映画「マイマイ新子と千年の魔法」を劇場で、三月の下旬に見ました。
□マイマイ新子と千年の魔法
http://www.mai-mai.jp/ 2009年の映画で、監督・脚本は片渕須直、制作はマッドハウスです。
面白かったですが、文部省推薦っぽい映画だなと思ったら、「文部科学省特選」となっていました。やっぱり、そうなのですね。
● 子供のむずがゆい伸び伸びさ
映画は、子供の目線でのストーリー展開をしていきます。主人公は空想好きの田舎の女の子で、都会から来た内気な女の子と友達になります。
そして男の子たちと、「ダム作り」と「金魚の飼育」を通じて、友情を育みます。しかし、そのよりどころが失われ、仲間がばらばらになる危機が訪れます。その危機に対して、主人公が子供の目線で立ち向かう、というのが話の筋です。
この主人公の空想の表現が上手かったです。空想好きの女の子というのは、大人の目から見て、得てして痛いものです。
実際、この映画の主人公も、多少なりとも痛い感じがあるのですが、そういった風には単純にならない仕掛けが施してあります。
主人公の女の子の空想は、歴史の先生だった祖父が語る、「この土地の歴史的な話」に根ざしています。そのため、単純な空想ではなく、歴史的事実を模倣するバーチャルリアリティになっています。
そこらへんのバランス感覚が上手いなと思いました。
● 時代背景
この映画で、よくできていると思うのは、エピソードの周囲を取り巻く世界のリアリティです。
ちょっとしたエピソードや、背景にも、その時代ならではの事情や空気感が行き届いています。
この映画は、酒氏としべくん氏と一緒に行ったのですが、映画が終わったあとに「何年の設定か」ということで盛り上がりました。
この映画の設定は昭和30年(1955年)だそうです。終戦から十年です。朝鮮戦争が1950年〜1953年なので、戦後のどん底を脱して、成長に向かう頃です。
1955年〜1957年の神武景気で、高度経済成長は開始します。この映画の舞台は、そういった気運が日本に起こりつつある田舎の状況です。
一番分かりやすいなと思ったのは、主人公が、東京から来た女の子に「テレビって見たことがある?」「一度だけ見たことがあるわ」と答えるシーンです。
そういった「時代を感じる描写」が非常に多く、興味深かったです。
● 平安時代が少なかった
個人的には、この映画は「平安時代」を見たいと思って見に行きました。
映画を見る前に見た文章では、「平安時代の再現が凄い」という記事が多かったからです。
でも実際には、そういった描写は少なく、肩透かしを食らいました。
平安時代は、あくまで「主人公と相方の女の子の空想」にしか出てこず、脇の話でした。
その部分はちょっと残念だったなと思いました。
● 清少納言と清原元輔
平安時代の描写の少なさはがっかりでしたが、設定は「おおっ」と思いました。
清原元輔が周防に赴任してきて、その娘である幼き日の清少納言(一説に寄ると諾子(なぎこ))が出てきます。
清原元輔は、梨壺の五人(「後撰和歌集」の編纂を行った五人)の内の一人です。清少納言はその娘で、言わずと知れた「枕草子」の作者です。
あとで調べましたが、清原元輔は974年に周防守に赴任して、清少納言は四年を同地で過ごしているそうです。
こういった、「有名人のあまり知られていないエピソード」を絡めるのは、やり方として上手いなと思いました。
□Wikipedia - 清少納言
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B8%85%E5%B0%91%E7%B4%8D%E8%A8%80□Wikipedia - 清原元輔
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B8%85%E5%8E%9F%E5%85%83%E8%BC%94□Wikipedia - 周防国
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%91%A8%E9%98%B2%E5%9B%BD
● 防府
親戚がいるので、何度も訪れているので、そういった場所だったのかと思いました。
子供の頃には、こういった背景を知らなかったので、何も考えずに遊びに行っていました。
今の知識があれば、もっと楽しめるのにと思いました。
● マイマイ
「マイマイ」は、頭のつむじだそうです。つむじのせいで、髪の毛がぴんと立ち、その髪を撫でると空想の世界が見えるという設定です。
頭のつむじ……。私は、子供の頃から、大小合わせて、つむじが五つぐらいあって、髪を伸ばすと凄い勢いでぴんぴんと跳ねていました。
おかげで床屋から「君の頭は、きれいに刈るのが難しい」と言われていました。あと、母親から「あんたは、つむじが多いから、つむじ曲がりだ」と言われていました。
そういった背景もあり、この映画の主人公に、妙に親近感を抱きました。
● 粗筋
以下、粗筋です(ある程度ネタバレあり。終盤の直前まで書いています)。
時代は昭和三十年。主人公は、防府に住む小学生の女の子。彼女の祖父は歴史の先生で、彼女はその影響で、防府の町に平安時代の情景を思い浮かべて生活していた。
ある日、東京から転校生の女の子がやって来る。主人公は彼女と友達になり、空想を共有するようになる。
彼女たちは、男の子たちのダム作りに加わる。そして、一匹の美しい金魚をそのダムに飼い始める。
しかし、その金魚は、東京の女の子のミスで死んでしまう。
子供たちは、金魚を生き返らせようとするが、生き返らない。そして、東京の女の子は塞ぎこんでしまう。
子供たちは、死んだ金魚そっくりの金魚を探そうとする。そして、みんなで探しに行く約束をする。
しかしその夜、リーダー格の男子の父親が自殺する。警察官だった彼の父親は、女で身を崩して借金をして死んでしまった。
明日には、そのことが町中に広まる。そうすれば男の子は町を離れなければならなくなる。主人公は、そんな男の子を誘い出し、金魚を探し、さらに父親の仇を取りに行こうと提案する……。