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2010年06月05日 20:46:06
リバー・ランズ・スルー・イット
 映画「リバー・ランズ・スルー・イット」のDVDを、三月下旬に見ました。

 1992年の映画で、監督はロバート・レッドフォード、脚本はリチャード・フリーデンバーグ、原作はノーマン・マクリーンです。

 主人公のノーマン・マクリーン役はクレイグ・シェイファーで、弟役は若き日のブラッド・ピットです。

 味わい深い映画で、派手さはないけどよかったです。



● フライフィッシングのある風景

 この映画の舞台は、モンタナ州の田舎町です。主人公兄弟の父親は牧師で、フライフィッシングをこよなく愛しています。そのため主人公兄弟たちも、その薫陶を受けています。

 この映画は、その「フライフィッシングを通した田舎の風景の美しさ」がとてもよかったです。また、そういった情景を、キラキラとした心象とともに、見事に画面に切り取っていました。

 そういった映像に、「素朴だけど味わい深い言葉」が独白として重なり、独特の気持ちよさを作り上げていました。

 その中でも特に印象に残ったのは、兄が弟を見て、心の中でしゃべる台詞です。

 子供時代、父親から習った技を練習している最中、兄が弟を見て独白します。「弟は独自のスタイルを見に付けた」。

 そして、大学から帰って来て、弟とともにフライフィッシングに行った時に、こう言います。

「弟はアーティストになっていた」

 その言葉が、輝くような景色とともに、鮮烈に脳に飛び込んできました。素晴らしかったです。

 ネットで検索すると、この台詞に言及している人がけっこうな数いて、やはりみんな、つぼに入るところは一緒なんだなと思いました。

 この映画は、基本的に、派手なこともなく、単調で平凡な世界を描いた映画なのですが、たまに覗くこういった「世界の切り取り方」が、非常に心地よかったです。

 たぶん、この映画は、他の平凡な監督が撮っていたら、きっとつまらないものになるだろうな、そう感じる映画でした。



● 愛される弟

 主人公兄弟は、それぞれ方向性が違います。真面目で退屈な兄と、奔放で洒脱で愛嬌溢れる弟です。まるでネガポジのような二人ですが、非常に仲がよいです。

 この二人なのですが、周囲からも両親からも、弟の方が愛されています。

 社会的には兄の方が好ましいように思えますが、人間的な魅力は圧倒的に弟の方が上です。ただし、派手で目立つので敵も多いです。

 この二人の違いと映画の結末を見て、人間の幸福とは何なんだろうと、思わず考えさせられました。

 人間の幸福は、「何をした」「どう生きた」かではなく、「どれだけ愛されたか」なのかもしれません。

 結局人間は、自分が愛されたり、尊敬を得たりするために、何かをやるのだと思います。その方法が、他人から見て認められない方法を選択していても、最終的にはそこに行き着くのかなと感じています。

 あと、愛の中心にいる人間は、美しく輝いて見える。

 この映画は、そういったことを考えさせられる映画でした。



● 神山健治の本

 この映画は、そのうち見るつもりではありましたが、長らく見ていませんでした。

 その重い腰を上げて、見ようと思った切っ掛けは、神山健治の本「神山健治の映画は撮ったことがない」でした。

 同書中で、「作家性」ということを語る上で、この映画が引き合いに出されていました。

 ロバート・レッドフォードは、「美しく、愛される、特別な存在」で、そういった立場の人間にしか分からない視点が、彼の映画には盛り込まれていると書いてありました。

 その例として、この映画のあるシーンが紹介されていました。

 兄が、家族に大学教授になったことを告げるシーンです。

 その時の弟の皮肉めいた反応に、ロバート・レッドフォード自身が重ねられていると書いてありました。

 なるほど、そういった見方もあるのかと思いました。

 個人的には、ロバート・レッドフォードが絡んでいる映画は外れが少ないので、安心して見られます。

 そして、映画を見終わったあとに、いろいろと考えさせられる映画が少なくないので、気に入っています。



● 粗筋

 以下、粗筋です(終盤近くまで書いています。勘のよい人は、結末が分かるかもしれません)。

 舞台はモンタナの片田舎。主人公の父親は牧師。彼には弟がいて、兄弟二人で、父親にフライフィッシングを学んでいた。

 長じて弟は故郷の新聞記者になる。兄は大学を出たあと、大学での職を待ちながら帰郷する。

 久しぶりに行ったフィッシングで、兄は弟が芸術的なフィッシングを体得していることを知る。

 兄はその町で恋に落ちる。彼女とは宗派が違ったが、次第に親密になっていく。弟は破天荒な人生を送っており、人々の話題の中心にいたが、とても危ない人生を送っていた。

 紆余曲折の末、兄は大学教授の職を得て、プロポーズにも成功する。そのことを告げた日だけは、兄は両親の視線を一身に浴びる。

 弟は、その祝いと言って、兄とともに賭場に行く。兄は、弟がこの場所で非常に危ない綱渡りをしていることを知る。そして、その火の粉は、それからほどなくして、弟の身に降りかかることになる……。
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