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2010年06月20日 15:32:49
 映画「アウトレイジ」を劇場で六月中旬に見てきました。

 2010年の作品で、監督・脚本は北野武、主要登場人物を演じたのは、ビートたけし他です。

 万人向けの映画ではないし、大作でもないですが、私は楽しめました。

 映画の内容は、「非対称情報・負け抜きばば抜き」みたいな感じです。また、ババを引かされた人が「え〜〜〜!」って叫ぶような映画でした。そして、ババを引かされた人のリアクションが楽しい映画でした。



● 映画の構造

 前情報として、この映画のことを「十一人の群像劇で、誰が生き残るか分からない」と聞いて、「どんな映画なんだろう?」と思っていたのですが、映画が始まってすぐに、その構造が分かりました。

「想像していた以上に、整理されているし、システマティックなキャラ配置の映画じゃないか」

 それが私の感想でした。

「主軸」はしっかりしているし、「ゲームの構造」もはっきりしている。



 この映画を、ボードゲーム的に説明すると、「非対称情報・負け抜きばば抜き」です。

 席次が上の人間は多くの情報を持っていて、席次が下の人間は限定情報しか与えられない。

 その状況で、席次が上の人間が、手持ちのカードでデッキを作って、次の席次の人間に渡し、伝言ゲーム的に末端に来た人間がババを引かされる。

 席次が上の人間は当然、全部を分かっていて、末端の人間にババを引かせようと思っている。

 席次が下の人間は、渡されたカードを見て「げげっ!」と思い、そのカードを切った時にドボンとなって、「何で!」とリアクションをする。

 そしてダメージを蓄積させて、一定量になったら、死亡退場となる。

 映画はほぼ全編この構造になっています。



 最初、この映画は、L字型にキャラが配置されています。

 山王会というヤクザ組織の「大親分」とその「若頭」。その直系の組の「親分」とその「若頭」。

 孫組織の「親分」とその部下の「肉体派」と「頭脳派」。

 親分と兄弟杯を交わした、別系列の弱小組の「親分」と、その「若頭」と「若手組員」。

 また、この全体配置に、イレギュラーのジョーカーとして「マル暴の刑事」が入ります。

 図にすると、こんな感じです。

◆本家「大親分(北村総一朗)」
  |「若頭(三浦友和)」
  |
◆直系「親分(國村隼)」
  |「若頭(杉本哲太)」
  |
  |−−−−−◆別系列
  |      「親分(石橋蓮司)」(親分と兄弟杯)
  |      「若頭(中野英雄)」
  |      「若手組員(塚本高史)」
◆孫組「親分(ビートたけし)」
   「肉体派(椎名桔平)」
   「頭脳派(加瀬亮)」

◆ジョーカー「マル暴の刑事(小日向文世)」(たけしの後輩)

 たけしが演じるのは、この孫組織の「親分」です。

 この配置から、映画の展開はだいたい想像がつきます。最初にババを引かされるのは、L字の短い横棒に当たる「別系列の弱小組」の面々です。

 そして、この別系列があらかた壊滅すると、今度はたけしのいる「孫組」がババを引く対象となります。

 あとは、この「孫組」が、いかにして上と「対抗するか」、もしくは「しないか」、そして「大親分」がどれだけえげつない命令を下していくかで、どんどん話が転がっていきます。

 死ぬ順番は、席次の順番ではなく、細かなツイストが入っています。



 基本的に、このように、話の構造はシンプルですので、「十一人の群像劇」と言っても、ほとんど迷うことなく「次は誰がババを引かされて、ヒギィと言うんだ!?」という楽しみ方ができるようになっていました。

