映画「初体験/リッジモント・ハイ」のDVDを、十一月上旬に見ました。
1982年の映画で、監督はエイミー・ヘッカリングで、脚本はキャメロン・クロウです。
原題は「FAST TIMES AT RIDGEMONT HIGH」です。
よい映画でした。アメリカ国立フィルム登録簿に永久保存登録されたのも分かります。時代を切り取った、保存する価値のある映画になっていました。
● 時代を切り取った映画
映画の中には、その時代の若者を切り取った、典型的な映画があります。
たぶん、1970年代前半の若者のシンボルは「アメリカン・グラフィティ」(1973)です。1980年代前半のそれに当たるのが、この「初体験/リッジモント・ハイ」なのだと思います。
この二つの映画ですが、「アメリカン・グラフィティ」は、それほどよいとは思えなかったのですが、「初体験/リッジモント・ハイ」は、素直によいと思えました。
たぶん、私の年代に、こちらの方が近いからだと思います。キャラも行動も言動も共感しやすいです。それに対して、「アメリカン・グラフィティ」は、遠い昔というイメージでした。
あと、前者は暗いトーンの話で、後者は明るいタッチの話であることも関係していると思います。
しかし、共感できた最大の理由は、脚本の上手さにあると思います。「初体験/リッジモント・ハイ」は、脚本の時点で「楽しい映画」になっていました。
そして、出てくる登場人物が全員、よい面も悪い面も持っていて、そして基本的に悪意を持っていない人たちだというのも大きかったです。
映画の序盤で「嫌な奴」だと思っていた人物の意外な一面が見えたり、「いい奴」と思っていた人物の駄目な面が見えたりと、人物描写に奥行きがあります。
基本的に、シナリオの方向性が違うので、並べても仕方がないのですが、私にはこちらの映画の方がよかったです。
● キャメロン・クロウの脚本
さて、そういった感想を私に抱かせたキャメロン・クロウの脚本ですが、彼はこの話を書くに当たって、高校生の振りをして、高校に侵入して、リアルな台詞を採集したそうです。
そういった作り方をしていたので、映画製作前から、映画関係者の間では話題になっていたと、DVDの映像特典で話が出ていました。
でも、そうやって集めた台詞を、ただ並べただけでは魅力的な物語になりません。
この映画は群像劇です。その中で、それぞれのキャラが、生き生きと青春の一ページを体験する。そのことで、傷ついたり、苦い思いをしたり、へこんだりする。
でも、若者なので、立ち直り、また生き生きとし始める。壊れた友情が回復したり、傷から立ち直ったり、そういった若者らしい側面を見せる。
そこに、若者特有の陽性の時間の流れを感じ、素晴らしいものだと感じる。それが、この映画の魅力なのではないかと思いました。
DVDの映像特典で、監督が「この映画では、時の流れは速すぎるということを表現したかった」と語っていました。
映画の原題は「FAST TIMES AT RIDGEMONT HIGH」です。リッジモント・ハイでの速く流れる時間。
映画は、その場所で生きる若者たちの輝かしい時間を、楽しく奔放に切り取っていました。
● 後にブレイクする若手が満載
この映画は、いわゆる低予算映画です。若者向けの、若者が主役の映画には、基本的には予算がつかないと、映像特典で監督は言っていました。
なので、若手の俳優、それも無名の者たちが多く起用されたそうです。
そういった中で、後に成長する俳優の筆頭はショーン・ペンだと思います。撮影でも、俳優たちのリーダー格だったようです。
その他にも、ニコラス・ケイジや、フォレスト・ウィッテカーも出ています。
DVDの映像特典で、当時のエピソードが、いろいろと出ていました。ニコラス・ケイジは、撮影時は未成年だったために、法律上あまり撮影時間を多く取れなかったとのことでした。でも、凄いというのは周りで分かったので、何とか出そうとしたとのことでした。
● ジェニファー・ジェイソン・リーとフィービー・ケイツ
映画には、ヒロインとして女の子が二人出てきます。
ファースト・フード店でバイトしている女子高生二人組みです。一人は奥手で可愛い感じの女の子、もう一人は進んでいて、積極的な感じの女の子です。
それぞれ、前者をジェニファー・ジェイソン・リーが、後者をフィービー・ケイツが演じています。
後者のフィービー・ケイツは、当時人気絶頂のアイドル女優だったらしく、彼女がトップレスになるシーンは、どこのビデオ屋のビデオも、巻き戻しのし過ぎで、映像が乱れていたそうです。
でも、私は個人的には、ジェニファー・ジェイソン・リーの方がよかったです。どちらも、裸シーンがあります。映像として、男性と裸で絡むシーンは、ジェニファー・ジェイソン・リーの方が多かったです。
映画の物語は、この女の子と、彼女に惚れる奥手の秀才君を主軸に据えて、話が進んでいきます。
● 登場人物
登場人物は、大きく分けて、二つのグループに分かれます。どちらも、同じ学校の生徒です。
・いつもラリっているサーファー
└彼に呆れている、堅物の先生
┌軽薄な兄貴
・可愛い感じの女の子
│ └彼女の親友で、進んでいる女の子
?
