OVA「トップをねらえ!」をネットで三月下旬に見ました。
1988年の作品で、監督は庵野秀明、原作・脚本は岡田斗司夫、制作はGAINAXです。
大学時代に見たので、久しぶりの観賞です。パチスロ化の影響で、ネットで期間限定で見られるようになっていたので見ました。
やはり、何度見ても面白いです。
● スポ根+学園物+美少女+ヤマト+ロボット+SF
えー、もう売れそうな要素を全部つぎ込みましたみたいな節操のなさが流石です。
主人公の名前+声優+主題歌の歌手のトリプル「のりこ」も強烈です。
お色気シーンのヌードもきちんとあります。
こういったなりふり構わないことをやって、それがプラスに働いているのは、凄いなと思います。
それぞれの「強い要素」を、破綻せずにまとめている手腕は、素直に関心します。
● 光速度時間SF
キャッチーなネタを散りばめた本作ですが、その中心を貫いているのは、硬派な光速度時間SFです。
光の速度で移動すると、時間が遅く進むというあれです。
その「周囲との時間の流れのズレ」を、徐々に物語に折り込み、その時間も長くしていきます。
そしてラストは、……最初見た時は衝撃が走りました。今見ると、非常に丁寧にこの情感を盛り上げているんだなと納得できます。
数ヶ月、数年、そして……。
ラストは、寂しく悲しくありながらも感動できます。非常に変則的な方法ではありますが、「別れ」と「すれ違い」を上手く描いて、「死」に頼らずに涙を誘うようになっています。
単なるネタで終わらない堅牢さが、この作品にはあると思います。
● ヤマト
「ああ、ヤマトが好きなんだな」と思いました。
どこらへんがって、戦艦関係の全部が。
久しぶりに、ヤマトを見たくなりました。そのうち借りてきて見ようと思います。
● 科学講座
SFを「分かる人だけが分かるエッセンス」ではなく、中心にドシンと据え、それを本編おまけのコーナーで知識を補うようにしているのが徹底しているなと思いました。
「知的に面白い」ということは「私“には”分かる」ということです。
その「には」の部分を、こういった形で補っているのは、よく作りこんでいるなと思いました。
以下、若干ネタバレ的な話です。
● SF考証
物語の終盤は、地球を滅ぼす「免疫としての巨大怪物群」を倒すために、銀河系の真ん中に攻め込み、ブラックホール爆弾で一掃するという展開になります。
この設定は、今では難しいと思います。銀河系の中心にある、超大質量ブラックホールの存在を無視しているからです。
このOVAを見ながら「そういえば、銀河系の中心に超大質量ブラックホールがあるという説が興隆してきたのはいつだったっけ?」と思いました。
超大質量ブラックホールが一般的に認知されている現在では、「銀河系の中心にブラックホール爆弾を〜」という発想は、企画段階で却下されると思いますので。
というわけで、ネットをつらつらと調べてみましたが、正確な時期は分かりませんでした。
超大質量ブラックホールが銀河系の中心にあると観測されたのが1995年。超大質量ブラックホール生成の過程となる、中間質量ブラックホールの発見がなされたのが2000年前後とのこと。
なので、説自体はもう少し前からあったのだと思います。本作は1988年なので、微妙な時期だと思います。
以下、調べた参考URLです。
□新種ブラックホール発見
http://www-cr.scphys.kyoto-u.ac.jp/research/xray/press200009/□大質量ブラックホール
http://www.davethechameleon.com/bigblackhall.php□巨大ブラックホール誕生の謎 解明へ
http://www.riken.go.jp/r-world/info/release/press/2001/011003/index.html□Wikipedia - ブラックホール
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83...□Wikipedia - 超大質量ブラックホール
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%B6...
● 粗筋
以下、粗筋です(ネタバレあり。ラストまで書いています)。
主人公は沖縄の女の子。彼女の父親は宇宙軍の提督で宇宙艦の艦長だった。彼は宇宙怪獣に倒された。宇宙怪獣は、宇宙戦艦を凌ぐ巨大な体をしており、人類を滅ぼす危険を持っていた。
主人公は、宇宙軍のマシーン兵器のパイロットを目指している。彼女は、全滅した宇宙軍の生き残りのコーチに素質を見出され、「お姉様」と呼ばれる才色兼備の努力家の先輩とともに選抜される。
主人公たちは宇宙に行く。
訓練中の主人公たちは、謎の飛行物体の接近を発見して、偵察に向かう。亜光速まで加速した彼女たちは、その飛行物体が、破壊された宇宙艦──主人公の父親が艦長だった──であることを知る。
主人公はその艦に乗り込み、予定の帰還時刻をオーバーする。そのことで、地球では半年の時間が流れていた。
主人公たちは、宇宙艦隊の一員として、宇宙怪獣との戦いに出撃する。そして、宇宙怪獣の生態を観測する。宇宙怪獣は、恒星に取り憑き、そのエネルギーを吸収して繁殖しながら、地球を目指していた。
その旅の途上、主人公は実力不足からお姉様とのパートナーシップを解除される。また初陣で、初恋の相手を失う。主人公は、そのどん底から這い上がり、トレーニングを重ねる。
艦隊は地球に戻ろうとする。しかしその途中、宇宙怪獣たちに捕捉される。そして、地球の位置を知られてしまう。
無数の宇宙怪獣の攻撃で、艦隊は次々に減っていく。主人公は秘密兵器ガンバスターのパイロットとして出撃し、人々を救う。
帰還した地球では数年の歳月が経っていた。かつて親友だった少女は母親となっていた。
そんな地球に、億の単位の宇宙怪獣が迫る。主人公は、お姉様とともに出撃する。お姉様はコーチを愛していた。そしてコーチは、宇宙放射線で余命いくばくもない状態になっていた。
光の速度で加速していくガンバスター。過ぎ去っていく周囲の時間。もう、あの人に会えない……。号泣するお姉様を励まし、主人公は敵を一掃する。いつしか主人公は、お姉様を凌いで成長していた。
戦いはそれで終わらなかった。
銀河の中心には、もっと膨大な宇宙怪獣がいる。その宇宙怪獣たちは、銀河系を生体とするならば、白血球のような存在であった。宇宙怪獣たちは、地球に生まれた人類を滅ぼすために、再びやって来る。
その脅威を取り去るために、人類は木星をブラックホールにした爆弾を携え、銀河系の中心に向かう。
先行した主人公は、まだ若いままである。コーチとともに地球で過ごし、その後ワープで追いついたお姉様は壮年に近づいていた。主人公は、自分がどんどん地球の人々の時間と離れていくことを実感する。
そして、銀河の中心での戦いが始まった。だが、ブラックホール爆弾は作動しなかった。その起爆をするために、主人公たちは爆弾の中心部に降りる。そして、起爆後、離脱する。
二人の地球までの長い旅が続く。ガンバスターの中では短い時間しか経っていなかったが、地球では遥かに長い時間が経っていた。そして、二人は地球にたどり着き、その姿を再び見る……。
● ラストシーン
やっぱり、何度見ても感慨深いです。
また、文字の一部が変化してしまっているのが、物凄い長い時間の流れを感じます。
しかしまあ、地球に帰ったら言葉は通じないでしょうから、大変だろうなと思います。
あと、「英雄」なので、ある程度年を取っているお姉様はともかく、まだ若い主人公はその後の人生は大変だろうなと思います。
いろいろとその後も含めて、思いを馳せてしまう作品でした。