 そういう意味では、シチュエーションに対する、暴力とリアクションを楽しむ、漫才的な構成の映画でした。

 そして、個々の暴力が「痛かったり」「えげつなかったり」するので、「うぉーっ」「うげえっ」と言いながら、楽しめる作品でした。

 迷いは一切なく、徹底的にエンタテインメントという感じで、楽しめました。



● キャストの魅力

 さて、この映画を見ようと思った切っ掛けは、キャストの魅力です。

 特に期待していたのは、椎名桔平と加瀬亮のヤクザです。

 椎名桔平は、優しい役をしていても、目だけがやたら怖いので、「何だこの人?」と以前から思っていました。特に「クイール」(2003)では、その疑問を強く抱きました。

 そして、この映画の話を聞いた時に、「椎名桔平がヤクザって、超似合っているんじゃないの?」と思いました。予想通り、最もヤクザらしいヤクザという感じになていました。

 そして、へなちょこ役が死ぬほど似合う加瀬亮がヤクザ役というのにも非常に興味を持ちました。金庫番らしいのですが、いったいどんな感じなんだ?と思ったわけです。

 見事に、ヤクザに見えない「へなちょこヤクザ」でした。でも、ぶち切れるし、何気に上手く立ち回る。面白かったです。

 また、個人的によかったのが國村隼です。たけしの親筋である池元を演じているのですが、こいつが器が小さくて嘘吐きで、でも気が小さく、ずるがしこくてよかったです。

 基本的に、

本家「大親分」「若頭」
 |
直系「親分」「若頭」

 の「直系」は、「本家」の縮小コピーなんですが、この「親分」の矮小さがたまらなく酷い。素晴らしい。

 たけしが演じる大友が、ぶち切れるのもよく分かる。いい役だなと思いました。

 あと、「大親分」演じる村総一朗が、どう見ても「北の将軍様」を彷彿とさせる格好をしていて「あー、北の将軍様もこんな感じなんだろうな」と思いました。

 あと、途中で賭場を提供させられる、アフリカの小国の大使が、かなり笑いを振舞っていました。この人は、何度も何度も小さなババを引かされます。

 この映画は、基本的に「ババを引かされる人が笑いを取る」構造です。この大使は、この部分を分かりやすく体現していると思いました。



● ぐいぐい転がるエンタテインメント

 ともかく、転がる、転がる。休む間もなく転がります。

 構造は単純だし、役者の演技でどんどん引っ張ります。また、「群像劇」にするために、誰かがいい役をすれば、それとバランスを取るように、次のキャラは派手な見せ場が用意される。

 途中で起こる中だるみもなく、一気に終盤にもつれ込んでいき、よかったです。



● バカ暴力の映画

「バカ暴力」という呼び方が相応しいと思います。

 生理的に「痛い」シーンが山積みなんですが、実写じゃなくてマンガでやれば、かなりの部分がギャグになるような痛めつけ方が多いです。

 マンガで近いものを挙げるとすれば「殺し屋イチ」です。あんな感じの暴力です。

 歯医者に行っている人間を取り囲んで、ドリルで口のなかをめちゃくちゃにして、次のシーンでその被害者が包帯だらけで現れるとか。

 ラーメン屋の店主の指を落としたら、それがラーメンに飛び込んで、ぶった切った人間がバイトに「持ってけ!」と叫び、NintendoDSで遊んで周りを見ていない客に丼を運ぶとか。

 それらのシーンは、結果を見せず、暗転して次の場面に進みます。暴力的だけど、スプラッタではないです。でも、相当「痛い」シーンです。

 「うげえっ」と思うけど、ギャグすれすれか、ギャグに昇華していたりする。

 なので「バカ暴力」の映画。

 これは、楽しめる人と、そうでない人がくっきり分かれるだろうなと思いました。



● タイトルロール

 映画の冒頭の、タイトルが出るシーンが、非常に格好よいです。

 空撮をしていて、車がやって来て、車体が画面を大きく占めたところで、車がぴたっと止まって、OUTRAGEの文字が重なります。

 ここは、ぐっと来ました。これから始まる映画をワクワクさせる名演出です。地べたを這うような肉感とスタイリッシュさが同居するよいシーンでした。



● 音楽

 メロディーがなく、不安で奇妙な気分にさせる音の散布です。サウンドトラックとして聞きたいとは一切思わなかったですが、この映画の空気を盛り上げるのには非常に上手く合致していました。

 どこからともなくノイズが飛んできたり、耳を汚したり、そんな感じです。耳に突き刺さる音の羅列が、映画の肌触りとよくマッチしていました。



● 粗筋

 以下、粗筋です(大きなネタバレはなし。中盤の始まりぐらいまで書いています)。

 主人公は、末端組織の組長。彼の親分は、直系の子分で、卑屈で嘘吐きだった。

 主人公の親分は、大親分に黙って、別組織の人間とシャブを扱っていた。そのことをたしなめられた親分は、一芝居うって、喧嘩しているように見せかけようとする。そしてその役を、トラブルシューター的な立場である主人公に請け負わせる。

 しかし、その芝居は互いの過剰反応を招く。そして、血みどろの抗争へと発展する。

 その状況を知った大親分は、末端が疑心暗鬼になり、不和になる指示を出して、抗争を激化させる。彼は、シマを総取りしようと目論む。

 そんな企みを知らない主人公たちは、ころころ変わる指示に翻弄されながら、仲間で、身内で殺し合いを発展させていく。



 以下、ネタバレありの感想です。



● ラスト

 動くべき人間が動いたなと思いました。

 このまま「負け抜けババ抜き」が続いたら、最後にババを引くのが誰か分かった人間が動き、事態を収束させます。

 まさに、このゲームに相応しい幕引きです。

 そして、たけしが演じる「主人公」の最終的な結果も、「数字の1が、ある条件で最強になる」的なカードゲームのルールで処理されます。

 非常に正しい結末です。

 また、ゲームの中で、上手く立ち回って、ちゃっかり利益を得た人間がいることも素晴らしい。

 そうでなくっちゃ、予定調和すぎて、ゲームが面白くない。

「ゲームの結果がどうなるんだろう?」と思いながら見ていたので、「そうそう」と思って余韻を楽しみました。
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