│
・学年トップで奥手の秀才君
└彼の親友で、ダフ屋をやっている不良
主な登場人物は、この七人になります。
ちなみに、この中で唯一の大人になる堅物の先生(ミスター・ハンド)は、「アパートの鍵貸します」(1960年)に出ていて、監督がファンで出てもらったそうです(同映画では、主役ではなかったみたいです)。
映像特典で面白かったのは、このミスター・ハンド役のレイ・ウォルストンが「この映画に出たおかげで、ミスター・ハンドと呼んでもらえるようになった。自分の呼ばれ方が更新されるのは嬉しかったよ」と語っていました。
役者にとって、演じた役は顔ですが、それが長い年月にわたって更新されないのは、それは悔しいことだと思います。自分は進んでいるつもりでも、世間に残っている昔の自分の影を破れないでいるわけですから。
そういった感想は、きっと素直なものなんだろうなと思いました。
ちなみに秀才君は、いわゆるオタクっぽい感じの、ひ弱な男の子でした。でもまあ、えらいへたれで、彼女の部屋に行って、誘われているのに手を出せずに逃げ帰ってきて、友人に呆れられたりしていました。
まあ、分かる気もします。
映画を見ながら、「頑張れ、若人よ」と、思わず応援してしまいました。
● 性とドラッグ
映画は、明るくて楽しい内容ですが、いわゆるPTA的なものには目を付けられるような内容です。
だって、やりまくり、吸いまくりなので。
女の子は学食で友人に口淫の仕方を伝授したり、奥手の女の子も処女を捨てたあとは発情状態だし、サーファーの生徒は、ラリったまま学校にやってくるし。
リアルなんでしょうが、それをよしとするのは、保護者から見れば問題あるよなという感じでした。まあ、だから若者に受けて、じわじわとヒットしたのでしょうが。
性もドラッグ(日本なら煙草?)も、どちらも、日本でオタク的な社会で育った人間には、あまり縁がありません。
感覚的には、こういったのはHIV以前だと思うのですが、たぶん今も変わらず続いている(というかひどくなっている?)んでしょうね。
こういった実体は分からないので、そのうちこの年頃の人に会う機会があれば、聞いてみたいなと思いました。
……ネットで、情報を見ていると、ステーシー(ジェニファー・ジェイソン・リー)は、十五歳の設定なのですね。
まあ、早い人は、その年で経験済みで、体験豊富なんだと思います。
● 粗筋
以下、粗筋です(最後まで書いています)。
舞台はリッジモントの高校。そこに通う学年一の秀才の男の子は、映画館でバイトをしていた。彼は、その映画館でダフ屋をやっている不良と仲がよかった。
映画館は、ショッピング・モールに入っており、そこから見えるファースト・フード店では、同じ高校の二人組みがバイトをしていた。一人は進んでいて、大人のセフレがいるような女の子。もう一人は、早くデビューしたい処女の女の子だった。
女の子は、店に来た男性に憧れ、友人の応援もあり、処女を捨てる。しかし、長くは続かず別れる。彼女には兄がいて、バイトに明け暮れている。兄は、妹の振る舞いを気にせず、自分の彼女と分かれて、新しい女の子をゲットすることを考えている。
秀才君は、この女の子に恋をしていた。ダフ屋の親友は、女にもてる男で、彼のためにその手法を伝授してくれる。
そして、デートに誘い、OKをもらう。しかし彼はへたれで、彼女は乗ってきていたのに、チャンスを逃してしまう。
不良の友人は、これは何とかしないといけないと思い、秀才君を連れて、彼女の家に遊びに行く。だが彼女は、その不良の友人の方に惚れてしまう。
据え膳は食う主義の不良の友人は、その子と寝る。そして、彼女は妊娠する。彼女は中絶することを決め、不良の友人に資金の半分を出して欲しいという。不良の友人は、その話から逃げてしまう。
自分が好きな子に手を出したことを知った秀才君は、激怒して二人の友情にひびが入る。
時が経つ。体ではなく、自分自身に好意を抱いてくれている秀才君の思いに、女の子は気付く。二人はよい雰囲気になり、不良は謝罪する。そのことで、秀才君と不良の友情も、元に戻る。
● その他
こうやって、粗筋を書くと、単なるビッチ話にしかならないです。ええ、まあ、実際そうなんですが。
でも、映画は爽やかで面白いです。
あと、サーファーの生徒の話は、粗筋を書くと、全部そぎ落ちてしまいます。本編には特に絡んでいないので。
以下、記憶に残ったシーンを、いくつか列挙します。
・秀才君が、初デートで財布を忘れ、レストランに入った後にそのことに気付く。
・秀才君が、彼女の部屋に行って、ネグリジェで誘われたのに、ビビッて逃げ帰る。
・女の子の兄貴が、気持ちよく手淫しているのを、そのおかずの女の子に見られてしまう。
えー、そんな映画です。
最後に、映画の中で一番印象に残ったシーンを書きます。女の子が中絶に行くシーンです。
女の子が中絶に行く時、理由を告げずに、兄に車で送ってもらいます。兄は、その時点で、妹の妊娠を知りません。
一緒に行く予定だったダフ屋の男の子は結局現れず、彼女は一人で中絶を受けることになります。
そして、彼女が憔悴して病院から出てくると、兄がずっと待ってくれていたことを知ります。兄は何も聞かず、笑顔で彼女を労わってくれます。
この兄貴は、映画中、ずっと軽薄で駄目な人間として描かれてきました。
でも、実はこんな優しい面も持っている。
このシーンに来たときに、ようやく、この映画には善人も悪人もいないんだというのが分かりました。
派手なシーンではなかったですが、非常によいシーンでした。