映画「逆噴射家族」のDVDを五月上旬に見ました。
1984年の映画で、監督は石井聰亙。原案は小林よしのり。脚本は小林よしのり他。出演は、小林克也、倍賞美津子、植木等、工藤夕貴、有薗芳記。
設定的にはぶっ飛んだ内容だけど、じわじわと積み重ねていく構成のおかげで、後半のバトルへの突入が、よいカタルシスになっている作品でした。
何よりも、出演者たちの怪演がよかったです。最後の開放感も合わせて、よいバイオレンス・コメディになっていました。
● 家族内戦争と積み重ねる感情の鬱屈
この映画は、物凄く短くまとめると、家族が家で殺し合うバトルロイヤル映画です。そう書くと荒唐無稽に思えますが、この映画では感情の鬱屈を上手く積み重ねています。
映画の主人公は一家の大黒柱の父親です。その彼の肩に、あらゆる面倒が積み重なっていきます。
彼の妻や子供は精神的に不安定です。彼はその改善のために住環境を変えようとして、一軒家を買ってローンを背負い込みます。
また彼は、兄夫婦が投げ出した父親を受け入れます。この父親は奔放で、次々とトラブルを引き起こします。
それだけではありません。彼が購入した家の地下に、シロアリの巣が見つかったりもします。
こうして様々な問題が、主人公である父親にどんどん圧し掛かっていきます。そして、徐々に父親がおかしくなっていきます。
父親はこの問題を全て解決するために一家心中を図ります。この事件を切っ掛けにして、家族は疑心暗鬼になり、自分だけが助かるために殺し合いを開始します。
この家族内戦争の勃発までを、かなり丁寧に描いているので、感情の爆発に説得力があります。
そして「誰がまともで、誰が狂っているか」観客も映画内の登場人物たちも分からないまま、生存をかけた戦いが展開していきます。
なかなか面白いです。
また、映画の冒頭から、コメディの部分も積み重ねてあるので、荒唐無稽な戦いが、この映画内では「ありな展開」として成立しています。
上手いなあと思いました。
● 出演者の怪演
この映画の一番の特徴は、出演者たちの怪演だと思います。主人公の小林克也や、息子役の有薗芳記の演技が特に印象的でした。
徐々に壊れていく感じが、びんびんと伝わってきます。
また、その他の家族の役者たちの演技もよかったです。
● 不思議な開放感
映画はラストに不思議な開放感を味わわせてくれます。
なかなかない感じの爽快感です。
これまでの鬱屈と殺伐さを吹き飛ばすラストで映画は締めくくられます。
現実問題として「何も解決していないだろう」と思うのですが、大切なのは目の前の問題ではなく、「本人たちの気の持ちよう」なのかもしれないと考えさせてくれます。
「家族で殺し合う」という映画でしたが、こういったラストが用意されているために、映画が終わった後に重さは全く残りませんでした。まあ、コメディだということもあるのですが。
● 粗筋
以下、粗筋です(中盤ぐらいまで書いています)。
主人公はサラリーマンの父親。彼は妻と二人の子供を抱えていた。
彼は家族のために一軒家を買う。家族たちは、精神に問題を抱えていて、その問題も住環境が変われば解決するだろうと思われた。
そんな彼の許に父親がやって来る。父親は奔放な人間だった。彼は兄夫婦の許にいたが、持て余されて主人公の許に来た。
その日から、主人公の家の環境は激変する。家ではトラブルが絶えず、家族の関係はギクシャクしてくる。さらに、家の地下にシロアリの巣が見つかるなど問題が続発する。
主人公は徐々にストレスを抱え込む。そして、会社にも行かず、家での問題解決に没頭するようになる。
しかし、彼の努力は実らなかった、主人公は苦渋の決断をする。家の窓や扉を全て封印して家族をキッチンに呼ぶ。彼は家族に毒を盛ろうとする。彼は一家心中を図る。
だが、その企みは失敗に終わった。そして、家族間の悪感情が暴走する。彼らは疑心暗鬼に陥り、自分だけが助かるために、他の家族を殺そうとする。そして、一軒家内での、家族の殺し合いが始まった。