にとって子供は、ある意味無条件で「欲しい」と思う存在なのかもしれません。しかし、男性にとって子供は、ある意味恐怖の対象です。
なぜならば、自分の人生を邪魔する足かせになる可能性が高いから。
でもこの映画では、女性が赤ん坊を捨てて逃げて、男性が赤ん坊を育てます。そこに、奇妙なねじれを感じました。
まあ、全てがいびつに歪んでいる映画なので、それがねじれなのか、何なのか、明確には分からないのですが。
男性にとって、赤ん坊というのは、このイレイザーヘッドの赤ん坊のような部分が、どこかにあるのではないかと感じました。