映画「マスク」のDVDを十二月中旬に見ました。
1984年の映画で、監督はピーター・ボグダノヴィッチ。脚本はアンナ・ハミルトン・フェラン。主演はエリック・ストルツ(息子)、客演はシェール(母親)。
ちなみに、ジム・キャリーの「マスク」(1994)とは全く関係ありません。
この映画は、顔がライオンのお面のようになる「ライオン病」(頭蓋骨形成異常疾患)の少年と、その母親の物語です。実話を元にしたお話だそうです。
本作は、いわゆるお涙頂戴物ではありません。でも心にぐっとくる。そういった、よくできた映画でした。
● 主人公の病気
映画で出てきた情報を元に、主人公の病気について書きます。
主人公は「ライオン病」という奇病に罹っています。この病気は、頭蓋骨が異常に成長を続け、まるでライオンのお面のように巨大化します。
この病気は、容貌の変形だけでなく、脳を圧迫するので、頭蓋骨の整形手術が必要になります。しかし、成長期に手術をしても、すぐにまた変形が起こるので、成長期を過ぎてからの施術しかできません。
主人公は診断のたびに「寿命はあと○○ヵ月」と言われます。しかし、毎回その期間を突破して生き続けています。
この「外見が普通の人と大きく違う主人公」が、転校して新しい町に来たところから映画は始まります。
● 主人公の母親
主人公の母親は、たぶんかなり変わった人です。夫はおらず、主人公を一人で育てています。そして、主人公の病気のことを一切気にせず、普通の子供として扱います。
また、彼女はバイカーの女ヘッドのような立場の人です。多くのバイカーの男女たちに慕われています。そして、彼らバイカーは、この母親の息子を、普通の子供として扱っています。
そういった特殊な母親と、環境の中で育っているために、主人公は卑屈にもならず、自分の病をジョークのネタにするぐらいに、明るく真っ直ぐ育っています。
● 主人公の知能
主人公が、このように伸び伸びと育っている背景は、実は母親や生育環境だけではありません。主人公の知能の高さが影響しています。
この映画の主人公は、学年トップを取るぐらい頭がよいです。そのため、最初はその容貌に腰が引けていた学校の先生や級友たちからも、すぐに一目置かれる存在になります。
この手の、社会的に不利とされる要因を持った主人公の映画で見られることですが、主人公は並以上に知能が高いです。もしくは、ある点で秀でています。
そのことによって話は上手く転がります。この映画もそうです。主人公は、自己で問題解決する能力が高く、そのことによって感動的な方向に話は進んでいきます。
このこと自体は映画として面白くてよいのですが、こういった話を見るたびに、棘のようなわだかまりが心に残ります。
それは、社会的に不利とされる要因を持った人が、こういった有利な点を併せ持っているケースばかりではないということです。
それじゃあ、話にならないと言えば、そうなのですが、実際はもっと厳しい状況になるよなと思います。
こういったケースの、99%ぐらいが、感動話にもならない、ただたんに辛いケースなのではないかと思います。
まあ、だからこそ、こういった話が、映画として感動を与えうる話として選ばれるのでしょうが。
● ある意味残酷な薦め
映画中、学校の先生が主人公に、目の不自由な人を助けるワークショップに参加するように促します。
これは、善意から出た台詞だとは分かるのですが、残酷な話だなという感想も持ちます。
君の容貌は人に偏見を持たせるから、目が見えない人相手の仕事がよいのではないかという提案だからです。
こういった残酷な提案というのは世の中には色々とあります。「あなたは○○だから、□□を勧めます」といったものです。
この○○には、容姿や出自、学歴や知能など、様々な言葉が入ります。
ただ、この映画で難しいと思うことには、主人公に「将来の夢」を聞けないことだったりします。
主人公は、絶えず「近い将来の死」を予言されています。その主人公に「あなたの希望にあった将来設計」を聞くことは、それはそれで残酷です。
何を選んでも残酷な場合、その中から何を選んで提案するのかという場合、結局は提案者の誠意だけなのかなとも思います。
どちらにしろ、難しい問題だなと思いました。
● 恋人
主人公は、先生に勧められたサマー・キャンプに、介護者として参加します。そして、そこに来ていた目の見えない美少女と、相思相愛の仲になります。
しかし。キャンプが終わり、少女の両親が来た時、両親は主人公の容姿を見て、以後係わり合いを持たないように手を打ちます。
これは仕方がない流れだろうなと思いました。
容貌の問題が九割以上を占めているとはいえ、ある意味、教え子に手を出している展開になっているので。さすがに、商売道具に手を付けては駄目だよなと思いました。
● 母親の依存
さて、ここまで書いてきて、主人公の少年と、その母親は理想的な関係のように見えます。
しかし、実際はそうでもありません。母親はドラッグにはまっており、少年は何とかしてそれをやめさせようとしています。
そして、母親は少年に依存しています。
子供に手がかかればかかるほど、実は親が子供に依存するというケースは多いのだと思います。これは「私の中のあなた」(2009年)でも感じました。
いわゆる「障害」にも程度の差があるので一概には言えないのですが、こういったケースを見ると、人の親になるということは、かなりリスクの高い賭けだなと思います。
● 粗筋
以下、粗筋です(だいたいの粗筋です。ネタバレあり。ラストまで書いています)。
主人公はライオン病の少年。彼の母親は、バイカーの顔役だった。
彼は新しい学校に転校する。初め、先生たちは特殊学級を勧めるが、母親はその話を断る。主人公は成績優秀で、前の学校でもトップクラスの生徒だった。
主人公は、学校に徐々に受け入れられていく。彼は成績優秀なだけではなく、明るくユーモアに溢れていた。彼は昔からの友人とともに、ヨーロッパにバイク旅行に行くのが夢だった。
だが彼の人生は順風満帆ではなかった。病院に行くたびに、あと数か月の寿命を宣告され、家庭では母親がドラッグにはまっていることに悩んでいた。彼は母親にドラッグをやめさせようとするが、そのことは対立を招くだけだった。
主人公は、学校の先生の勧めで、盲学校のサマー・キャンプに介護者として参加する。そこで一人の少女と恋に落ちるが、キャンプの終了とともに音信が取れなくなる。少女の両親が、主人公の容姿を見て、手紙を渡さないようにしたからだ。
主人公は、学校をトップの成績で卒業する。しかし、すべては上手くいかなかった。ヨーロッパに行く約束をしていた友人は、引越しをするのでいけないという。また、少女の許まで行き、彼女の両親に邪魔されていたことを知る。
主人公は16年の短い生涯を終える。